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BMW『iX1』試乗レポート/ハイパフォーマンスなプレミアムコンパクトEV

BMW『iX1』試乗レポート/ハイパフォーマンスなプレミアムコンパクトEV

BMWのSUVタイプの電気自動車で最もコンパクトなモデル『iX1 xDrive30 xLine』に試乗。プレミアムブランドなので価格は安くありませんが、必要十分なバッテリー容量と急速充電の受電能力は、発売から2年が経過した今でもハイパフォーマンスと言えるものでした。

目次

AWDのプレミアムコンパクトSUV

BMWが『BMW iX1 xDrive30 xLine』を発売したのは2023年2月です。BMWの中ではいちばん小さなサイズのSUVモデル『X1』のモデルチェンジに合わせて、電気自動車(EV)のiX1もラインナップしました。

BMWはX1について、オンロードでの走行性能を高めた『SAV(スポーツ・アクティビティ・ビークル)』と呼んでいます。プレミアム・スモール・コンパクト・セグメントという位置付けで、2023年のフルモデルチェンジで3代目になりました。

iX1は前1個、後1個のモーターを備えた四輪駆動(AWD)です。当初は668万円(税込)からでしたが、価格改定があって現在は718万円からになっています。

BMWはその後、2024年5月にiX1のエントリートリムと言える二輪駆動(FWD)の『iX1 eDrive20』を発売。同年夏から納車を開始しました。価格は650万円からです。

●BMW iX1
iX1 xDrive30 xLine AWD バッテリー容量66.5kWh 718万円〜(税込)
iX1 xDrive30 M Sport  AWD バッテリー容量66.5kWh 718万円〜(税込)
iX1 eDrive20 M Sport FWD バッテリー容量66.5kWh 650万円〜(税込)

xDrive30のxLineとM SportはどちらもAWDで、内外装やホイールの色やデザインが違っています。スペック表上の性能差はありません。

一方、1モーターのiX1 eDrive20は、最高出力が150kWと控えめ(と言っても200ps以上)です。

ただFWDのeDrive20と、AWDのxDrive30はバッテリー容量が同じです。そのため単純にkWhあたりの価格を考えるとiX1 eDrive20がお買い得に見えますが、モーター1個と、それに伴う出力の違いを考えると、好みが分かれそうです。

今回、BMWから借りることができたのは、AWDのiX1 xDrive30 xLineでした。AWDだし、車両重量は2トンを超えてるし、幅は1835mmあるしで日本ではスモールとは言い難いサイズですが、全長5m超えの車も多いので相対的に小さいということにしておきます。

発進&停止が上手なBMWのACC

試乗スタートは朝6時半過ぎでした。天候は晴れで、気温は3.5度。まあまあ低いものの、昼間は暖かくなりそうな予報でした。

今回はバッテリー容量が多いので電費のことはあまり気にせず、というか急速充電の性能を確認するために電池残量を減らしたかったので、室温設定は当初25度にしていました。でもエアコンがよく効いて暑すぎたので、途中で23度に下げました。

前日夜には、東名高速から富士山をぐるっと回り中央道に出て、談合坂SAにある150kWの急速充電器で充電するルートを考えていました。でも天気が良かったので富士山がきれいに見えるかなと思って箱根のターンパイク上の大観山駐車場にしました。結果的に、中央道は事故渋滞があったので正解でした。危なかったです。

ただターンパイクだと片道100kmもないのでバッテリー残量が残りすぎます。その場合は箱根の山を下ったり上ったりしながらSOCを下げることにしました。

皮算用はさておき、出発してすぐ、東名高速に入ると軽く渋滞していました。でもBMWのACC(先進運転支援システム)はストップ&ゴーに対応しているのであまり苦になりません。

以前、『i5』の試乗記でも触れましたが、減速から停止までの挙動がとてもスムーズなのは同じ印象でした。

【関連記事】
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自然な減速感が乗りやすいDレンジ

運転モードや機能設定のスイッチ位置などは、BMWのEVはどの車種もほぼ共通した配置になっています。エンジン車から乗り換えても操作に違和感を感じないようにしていることもあり、インパネなども車種間で大きな違いはありません。

運転モードもi5と同じく「スポーツ」、「エフィシェント」、「パーソナル」の3種類です。今回は電費を気にしないというか、いっそ電気を使ってしまいたいくらいなので、パーソナルモードで箱根に向かいました。

Dレンジは、DとBの切り替えです。Dではブレーキペダルと併用、Bではワンペダル操作が可能です。Dではクリープがありますが、Bはありません。

以前に試乗したi5やMINI『Cooper SE』では、Dの時にアクセルペダルから足を離すとコースティングになっていたのですが、iX1は常に回生が効いていました。回生量は3段階(低い、普通、高い)から選べます。

「低い」にすると、アクセルオフで軽く、ほんとに軽く減速する感じです。減速Gに違和感はありません、「普通」はエンジンブレーキが少し強めに効いている感じでした。

「高い」にすると、Bでワンペダルにした時と同じような、かなり強い回生が効きます。アクセルオフでの回生量はBと同程度で、停止する時にブレーキを踏む必要があることだけが違うという感じです。

こうした設定は慣れやドライバーの好みもありますが、個人的にはもう一段階増やしてコースティングがほしいかなあと思いました。とは言え、Dレンジと回生量「低い」の設定は自然な減速感で乗りやすかったので、これはこれでアリだと感じました。

ひとつ希望を言えば、回生量の調整がもっと簡単にできるとベターです。調整はタッチパネルのセンターモニターで行うのですが、深い階層にあるため走行中の切り替えは難しいのです。

回生量の切り替えができるのは運転の楽しさにもプラスになるので、できれば手元で操作できたほうがいいです。ただ、プレミアムクラスであることを考えると、ドライバーが何もしなくても走ることができるよう、余計な操作は切り捨てたのかもしれません。

好天の箱根路を無駄に走る

そうこうしながらターンパイクの大観山駐車場に到着。SOCは57%でした。車載ナビの残量予想とほぼ一致です。

ここから元箱根あたりへの道を上下しながらSOCを下げていくことにしました。目標は、大磯パーキングエリアに着くまでに30%以下にすることです。

区間片道の距離は約7kmです。Dレンジにして、回生量は低めで走ることにしました。

下りでは、距離が短いことと、回生設定を低めにしているためなのか、SOCは58%まで、1%程度しか戻りませんでした。

ちょっと微妙な戻り量ですが、今回に限って言えば回生量は少ない方がいいので、これでOKです。それに回生量を増やす走り方をすればもう少し戻るかもしれません。その後、再び大観山への上りでは10%弱、減らすことができました。

下りではできるだけ電力が戻らないようにして、上りで可能な限り電力を使うというエネルギー的にはひどく無駄な走り方に複雑な気持ちになりますが、仕方ありません。上ってきたターンパイクでは大島や初島が見えるくらい天気が良かったので、気持ちよく走ることができたのが幸いでした。

そんな走り方を繰り返すこと約1時間。SOCを28%程度まで下げることができたので、いつもの箱根駅伝コース、芦ノ湖経由で国道1号線から小田原厚木道路に戻ることにしました。

大観山の駐車場から芦ノ湖の箱根駅伝ミュージアムまでは約5kmの下り坂です。ここでは1〜2%程度回復していたのですが、芦ノ湖から箱根湯本駅までの国道1号線では、大観山からの下りほど電力は戻りません。

距離は、芦ノ湖から箱根湯本駅まで約18kmあります。そういえば以前、『N-VAN:e』で走った時も、あまりSOCは回復しませんでした。これに対してBMW『MINI Cooper SE』で大観山の駐車場からターンパイクを下ったときには約4%を回生できています。

そう考えると、芦ノ湖周辺から東京方面に行くときには、大観山駐車場経由で交通量の少ないターンパイクを下った方が回生できる電力量が大きく、走り方によっては総合的なエネルギー消費量が少ないかもしれません。通行料は掛かりますけども。

回生ブレーキからの充電量は交通状況や走り方にもよるので一概には言えませんが、ルートの高低差と併せて流れの良さなども頭に入れておくのが、EVドライブには吉ということでしょうか。

大磯PAの150kW充電器で106kW受電

とにもかくにも午前中に大磯PAに到着し、iX1の急速充電の受電能力を確認します。結論から言えば、車両側のシステム電圧を考えると、急速充電器の能力をフルに使うことができました。

iX1は、最大130kWで急速充電の受電が可能です。BMWは日本のカタログに急速充電性能を表示していませんが、欧州仕様と同等の性能を確保しています。

急速充電性能を確認するため当初は東名高速道路、海老名SAの90kW器を目指そうと思っていたのですが、スマホアプリの「急速充電ナビ」を見ていたら、小田原厚木道路の大磯PAに150kW器が4口、新たに設置されていることに気がつきました。いわゆる「赤いマルチ」です。

後日確認したら、2月に供用開始したばかりでした。ナイスです。

大磯PAに着いてみると、使用中のEVはいません。場所は第2駐車場と呼ばれるエリアで、大磯PAの奥(出口側)にあります。充電区画には待機スペースもあって便利です。ただ、第2駐車場に入ると大磯ICから一般道へは出られないので、「大磯で下りるんだけど」という人はご注意ください。

さて、到着時のSOCは28%でした。

BMWのEVは充電時に車両側の表示で充電出力の確認ができるのがありがたいです。赤いマルチは出力表示も、電圧、電流の表示もないので、リアルタイムの状態が分かりません。急速充電器の中に表示があるものとないものが混在しているのも理解に苦しみます。急速充電器のユーザーインターフェースの考え方はよくわからないことが多いです。

ということでiX1の表示を見ていると、スタートから40%超くらいまででは最高106kWで、概ね100kW前後で入りました。

赤いマルチは最大350Aで充電可能です。iX1はシステム電圧が286.3Vなので、350Aだと100kWが上限です。大磯PAの赤のマルチとiX1の組み合わせでは、おおむね最大出力が出ていたことになります。

なおiX1の欧州仕様データを見ると、130kWで充電するときの電流は500Aになっています。日本ではこれだけ流せる充電器はないので、その意味でも100kWは日本での上限値と言えます。

充電出力はメーター表示されるのがありがたい。

ブーストモードの影響はほとんどない

赤いマルチは最大150kWです。でもこれはブーストモードの間だけなので、最大出力を出せるのは充電開始から15分間限定です。ちょっと持久力があるウルトラマンっぽいです。

【関連記事】
最大150kW器が4口ズラリ〜EV用急速充電器「赤いマルチ」全国16カ所で順次運用開始(2025年1月17日)

ブーストモード終了後の最大出力は90kWです。でもこの出力はiX1にとっては最大値に近いほか、ブーストモードの間に充電できる電力量を考えると、出力変化による影響はほとんどなさそうです。

計算上、iX1はブーストモードの間に約25〜26kWh、バッテリー容量の約37〜39%を充電できます。ということはSOCが10%以下から充電を始めても、ブーストモードが終わる15分後には45%を超えます。

今回の充電では、SOCが46%程度の時点で出力が90kWほどに下がっていました。

つまりブーストモードが終わる頃にはiX1の受電可能な電力が90kWになっているので、ブーストモード終了の影響はほとんどないと考えてよさそうです。

さて、大磯PAでは30分間の急速充電でSOCは81%まで回復。電力量は充電器側の表示で35.5kWhでした。このくらい入れば十分でしょう。

iX1のバッテリー容量は66.5kWhなので、容量に対して約53%を充電できたことになります。SOCがもう少し少なければブーストモードの間に入る電力量が増えるので、やっぱり30分でSOC70%以上にはなりそうです。

まあ、150kW器でもブーストモードがないにこしたことはありませんが、iX1の充電性能は、今の日本の充電インフラの環境で使うにはちょうどいいようのではないかと思いました。

ここで唐突に余談ですが、iX1のバッテリーのネット容量を試算してみようと思います。充電できた35.5kWhは、SOC表示の約55%分です。ここから逆算すると、バッテリーのネット容量は64.55kWhになります。

一方、欧州仕様の公表値では容量64.7kWhなので、試算結果は妥当な数値だと思えます。バッテリー保護や回生ブレーキ用のバッファーとして約2kWhを確保していることになります。感覚的なものですが、グロスとネットの差がこのくらいなら、バッテリーを無駄に多く積んでいることにはならないでしょう。

もうひとつ余談です。赤いマルチの充電中の本体表示がバグっていたようで、充電の残り時間が出なくなっていました。充電を始めたときには普通に出ていたのですが、途中で表示が「0分」になり、終了時刻の表示がどんどん後ろにずれていったのです。

充電は問題なく30分で終了したので単なる表示エラーのようですが、ちょっと不安になったのでした。設置したばかりなので初期不調でしょうか。

そんなこんなで、iX1はさすがプレミアムクラスと思える総合力でした。価格が高いので当然ではありますが、バッテリー容量や急速充電の性能も十分です。2年前のモデルという印象もありません。BMWのEVに共通する高いポテンシャルを備えた1台だと思います。

取材・文/木野 龍逸

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この記事を書いた人

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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