集合住宅へのEV充電器設置事例【4】賃貸マンション駐車場に大家さんと居住者がテスラ用を設置

電気自動車(EV)普及のポイントでもある集合住宅への充電器設置について、具体的なノウハウを知る事例レポート第4弾。埼玉高速鉄道鳩ヶ谷駅前の賃貸マンションで、大家さんが電柱からメーターまで、住民がメーターから充電プラグまでを設置した事例をご紹介します。

集合住宅へのEV充電器設置事例【4】賃貸マンション駐車場に大家さんと居住者がテスラ用を設置

このシリーズは、しばらく間が開いてしまいましたが、新型コロナウィルスのため、取材にお邪魔しにくい状況が続いていました。そうした中、ようやくお会いしての取材が再開できそうな情勢となってきました。今回は、ご自分から取材OKの申し出をくださった方々です。ありがとうございます。

設置事例のレポート企画シリーズでは、設備の概要、導入の経緯、運用方法(課金など)について、共通したポイントを整理してお届けしています。今回もシリーズ共通のポイントは抑えつつ、賃貸マンションに充電器を設置された大家さんの細井さんと、居住者でテスラ・ユーザーの駒井さんにうかがったお話しをもとにまとめてみました。

【集合住宅へのEV用充電器設置関連 〜 今までの記事】
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充電設備の概要

今回の充電器はテスラ用の「ウォール・コネクター」で、今のところ設置されているのは1基です。場所はマンションに隣接する平置きの駐車場の一角で、4台分だけある屋根付きの駐車スペースの中です。

画面中央右の電柱から、画面左に伸びる電線が、電柱から引いた充電器用の電線。

駐車場の外縁に立つ東京電力の電柱からメーターまでを大家さんの細井さんが、メーターからウォール・コネクターまでは住民でテスラ・ユーザーの駒井さんが経費を支払って設置しました。細井さんが支払った費用は20万円ほどでした。

中央の黒い建物の向かって右端にメーターが見える。画面右上に見えるケーブルが電柱からの電線。画面左の屋根付き駐車場の右端に、テスラのウォール・コネクターがある。

住民の駒井さんは、テスラ指定の工事店を使って充電設備を付けましたが、特に自治体などからの補助金はなく、すべてご自分で支払われました。かかった実費は11万円弱でした。

こうして今や、「200V40A(8kW)」での充電が可能になっています。充電料金ですが、東京電力の電柱から引いた電線にはメーターが付いているので、そこで計量されて請求されます。契約はA契約ではなく「kV契約」で、「夜トク8」を利用し、駒井さんが契約者になっています。

屋根付き車庫に設置された、テスラ・ウォール・コネクター

今のところはテスラ用1台ですが、今後も要望があればテスラ用を増設しても構わないと細井さんは考えているそうです。またテスラ以外のEV用の充電器設置の設置も含め、どのような電力契約が可能か、いろいろと模索されています。

再びのワクワク感と、モデル3の登場

物語は、テスラのイーロン・マスク氏の自然エネルギー利用の考え方と行動を耳にして感銘を受けた大家の細井幸夫さんが、2015年1月にモデルSを購入したところから始まりました。

賃貸マンション「モンパルテ」の大家さんである細井幸夫さん

私は公務員をしていました。重要な役職へのオファーも頂いていたのですが、若い頃から心に決めていた『50歳になったら退職する』を実践したのです。50歳になったら好きなように暮らそう、どうせなら起業しよう、と考えてきました。

テスラの電気自動車(BEV: Battery Electric Vehicle)を知ったとき、若い頃に感じた感動が蘇ってきたのです。そう!スティーブ・ジョブズが作ったMacintosh SE/30に出会った時のワクワク感です。それでモデルSを購入しました。

筆者も、今でもMacintosh SEをはじめ、ピザボックスのLC475、Performa 5230など数台を持ち続けているので、このワクワク感はよく分かります。テスラにはまだ手が届きませんが、テスラのBEVは乗るたびにワクワクするのも事実です。EVsmartの社員用のモデル3にも乗ることもあります。

若い頃から自動車が大好きでした。洗車も好きなんです。ピカピカに磨いてあげて……。でも、テスラに出会う直前の頃は、自動車に感じていたワクワク感もなぜか色褪せていて、洗車もそれほどしなくなっていました。

そんな時に出会ったのがテスラです。このモデルSはのちに友人に譲り、2018年6月にはモデルXに乗り換えました。いつまでも新鮮な感覚が続く、不思議なクルマです。

その後、モデル3が発売され、「これで若い人にもテスラが買えるようになった。しかし戸建てじゃないと充電器を設置しづらい。賃貸マンションに充電器を設置すればもっと買いやすくなるのでは?」と感じ、動き出しました。

『モンパルテ』の外観。建物に向かって右側の地下に入る階段は、埼玉高速鉄道の鳩ヶ谷駅への入り口の一つ。マンション敷地内に駅入り口がある。

そこで細井さんは、住民に会うたびに「テスラはどうか」と話していました。このマンションでは、大家さんと住民の交流が普段から盛んなのです。「海外の高級車を持つような人なら、モデル3に興味を持つのではないか」と細井さんは考えました。

そんな中、長らく乗って来たBMWを手放して、テスラ・モデルSを購入する人がとうとう出て来ました。駒井雄一さんです。

液晶プロジェクタの設置許可でのビックリが、テスラに続く道

モンパルテが最初に設置したテスラ用充電器を使う駒井さん。ことの始まりは、2001年4月に完成したモンパルテの内覧会に来た時でした。

モンパルテ入居開始から住み続ける、テスラ・モデルS ユーザーの駒井雄一さん

住民が自由に使える共用スペースに、当時はかなり高価だった『三管式』のプロジェクターが天井から吊り下げられているのを目にしてビックリしました。

私は映画が好きなので、以前の家でも液晶プロジェクターを使っていました。ただし、建物に傷を付けるような設置はできなかったので、食事を運ぶようなワゴンにプロジェクターだのケーブルだのプレーヤーの一切合切を載せて、使う時はガラガラと移動させていました。

ダメ元で、大家の細井さんに『天井に穴を開けて液晶プロジェクターを設置したりしたらダメですよね……』と訊いてみました。『どうぞ、どうぞ!』という答えを聞いて再びビックリしました。

これで入居を決めたのは言うまでもありません。2001年10月の入居開始から、ずっとここに住んでいます。

スカットル・プレートのテスラ・マークは、細井さんが自らカッティングシートを切って作ったオリジナル。駒井さんへのプレゼント。

当時は、7シリーズや6シリーズ・グランクーペなどBMWを乗り継いでいた駒井さん。モデルSを手に入れて以降の細井さんからの熱心な『誘惑』もあり、人生で一度は通っておきたいと考えて試乗までしていたメルセデス・S500クーペをやめて、モデルSを購入する決意をします。

以前は駐車場関連の会社に勤めていて、クルマ通勤だったのですが、契約している立体駐車場のサイズの問題で、モデルSは購入対象外でした。その後、退職して自身で事業を始めることになったため、駐車場の問題はなくなりました。あとは充電環境をどうするか、という問題だけでした。

向かって左が細井幸夫さん、右は駒井雄一さん。二人ともテスラ・ユーザーであり、細井さんの奥様も今やモデル3に乗っている。

ある日、細井さんに「会社を退職することになりました」と伝えたところ、「え? そうなの? じゃあ駐車場に充電器付けていいから、テスラ買いなよ〜!」の一言が。完全に背中を押されてしまいました。もう買わない理由はありませんでした。テスラの営業担当まで紹介してもらい、すぐに購入しました。

包括的な環境保護の哲学と、借りる側の視点で賃貸マンションを運営する哲学が共鳴

細井さんの経営する賃貸マンション「モンパルテ(monparte)」は、建設当時から、他ではなかなか見られない「哲学」で運営されてきました。完成したのは2001年4月のことです。

50歳で公務員を辞めて起業するとき、私は賃貸マンションの経営を考えていました。ずっと思ってきたのは、「これまでの世の中の賃貸マンションの経営っておかしいな」と言うことです。これを変えてみたい、このマンションにしか無いものを作りたいと考えました。

せっかくご両親から引き継いだ土地を使うなら、ご両親と自分が生きた「証し」になるような「作品」を遺そうと思ったそうです。自分たちだけでなく、借り手の人たちも満足するようなマンションを、です。

賃貸マンション経営は、じつはホテル経営と似ているのではないか、と考えていました。気に入ってもらって、長期滞在してもらう、といった感覚です。

そんななか、せっかく長期『逗留』してくださるお客様に対して、2年ごとに1ヶ月分の家賃と同額の更新料を取る商慣行に違和感を感じてきました。むしろ、長く利用してくださるので、何かお礼をしたいと考えました。

モンパルテの住民が自由に滞在できるハワイ・アラモアナにあるコンドミニアム「利用の手引き」。全戸に配布されていて、駐車場への入り方から、湯沸かし器やお風呂、台所のディスポーザーの使い方などが細かく説明されている。

若い人たちから、「ハワイに行ってきました」とお土産を貰うことが度々あったのですが、その時に「ハワイは何度行ってもいいところですよ」という話をよく聞きました。

それなら、ハワイで皆が使える別荘のようなところがあれば、住民の皆さんが喜んでくれるのではないか、と思い、何度か現地に足を運んで、コンドミニアムを購入してしまいました。

ワイキキ・ビーチに近い、有名な「アラモアナ・ショッピングセンター」のすぐ近くにあり、住民は予約しておけば自由に使えます。

賃貸マンションを建てるにあたって、大手のデベロッパー複数社に話をしてみましたが、出て来た図面はどれも同じようなものでした。スペースを最大に利用した、効率重視・収益重視のものばかりでした。

そこで、私の考え方に共鳴してくれた6人の設計士がコラボして、私の理想を具現化するような特徴的な建物を建てる決断をしました。

結果、モンパルテには、32戸ある部屋のうち同じデザインは最大2部屋、合計で17の異なったパターンの部屋が存在します。筆者は半世紀以上生きてきましたが、このようなマンションには初めて出逢いました。

中庭中央に立つ欅の木。1・2階にはクリニック、、薬局、訪問介護、保育園、美容関係の店舗があり、子育てや介護を含めたサービスがここだけでほぼ完結できるようになっている。

そして、部屋の多様性は「1LDK・2LDK」などの表現では言い表せない構成になっています。「吹き抜けのある部屋」や「隠れ部屋のある部屋」、「メゾネットの部屋」……なかには、「玄関を入ったところが上の階で、吹き抜けを螺旋階段で階下に降りる形式」の部屋まであります。

部屋の大きさも、「一人暮らしで住めるタイプ」から、「結婚して二人で住むタイプ」、そして「子供が生まれたら親子三人で住むタイプ」、「大家族で住んでも余裕のあるタイプ」までさまざまです。

モンパルテに住んでいながら、自分の生活に合った部屋に住み替える、「モンパルテ内引っ越し」も行われています。

モンパルテに入っている保育園。日中は子供たちの楽しそうな声が響く。取材時は日曜の夕方だったので、子供たちも先生もいませんでした。

また、上の階ほど高価な部屋が設置されている一般的なマンションと異なり、下の階にも高価な部屋もあれば、上の階に一人暮らし用の部屋もあり、「エレベーターを降りる階で感じるヒエラルキー」はここには存在しません。

玄関を入ると、階下に降りる階段が見える珍しい形のメゾネットの例。画面左手には上の階の部屋がある。こうした建物は、上から役者さんの姿を俯瞰する撮影に人気がある。出演者が倒れていて、書類が散乱しているシーンとか……。

せっかく賃貸マンションを経営するのですから、住民の方々と仲良くしたいとも考えていました。そこで共用スペースはぐっと広くして、パーティーを開けるようにしました。私の趣味のオーディオも一部ここに持って来て、液晶プロジェクタも設置して、一緒に映画やスポーツ観戦もできるようにしました。

それだけではありませんでした。じつは細井さんと駒井さんには、この共用スペースでお話しをうかがったのですが、傍らにはバーカウンターや冷蔵庫を備えたキッチンもあり、ちょっとしたカフェのようになっていました。当日は細井さんにはアイスコーヒーを淹れていただきました。ごちそうさまでした!

中庭から見た、1階にある共用スペース。カフェのようなスペースは、ゆったりしていて、色々な活動に使える。この日は私たち3人だけの利用だったので、奥のスペース以外は勿体ないので電気を消して使っていました。

さらに、オーディオもなかなか素敵なものが置かれていました。元放送屋の著者としては、機材が気になって仕方ありませんでした。アンバランストのキャノン・コネクターやバナナチップを見ると、血が騒ぎます。この世界では避けて通れないMcIntoshのアンプもありました。

建物の敷地内に駅への入り口がある、はっきり言ってしまえば駅の斜め上に建っているような交通至便なマンションで、こんなサービスがなされている事実には、正直なところ驚きと感動を禁じ得ませんでした。

自然エネルギー利用によって地球を守ろうというイーロン・マスク氏の哲学と、住民に喜んでもらうためにはあらゆることをしようという細井さんの哲学が、こうして「共鳴」したのは、じつは当然のことなのかも知れません。細井さんたちの熱い想いを感じた取材でした。

「作品」の名を残す、さらなる取り組み

今回取材した賃貸マンション「モンパルテ」は、じつは映画やTVドラマに数多く登場しています。こうしたものに姿を遺すのも、細井さんの考え方です。ネット上でググると、モンパルテの名前が、「ロケ地ガイド」のようなサイトに多数書かれています。具体例を見てみましょう。

第43回日本アカデミー賞「最優秀作品賞」を受賞した映画「新聞記者(シム・ウンギョン、松坂桃李、本田翼ほか)」では、主人公である女性新聞記者が自宅で過ごすシーンが出て来ますが、この主人公の部屋はモンパルテで撮影されました。ご覧になった方も、少なくないのでは?

映画「新聞記者」の公式サイトより転載。
映画「新聞記者」の公式サイトより転載。

WOWOWの連続ドラマ「盗まれた顔(玉木宏、内田理央、町田啓太ほか)」も、ここで撮影されたシーンがいくつも登場します。

TBS系列の連続ドラマ「中学聖日記(有村架純、岸谷五朗、吉田羊ほか)」もです。

TBS系列の連続ドラマ「中学聖日記」、TBSの公式サイトより転載。

このほか、テレビ朝日系列で大人気のシリーズ、水谷豊がシリーズ主演を努める「相棒」や、天海祐希主演の「緊急取調室」もです。

日本テレビ系列では、2019年に話題をさらった、ゲイバーのマスターが高校教員に抜擢される、古田新太主演の「俺のスカート、どこ行った?」、北川景子が主演の「家売るオンナの逆襲」などにも登場しています。

このマンションではありませんが、細井さんのお持ちの家では、テレビ朝日系列のドラマ「家政夫のミタゾノ(松岡昌宏、余貴美子、村田光ほか)」のロケも行われています。

細井さんが、お母様のお名前「もん(mon)」さんと、「その一部(parte)」であるという意味で付けた名称「モンパルテ(monparte)」は、これからもロケを受け入れていくそうです。

また、テスラの、そしてBEVの情報発信基地になれないか、様々に模索されています。先日お届けした出光興産のオートシェア記事で、テレビCMで語られた「まわりを変えるより、まず自分たちを変えてみよう」という思いと実践への共感をお伝えしましたが、細井さんの取り組みも「まず自分を変える」実践だと感じます。モンパルテと細井さんの、今後のチャレンジにも注目しています。

なお、モンパルテの空室情報などは、一般的な不動産情報には提供されていません。入居希望の方に対しては、大家の細井さんが必ずお会いしてお話しをうかがうからです。様々な壁紙を試しに貼ってある部屋を見て、壁紙の貼り替えを考えることもできます。

テスラ・ユーザーは入居が優先されます。お部屋の下見、TVや映画でのロケなどは、以下にお問い合わせください。

株式会社イグレック 駒井雄一さん
埼玉県川口市坂下町1-8-16-101
Tel : 048-282-1215  Fax : 048-242-5523
E-mail : yuichikomai1966アットマークgmail.com

「アットマーク」の部分は、もちろん「@」に替えてください。

(取材・文/箱守 知己)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. ほぉーなかなか意識の高い大家さんですな(笑)
    今後コロナ禍でアパートマンションの作り方が効率重視から多様化あるいはプライバシー重視あるいは密を避ける構造になっていくかもしれませんが、エコロジーや住環境への意識が変わった好例と感じました。これは今後へのよき手本かと思います。
    もし自分がアパートの大家になるとしたらソーラー発電+V2H+保守用EVコンセント導入でEV/PHEVオーナーと価値観を共有したいと思うので参考になりますね。

    今後こういう価値観の集合住宅大家を増やす討論会でもあればいいと思いませんか!?

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この記事の著者


					箱守 知己

箱守 知己

1961年生まれ。青山学院大学、東京学芸大学大学院教育学研究科、アメリカ・ワシントン大学(文科省派遣)。職歴は、団体職員(日本放送協会、独立行政法人国立大学)、地方公務員(東京都)、国家公務員(文部教官)、大学非常勤講師、私学常勤・非常勤講師、一般社団法人「電動車輌推進サポート協会(EVSA:Electric Vehicle Support Association)」理事。EVOC(EVオーナーズクラブ)副代表。一般社団法人「CHAdeMO協議会」広報ディレクター。 電気自動車以外の分野では、高等学校検定教科書執筆、大修館書店「英語教育ハンドブック(高校編)」、旺文社「傾向と対策〜国立大学リスニング」・「国立大学二次試験&私立大学リスニング」ほか。

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