猛暑&電力需給ひっ迫でEVはどうなのか? V2X(V2LやV2H)を理解しておく

まだ6月なのに、いきなり関東や東海、九州などで梅雨明けが宣言されました。東京でも連日の猛暑。「電力需給ひっ迫注意報」が出ています。はたして、電気自動車は電力需要の敵なのか。そして、特長である「V2X」とは何なのか。基礎知識をまとめてみました。

猛暑&電力需給ひっ迫でEVはどうなのか? V2X(V2LやV2H)を理解しておく

EVは電力需給の敵なのか?

6月27日、関東甲信や東海地方、九州南部などの梅雨明けが宣言されました。関東甲信地方では1951年の統計開始史上、最も早い梅雨明けとなったそうです。まだ6月だというのに、東京は連日35度を超える猛暑が続き、東京電力管内には政府から「15時~18時の時間帯を中心に、できる限りの節電をお願いします」とする「電力需給ひっ迫注意報」が発令されています。

軽井沢、白糸の滝の写真で少しでも涼やかさを感じていただければ、と。

「電力がピンチなのに電気自動車がぁ!」という意見を目にすることがしばしばあります。本当でしょうか?

電気自動車がいつ充電しているのか。少し古いですけど、平成24年(2012年)に国土交通省がまとめた「駐車場等への充電施設の設置に関する ガイドライン」に、充電の時間帯に関する実態調査結果が紹介されています。

国交省資料より引用。

とくに個人所有の場合、電気自動車のほとんどが、深夜の時間帯に充電していることがわかります。当時、日本、いや世界のEVといえば、バッテリー容量24kWhの日産リーフか、16kWhの三菱i-MiEVがほとんどでした。今はリーフのベースモデルも40kWhになるなど市販EVのバッテリー容量は大増量しているので、「自宅などでの基礎充電を行うのは深夜だけ」という傾向はさらに顕著になっていると思われます。

ソニー損保が2020年に実施した「全国カーライフ実態調査」によると、自家用車の年間走行距離の平均は6017km。つまり、1日当たり16.5kmほどなので、自宅で充電可能なEVユーザーが実際に充電するのは、「深夜、週に1〜2回程度」というのが大多数であると推定できます。

拠点ガレージに充電設備がないユーザーの場合、近くのディーラーなどに設置された急速充電器を日常的に利用しているケースがあります。また、航続距離を超えた遠出をする場合、高速道路SAPAなどでの急速充電(経路充電)も必要です。こうした急速充電は節電すべき時間帯を避ける配慮をEVユーザーに広く徹底する必要はありますが。

「電気自動車への充電が電力需給をさらに圧迫する」といった風説に合理的な根拠はないということがわかります。

「V2X」の基礎知識

大容量バッテリーを搭載した電気自動車を蓄電池として活用すれば、電力への再生可能エネルギー普及拡大を支え、電力需給の平準化に貢献するポテンシャルがあります。と、EVsmartブログではいろんな記事で「V2L」や「V2H」、「V2G」に関する情報をお伝えしていますが、この「V2X」(取り出す電気の活用先をXとして統括した用語)の基礎知識を端的にまとめた記事がまだなかったことに気が付きました。

今日は、この暑さで外出を控えてネット散歩をする方も多いでしょうし。いい機会なので簡潔にまとめておきます。

V2L=Vehicle to Load

まず、「V2L」というのは「Vehicle to Load」の略。EV(PHEVを含む)の電気を屋外に取り出す仕組みを意味しています。エンジン車にも当然の装備であるシガーソケットから12Vを取り出したり、最近はほとんどの乗用車が搭載しているUSBポートから電気を取り出すのも、V2Lのひとつです。

電気自動車の場合、エンジン(発電機)から排気ガスを出すことなく、駆動用の大容量バッテリーの電気を活用することが可能になります。

AC100Vの電気をEVから取り出す方法はいくつかあります。

●車内にAC100Vのアクセサリーコンセントを装備している。
<車種例>
ヒョンデ IONIQ 5
三菱 アウトランダーPHEV、エクリプスクロスPHEV
ホンダ Honda e(一部グレードのみ)
トヨタ bZ4X、プリウスPHEV
スバル ソルテラ
など

●普通充電口からAC100Vを取り出すアダプターが用意されている。
<車種例>
ヒョンデ IONIQ 5
トヨタ プリウスPHV、RAV4PHV

IONIQ 5に標準装備されているV2Lコネクター。

など

●急速充電口に外部機器(ニチコンパワームーバなど)を接続する。
<車種例>
日産リーフ、アリア、サクラ
三菱 eKクロスEV、アウトランダーPHEV、エクリプスクロスPHEV
ホンダ Honda e
トヨタ bZ4X、プリウスPHV、RAV4PHV
レクサス UX300e
スバル ソルテラ
マツダ MX-30 EV
ヒョンデ IONIQ 5
など

ニチコン パワームーバーライト

車種例は順不同で例示しました。車内に100Vコンセントがあれば最も手軽なのですが、装備している車種は限定的。

トヨタやヒョンデでは、普通充電口からAC100Vを取り出すアダプター(コネクター)を用意しています。ただ、bZ4XなどのBEVでは装備表に記載がありません。

その他、大多数のEVで100V電源を取り出すには、ニチコンのパワームーバなど専用の外部機器が必要です。専用機器は重くて高価。また、テスラをはじめ海外メーカーのEVのほとんどはV2Xに非対応なので、外部機器を接続することはできません。

【関連記事】
EVで電化オートキャンプを初体験〜『Honda e』や『IONIQ 5』がランデブー(2022年5月27日)
美味しいEV生活〜ヒョンデ IONIQ 5 をモバイルキッチンカーとして使ってみた!(2022年5月24日)
電気自動車から電気を取り出す〜ニチコンが『パワー・ムーバー ライト』を発表(2021年7月2日)

V2H=Vehicle to Home

EVの大容量バッテリーから電力を取り出し、分電盤を通じて家庭の電力として使用するシステムで、ニチコンのEVパワーステーションなどの外部機器が必要です。また、一般家庭でなくオフィスビルなどとの電力融通を行う場合、V2B(Vehicle to Building)と呼ぶことがあります。

ニチコン EVパワーステーション

V2Lと同様に、ヒョンデ IONIQ 5を除く輸入車EVは非対応。マツダ MX-30 EVは、可搬型給電器によるV2Lへの対応プラグラムを提供することを2021年秋に発表しましたが、V2Hにはまだ非対応というちょっと不思議な仕様になっています。

EVユーザーの中には、自宅の屋根に太陽光発電パネルを設置してV2H機器を導入し、昼間、発電した電気をEVに蓄えて、夜間などにEVの電力を家庭で使うというライフスタイルを実践している方がたくさんいます。

定置型蓄電池を活用するなど、蓄えられる電力量と使用する電力量のバランスを考慮したシステムを構築すれば、系統電力から切り離して電力エネルギーを自給自足する、いわゆる「オフグリッド」とすることも不可能ではありません。

【関連記事】
太陽光発電とEVでエネルギー自給自足を目指した家~飯田哲也氏の思いと気付き(2022年5月25日)
太陽光発電と電気自動車でVPP普及を目指す福岡『リフェコ』のチャレンジを応援したい(2022年3月17日)
千葉大停電2019を電気自動車とV2Hで乗り切った被災者の体験談(2019年9月25日)
ニチコンが低価格39万8千円のV2Hシステムを2019年6月発売(2019年7月7日)

V2G=Vehicle to Grid

一定の地域の電力網を高度に制御可能なスマートグリッドとして構築し、地域内で接続したEVの大容量バッテリー、また、大容量の定置型蓄電池などに蓄えた電力をスマートグリッド内で活用するシステムを意味します。

EVはもちろん、V2Gに対応したV2H機器、さらにスマートグリッドを構築するためのスマートメーターやホームエネルギーマネージメント(HEM)システムなどの普及が必要で、世界各地での実証やチャレンジが進められている技術です。

【関連記事】
太陽光とEV&蓄電池を活用して電力自給の住宅街〜さいたま市で『エネプラザ』運用開始【追記版】(2021年12月29日)
テスラの大型蓄電システム『メガパック』 が日本に上陸〜再エネ電力活用の進展へ(2021年5月28日)
電気自動車導入拡大における電力ネットワークの課題(2021年4月30日)

EVの普及がエネルギー安全保障への第一歩

「電力がピンチなのに電気自動車がぁ! 」という意見と逆説的に「EVは再エネ普及や電力需給の平準化にも貢献する」といった見方がありますが、ひとつの家庭で太陽光発電と組み合わせた電力自給自足を実現するにも、V2Hの専用機器が不可欠。広く社会の電力供給網を支えるV2Gの実現は、まだ「構想」段階であるのが現実ではあります。

ことにV2Lは、災害などの非常時にEVを移動する電源として活用する手段として注目されることが多いですが、市販されているEV車種の多くにはAC100Vを取り出すアクセサリーコンセントすら装備されていないのは、ちょっと惜しいところです。DC-ACインバータなど、コンセントを装着するためのコストは掛かるのでしょうけど。アウトドアレジャーでの利便性などを考えると、パーキングサポートとか使わない先進機能よりAC100Vのコンセントを!(個人的な意見です)と渇望します。

なにはともあれ、まずはEVが日本社会に普及しなければ、はじめの一歩も踏み出せません。脱炭素モビリティを実現するには、EVとともに電力の再エネ化が不可欠。V2Gの進展には電力会社や住宅建築会社をはじめ、社会全体、国や自治体の決意とチャレンジが必要でしょう。

千里の道も一歩から。はじめの一歩を踏み出さなければ、どこにも行き着くことができないのは当然の理屈です。おりしも、ロシアのウクライナ侵攻で世界のエネルギー需給がピンチに見舞われています。モビリティのEV化は、日本にとって脱石油文化への一歩でもあり、大きく言えばエネルギー安全保障の新たな時代へ踏み出すための第一歩とも言えるでしょう。

EVシフトに乗り遅れ、日本の屋台骨を支える自動車産業が衰退への道を転げ落ちるのは、日本人である我々にとって最悪のシナリオでもあります。

日本の明るい未来のために、私はこれからもEVを愛していこうと思います。

(文/寄本 好則)
※冒頭写真は三菱エクリプスクロスPHEVのV2L風景。

この記事のコメント(新着順)4件

  1. すでにi-MiEV(M)+MiEVpowerBOXで10.5kWhながらV2L対応ですー(笑)
    ただし今後eKクロスEV(20kWh)へ買替となるとpowerBOXの対応可否が問われます…システム自体はニチコンPowerMoverと変わらんとは思いますがファームウェアとの相性問題はあるかもですね。
    電力使用量の少ない深夜帯に自宅普通充電するのが吉。どの時間帯が安いか気になる方は電力スポット価格を公示するJEPX公式サイトで見るのが宜しいでしょう。サイト欄にリンク張りましたんでどうぞ。
    電気主任技術者の目線でも高圧受電設備での急速充電は電力平準化に反しているのは明らか!逆に普通充電は平準化に寄与し電気設備(特に変圧器)の使用効率も上がります。
    とはいえ電気矢として急な呼び出しに急速充電を使わざるを得ないときもあります。そこで僕は出かける前にJEPXの価格チャートを頭に入れ、深夜帯あるいはスポット単価の安い午前中に充電して午後は充電しない運用を心がけてます。これが処世術のひとつ。

  2. こんばんは。

    本文中の「節電すべき時間帯に(急速充電)を避ける」は現実的な対応になると思います。
    東電管内では電力需給逼迫注意報が3日間(6月29日現在)継続しており、未だ綱渡りの様相です。
    そんな中でユーザーができることのひとつかもしれません。

    V2Lなどは、非常(停電)時に役立つ機能かと思うので車両側に100Vコンセントが設置される車種が増えてくるといいですね。
    トヨタのハイブリッド車でも100Vコンセント設置車種が増えてますが、BEVでも前向きに検討してほしいです(パワームーバーライトでも高価な気が…)。

  3. カロフォルニア州のゼロエミッション車の市場開発戦略レポートのURLを添付します。
    https://static.business.ca.gov/wp-content/uploads/2021/02/ZEV_Strategy_Feb2021.pdf
    EV普及に向けては、関係省庁・団体の総合的な取り組みが重要です。達成すべき目標は、カーボンニュートラルな持続可能な循環型社会の構築です。この動きに乗り遅れると、日本の自動車産業の未来は無いです。

  4. 日本においてはV2X機能はは非常に重要ですよね。
    私はV2X機能に対応している車両(EV、PHV問わず)に対しては今以上に手厚い補助金を出すべきだと思いますし、逆に対応していないEVに大しては補助金を全額カットしてもいいと思っています。V2Hに対応させる気のない海外メーカーへの強力な圧力になると思うので。
    まあテスラは対応する気がないので無駄かも知れませんがね。ヒュンダイは素晴らしい

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

執筆した記事