BYDの王伝福会長が「電気自動車はエンジン車を上回っている」と講演

2021年1月16日、中国、BYDの王伝福会長が『百人会』の講演で、自動車電動化は不可逆的な世界の流れとなっていて完全な電化促進が緊急課題であることを指摘。電気自動車が多くの点でエンジン車を凌駕しているという見解を示しました。

BYDの王伝福会長が「電気自動車はエンジン車を上回っている」と講演

自動車電動化戦国時代の秀吉のような人

2021年1月16日、中国の電気自動車協会といえる『百人会』が開催した「自動車のイノベーションと産業改革」をテーマとしたフォーラムでBYDの王伝福(ワン・チュアンフー)会長が講演の壇上に立ち、自動車の電動化に関する見解を語りました。

王氏は「世界における自動車電動化の流れは不可逆的」とした上で、「近年、電気自動車のバッテリー、モーター、電子制御技術はますます成熟しており、加速、騒音、エネルギー消費、メンテナンスの利便性、インテリジェンス、およびライフサイクル全体のコストの点で燃料自動車を上回っている」と指摘。「自動車の完全な電動化を加速することは、世界経済における先進国と自動車大国にとって戦略的な選択」であり、世界最大の石油輸入国である中国にとっては「主要な戦略的安全保障」でもあること。また、自動車電動化を古代中国の歴史になぞらえて「春秋時代から戦国時代に入った」という見方を示しました。

BYD(比亜迪股份有限公司)は1995年に王氏が創業した中国企業で、当初は携帯電話用リチウムイオン電池のメーカーでした。2003年には小会社として『比亜迪汽車』を設立。2020年の電動車(電気自動車とプラグインハイブリッド車)販売台数ランキング(2020年1〜11月)では、テスラ、フォルクスワーゲンに次ぐ第3位となっています。

王伝福会長。

王伝福会長は1966年安徽省生まれ。13歳の時に父親を病で失い、苦しい家計の中、兄の支えによって大学に進学して電池の研究者となり、1993年に大学院が設立した電池会社の社長に就任。1995年には独立してBYDを創業し、携帯電話用電池で成功し、自動車事業に進出を果たしました。

2009年にはアメリカの『フォーブス』誌が発表した富豪ランキングで王氏が中国のトップに輝いたことが話題になりました。まさにアメリカのイーロン・マスク。あるいは、苦労して貧しい家庭から飛躍した点で、電気自動車戦国時代の太閤秀吉ともいえる人物です。

電気自動車はさまざまな点でエンジン車を上回っている

『第一电动(電動)』という中国メディアに王会長の講演全文が掲載されていたので、改めてポイントをピックアップしておきます。

汽车电动化方向非常明确,趋势不可逆转。

自動車電動化の方向性は非常に明確であり、その傾向は不可逆的です。

王氏はまず、自動車産業が大きな変革の時代を迎えていることを挙げ、電動化の方向性は「不可逆的」であるという見解を示しました。さらに、中国の電気自動車普及率が「2005年から2015年までの10年間で1%を超え、206年から2019年前半までの3年ほどで1%から5%、2020年12月には9%へと急上昇」していて、これは「業界のあらゆる分野で、確固たる自信を持ち、変化を受け入れ、協力した結果である」としています。

随着近年来电动车的电池、电机、电控等技术越来越成熟,在加速、噪音、能耗、维修便利性、智能化和全生命周期成本等方面已全面超越了燃油车,电动车全面替代燃油车的时机已成熟。

近年、電気自動車のバッテリー、モーター、電子制御技術が成熟するにつれて、加速、騒音、エネルギー消費、メンテナンスの利便性、インテリジェンス、およびライフサイクル全体のコストの点でエンジン車を上回っています。 電気自動車がエンジン車に完全に取って代わる時が来ています。

続いて、2020年11月に中国政府が『新能源汽车产业发展规划(新エネルギー自動車産業開発計画)』を交付したことに触れ、「2020年の深センと上海の乗用車電化の普及率はともに20%を超えた」こと、そして「電気自動車がさまざまな面でエンジン車を上回っており、電気自動車がエンジン車に完全に取って代わる時が来ている」と指摘。自動車産業の変革は「春秋時代から戦国時代に入った」、つまり、小さなベンチャーが小さな陣地争いをする段階から、大国同士が天下統一のための戦いを繰り広げる段階に入ったという見方を示します。

惟有奋进,方可成功。

前進することによってのみ成功することができます。

さらに「世界の17の国と25の都市が自動車の完全電動化に向けた目標を策定」していることを挙げ、自動車の完全電動化を加速することが「世界経済における先進国と自動車大国にとって戦略的な選択」となっていると指摘。世界最大の石油輸入国である中国にとっては「国家情勢の観点から、自動車の完全な電動化を促進することがより緊急課題」であり「主要な戦略的安全保障」であるという見解を示しました。

私家车电动化需要插电混动和纯电动双管齐下。

自家用車の電化には、プラグインハイブリッド車と純粋な電気車の両方が必要です。

最後に、電動車普及に向けた課題を指摘。第一にバッテリーなど「電気自動車の安全規制や基準を継続的に改善すること」の必要性。第二に中国独自のデュアル規制(関連記事)を合理的な仕組みとして確立すること。そして第三のポイントとして、ことに自家用車においてスムーズな電動化を促進するためには「BEVとPHEVの両方が必要である」という見方を示しました。

講演の前段で『唐(Tang)』などエンジン車、PHEV、そしてEVをラインアップする車種の先進技術を紹介していたことを受けて、より現実的な戦略まで示したといえます。

王氏が講演した百人会のフォーラムでは、ほかにも複数の自動車メーカーや政府のキーパーソンなどが講演。王氏と同様に電動化推進への強い意欲を示しました。

※ 記事内画像はBYD公式サイトより引用。

(文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)6件

  1. BYDといえばEVバスのイメージでしたがここではSUVで押してきましたね。
    これは結構インパクトがあります。
    BYDといえばEVOCブログのeddyさんが以前フォークリフトを紹介していて知りました。
    これはテスラ以上の脅威ですよ。

  2. 日本じゃガソリン新車販売は2030年まで
    HV新車販売は2035年までだけど
    PHV新車販売はもっと先まで許されるんですかね。

    1. ノビ 様、コメントありがとうございます。現時点で、日本国内ではガソリン車やハイブリッドの新車販売禁止について、具体的な年度が決まったわけではないです。
      https://blog.evsmart.net/ev-news/japan-may-ban-gas-cars-in-mid-2030s/
      現時点では、この規制から、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車は除かれる見込みです。今後の情報が判明したら、またお知らせします。
      なお、世界各国の状況をこちらの記事で追いかけていますので、よろしければご覧ください。
      https://blog.evsmart.net/ev-news/global-petrol-gas-car-ban/

    1. 中国ではnev(新エネルギー車)という用語が一般的に使われて、EV、PHV、FCVが含まれています。
      hevの動力源はガソリンエンジンなので、nevに入れない、ただ燃費がいいガソリン車とみなされて、エコカーと呼ばれます。
      PHVが入る理由は通常バッテリーで走行するので、EVとほぼ変わらないとみなされます。

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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