LG Chemがポーランドのバッテリー工場を2018年より稼働

LG化学(LG Chem)がポーランドのヴロツワフ地域コビェルジチェにおいて建設中の、EV用バッテリー生産工場を2018年初頭より稼働させると発表しました。

LG Chemがポーランドのバッテリー工場を2018年より稼働

LG化学のEVバッテリー工場計画自体は2年前にアナウンスされ、当初は年産5万個を目指していました。ところが1年前の2016年10月に着工を発表した時点では、一度の充電で320㎞の航続距離が可能な高性能バッテリーを年間10万個以上と、生産規模を倍増。同時に生産立ち上げも2017年前半予定としていたので、半年以上の遅れを伴いましたが、いよいよ稼働段階に入ることは大きなファクトといえます。なぜならそれは、欧州地域で初めて大量生産EV用バッテリー、リチウムイオン電池セルを製造する工場が動き出すことを意味するからです。

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テスラがアメリカのネバダ州に「ギガファクトリー」を稼働させて以来、計画中のバッテリー工場はインフラ内での単位というか、年間に供給できる電力量でその規模や効率を測られる傾向が強まっており、LG化学のポーランド工場は6GWhに相当します。現在、テスラは欧州でもバッテリー工場建設を計画していますが、他方では元テスラの役員が立ち上げたノースボルトやスイスの化学メーカーであるABBも自前の「ギガファクトリー」建設に動いており、ダイムラー・グループもドイツ国内カーメンツにおけるバッテリー工場に500万ユーロ(約700億円)を投資しています。ちなみにLG化学とノースボルトの電池工場はリチウムイオン電池セルを製造する工場であり、ダイムラーの電池工場はリチウムイオン電池セルを組み立てて電池パックを製造する工場、という違いはあります。

いずれにせよ、これまでリチウムイオン電池セルの生産といえばアジア地域が圧倒的に優勢でしたから、欧州の自動車メーカーにとっては組立ラインまでの供給ロジスティックの大幅な圧縮が実現します。単なる輸送コストの削減だけでなく、ジャストインタイム方式が今や常識である自動車の組立ラインにバッテリーが安定供給されること、研究開発面でもバッテリー・サプライヤーと協業関係をより密にできるメリットがあります。

LG Chemは2020年にEV用バッテリーセル供給トップを目指す

LG化学はすでに2016年より、GMグループやダイムラー・グループに、具体的には2016年から生産されているシボレー・ボルト(BOLT)やスマート・フォーツーEDとフォーフォーEDに、リチウムイオン・バッテリーを供給しています。今後もLG化学から調達予定のコンストラクターは、GM(BOLT/VOLT)、ルノー(ゾエ、トゥイジー、カングーZE)、フォード(フォーカス・エレクトリック)、ボルボ(XC90)など。日産の新型リーフ60kWhもLG化学から調達するとの噂がある一方、スマートを除くダイムラー・グループ、つまりメルセデス・ベンツはSKイノベーションから、BMWとフォルクスワーゲンはサムスンSDIからの調達が予定されています。

ポーランド・コビェルジチェ工場が稼働すれば、LG化学は韓国の梧倉(オチャン)で10万個=6GWh、中国の南京で5万個=3GWh、アメリカのホーランドで3万個=1.8GWh、ポーランドのヴロツワフで10万個=6GWhという、4拠点で合計28万個=16.8GWhの生産供給体制を実現させます。グローバルに見て、米国と中国と極東、そして欧州というピュアEVマーケットのシェア9割を占める地域をカバーする戦略なのです。

LG化学がグローバル生産能力の1/3以上に相当する10万基をポーランド工場に割く態勢からして、自動車メーカーの組立工場が集中する欧州地域の比重、ひいては直近の欧州市場におけるEV需要拡大の可能性が、窺えるでしょう。(文 南陽一浩)

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					南陽 一浩

南陽 一浩

1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。出版社勤務を経てフリーランスのライターに。2001年に渡仏しランス・シャンパーニュ・アルデンヌ大学にて修士号取得。パリを拠点に自動車・時計・男性ファッション・旅行等の分野において、おもに日仏の自動車専門誌や男性誌に寄稿。企業や美術館のリサーチやコーディネイト、通訳も手がける。2014年に帰国、活動の場を東京に移し、雑誌全般とウェブ媒体で試乗記やコラム、紀行文等を担当。

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