東京都小池知事の「2030年脱ガソリン車100%」明言は、脱炭素社会への前進なのか? 〜ユーザーの一票が問われています

12月8日、小池知事が都内で販売される新車を2030年までに「脱ガソリン車」とする方針を明言しました。でも、ハイブリッド車を容認するのは、世界的な「脱炭素」への動きからするとむしろ「後退」にもなりかねません。ポイントを整理してみます。

東京都小池知事の「2030年脱ガソリン車100%」明言は、脱炭素社会への前進なのか? 〜ニッポンのユーザーの一票が問われています

※冒頭画像に、あえて「越前ガニ」を使った理由は、「カニが恋しい季節だから」ではなく、本文を読んでいただければわかるはず!

東京都は2030年に50%のZEV化を目指していた

小池都知事が、都内で販売される新車を2030年までに「脱ガソリン車」とする方針を都議会で明言したことが、全国紙などでも大きなニュースになりました。数日前、日本政府がガソリン車の新車販売を2030年代半ばに禁止する方向であることが報じられたことを受け、東京都は5年ほど早く目標を設定するということです。

でも、今回の方針で2030年までに新車販売が禁止される「ガソリン車」には、ハイブリッド車(HV)は含まれていません。車検証の「燃料の種類」欄にはしっかり「ガソリン」とだけ記載されているHVですが、ひとまず「脱ガソリン車」として認めるようです。ちなみに、プラグインハイブリッド車(PHEV)の燃料の種類は「ガソリン・電気」となっています。

このニュースから受けた私の第一印象は「えっ? 東京都もHVを認めちゃうの?」でした。今年2月の記事『東京都「ZEV普及プログラム」に電気自動車ユーザー目線で5つの提言』でお伝えしたように、そもそも東京都は、2030年に「都内乗用車新車販売台数に占めるZEV割合」を50%に、2050年には「都内で走る自動車は全てZEV化」するという目標を発表していました。

ZEVとは「Zero Emission Vehicle」=排気ガスを出さない自動車です。当然、事実上ガソリン車であるHVは含まれません。

東京都の担当部署に確認してみました

本当に、HVを認めるのか。東京都「ZEV普及プログラム」の取材時にも話を聞いた、東京都の次世代エネルギー推進課(ZEV推進担当課)に電話で確認してみました。

その結果、はい、HVは「脱ガソリン車」に含まれます。

「ZEV普及プログラムで2030年の目標としていた50%を100%に増やすけれど、HVも含むということです。ただし、ZEVを50%としていた旗は下ろさず、2030年にZEV比率50%(脱ガソリン車100%とともに)を目指してがんばっていきます」(ZEV推進担当課長 ※以下同)

なるほど、100%の達成を2050年から20年も前倒しで目標にするのだから、HVも入れておこうということですね。ただ、HVを含んだ脱ガソリン車100%の目標を達成しても、ほとんどがHVでは脱炭素化の意義は半減します。念のため確認すると、2050年に100%をZEVとする東京都の目標は「変わっていません」とのことでした。

目標達成のための具体策は?

担当部署に確認したのは、知事発言の翌日でした。

2030年に50%、2050年に100%とするZEV普及の目標は変わっていないことも含めて、脱ガソリン車100%を目指して東京都としてどんな施策を講じていくのでしょうか。と、この質問に対しては「知事の方針表明があったばかりで、まさに今、都としての具体策を検討しようとしているところ」という回答でした。

ZEV推進のために、東京都では以下のような施策がすでに進められています。

● 2025年までに公共用充電器5000基を目標に整備(2019年現在では約2500基)。
● 2030年までに急速充電器1000基を目標に整備(2019年現在では約300基)。
● 2030年までに水素ステーション150カ所を目標に整備(2019年現在では14カ所)。
● 電気自動車やプラグインハイブリッド車購入への補助金。
● 外部給電機導入への補助金。
● 集合住宅への充電設備導入への補助金。
● V2H(ビークル・トゥ・ホーム)システム導入への補助金。

このほか、バスなどの商用車、二輪車のZEV化への補助事業なども実施されています。こうした補助金などは国の施策として実施されているものも多く、東京都ではさらに「上乗せ」した助成を行うことで、ユーザーがZEVを選択しやすくなることを目指しているのです。

『ZEV普及プログラム』の中で、ZEV普及のための具体的な柱として挙げられていたのは、次の3つ。

● ZEV普及を支えるインフラの確保。
● 乗用車・バス・バイクなど車両のZEV化促進。
● 社会定着に向けた機運醸成。

東京都の具体的施策と見比べて、足りないと感じるのは「社会定着に向けた機運醸成」、つまり、ユーザーの意識や、メーカーの姿勢などに関する課題です。

東京都『ZEV普及プログラム』より引用。

率直に言って、2030年にZEV50%を目指すには、ユーザーにとっての選択肢、つまり車種のバリエーションがあまりにも足りません(欧州メーカーのおかげで今年から来年にかけて一気に増えてきてますが)。降雪地域のユーザーが4WDの電気自動車を買おうと思ったら、テスラや欧州メーカーの700万〜1000万円クラスの車種しかないのです。

通勤で軽自動車を使っている人が「中国で発売されている100万円で200km走れる電気自動車が欲しいな」と思っても、日本の自動車メーカーからそんな電気自動車が発売される気配(日産&三菱からもうすぐ発表されるはずの軽自動車EVには期待していますが)はありません。

ZEV ≒ 電気自動車が欲しいと思っても、欲しいクルマ、買えるクルマがないのですから、日本の大多数の自動車ユーザーは「電気自動車なんて、まだまだ」と考えているのが実状です。

2030年代に「脱ガソリン車」100%の理由

そもそも、日本政府が「2030年代後半に100%、HVを含む脱ガソリン車とする」という方針を明示したのは、今年3月に策定された『乗用車の2030年度燃費基準』に基づく施策だと思われます。

2030年度燃費基準(車両重量などの条件があるため推定値)は、25.4km/ℓ。これは、HVなら達成可能ですが、普通のガソリン車やディーゼル車、つまりエンジン車では新たな大発明がないと達成できない水準の数値です。そしてまた、最低限このレベルは実現しないと、2050年にカーボンニュートラルなんてことは到底実現できないでしょう。

【関連情報】
乗用車の2030年度燃費基準を策定しました(経済産業省)

日本政府が「2030年代後半」、小池知事が「2030年」とした「HVを含む脱ガソリン車100%」は、すでに決まっている『2030年度燃費基準』を下敷きにした目標であるからこそ、ここまでは達成できるHVを容認していると言えます。

この燃費基準は「日本版CAFE(企業別平均燃費基準)規制」とも言えますが、年間で規制値に達しない場合「100万円以下の罰金」と、大企業である自動車メーカーにとっては「ま、いいか」ってくらいの金額です。平均燃費なので、基準を達成できない車種は認可しないといった強力な罰則が設けられるかどうかはまだよくわかりません。東京都にしても、以前のディーゼル車規制で事業者に罰金を課したほどのペナルティは今のところ考えていない(これから検討なので、明言していただけるはずもなく)ようでした。

引き合いに出したついでに言及しておくと、『2030年度燃費基準』には電気自動車やPHEVも規制対象に含まれていて、「電気自動車及びプラグインハイブリッド自動車について、ガソリン自動車等と比較可能にするため、ガソリンや電力等が車両に供給されるよりも上流側のエネルギー消費効率を考慮したWell-to-Wheelの考え方を用いて評価する」という説明が添えられています。

仰るとおり、電気自動車は電気自動車だけが普及しても、脱炭素化への貢献は限定的で、発電の脱炭素化が大切です。燃費基準を策定し「WtoW」の条件を添えているのは、発電事業も所管する経済産業省ですから、発電の脱炭素化=再生可能エネルギー普及にも力を注いでくれることでしょう。

ユーザーとして「選ぶ」意思表示

小池知事の今回の議会での発言は、もしかすると先走りだったのかも知れないし、すでに東京都が進めていたZEV推進を、やや慎重な国のレベルに引き戻してしまう懸念を感じます。

でも、こうして整理してみると、東京都は地方自治体としてすでに先進的な取組を実践していることを再認識しました。

HVがダメ、と言っているのではありません。選択肢は幅広いほうが社会としては健全です。ポイントは「世界で支持されるZEVも揃えておくべきだ」ということです。

低炭素と脱炭素は「カニかまぼこ」と「越前ガニの浜茹で」くらい違うものです。HVは低炭素ではあっても脱炭素ではありません。

近い将来、発電を含めた社会全体が脱炭素を推進することで、もしかすると乗用車は低炭素(HVやPHEV)でもカーボンニュートラルにできるじゃん、ということになる可能性もあります。

でも、個人的な思いで恐縮ですが、電気自動車のほうが乗り物としてエンジン車より気持ちいいのです。世界のユーザーの多くが電気自動車の気持ちよさに気付いて選ぶようになり、その時、日本メーカーがまだHVに依存していて、電気自動車の車種を揃えられずにいるとしたら、自動車市場でのシェアを失うのにさほどの時間はかからないでしょう。

あえて断言しておきます。自動車の電動化が急速に進むのは、もう間違いありません。

日本の自動車メーカーには、一日も早くテスラより安くて気持ちいい電気自動車のラインアップを世界の市場にぶちかまして欲しいと願います。

そしてユーザー。SNSなどでは「日本の行政がぁ」といった叫びをよく見ますが、やるべきことに二の足を踏んでいたり、動こうとしない自治体があるとしたら、それもまたユーザーの醸し出す「機運」が原因かも知れません。

一般大衆としては、自分が乗るクルマを選ぶのが選挙での一票にも似た意思表示。まだ電気自動車に乗っていない方も、脱炭素社会、カーボンユートラルな社会、また、自動車産業が壊滅しない日本社会を望むのであれば、ZEVを選択することを考えてみてほしいな、と思うのでした。

(取材・文/寄本 好則)

7 thoughts on “東京都小池知事の「2030年脱ガソリン車100%」明言は、脱炭素社会への前進なのか? 〜ユーザーの一票が問われています”

  1. 1充電で50km走れる程のPHV迄でないと、ただのHVやマイルドHV含んじゃダメでしょ!

  2. 選択肢が増えない事には選びようがない。
    EVは個人としてはリーフ、PHEVは三菱エクリプスPHEV一択。

    エクリプスPHEV格好イイ(^ ^)

    みやもっちゃん
    >2020年12月13日 6:38 PM
    1充電で50km走れる程のPHV迄でないと、

    確かに。話変わりますが、これだけの距離があれば十分ですよね。今の勤務先でも2日間は充電無しで走れます。

  3. 維持管理費を踏まえると、BEV車が一番良いというのは分かっているので、evsmartさんの社用車みたいに、BEV車を都内事業会社が選択すると都税的なメリットがあるようになればいいなぁ。社員もBEV車に触れる機会が増えて、個人購入に結びつくと期待したい。

  4. 誰しも電気自動車(リーフ)等のオール電気自動車を試乗する事を勧めます、利点も欠点も経験です、利点は経済性です自宅充電を勧めます、設備法方は柔軟に選択、マンションの場合自分専用の駐車スペースに門柱を建て電力会社へ引込み依頼し電気工事会社へ充電装置を取付てもらう事で日産自動車のコマーシャル通り寝ている間に100%充電となる。あとは運転の基本電気モーターは荷重掛ければ掛けるほど電費が増えるチョットでも回れば車は動く動けば負荷が少なくなり同じ電費でも加速します自分で実証する価値を得ますから。

    1. 和田さんの意見に賛同。それも日産リーフだけでなく三菱ミーブシリーズも加えてください。
      そして電気自動車乗りの有志活動で市民活動としてイベントに電気自動車の市場を計画したアイミーブ乗りがここに居ます。ただ計画は全てコロナ禍で立ち消えましたが!!(爆)
      電気自動車はクルマだけじゃなくアウトドア電源車としても有用です!実際IHクッキングヒーターが稼働した地点で証明されましたが。
      電気保安技術者的には電気特性試験器用の電源としても使えました。地絡継電器試験・過電流保護装置試験などの実績もあります…このあたりは個人で電気管理技術者となる方が欲しがっているかもしれませんよ!?
      当然自宅への充電コンセント設置も必須。出川哲朗の充電旅は小さな電動バイクだからAC100Vコンセントでも間に合いますがクルマだとi-MiEVですら100Vでは半日かかる有様…AC200V充電の普及を電気屋としても推進していきたいですな。

  5.  Co2を一番排出してるのが電気。
     車は7%。
     発電システムを考えないで、ガソリン車の販売停止、
     少子化対策で、70過ぎの女に、子作りを
     奨励するのと同じ。
     電気自動車には、リチウム電池、高性能モーターが
     必要。
     レアメタル、レアアースの供給能力を超える。
     さらに、2021年1月12日、電力のピークが95%を
     超える。関電は99%。
     Co2の発生しない電気の確保があっての話。

    1. とりさん 様、コメントありがとうございます!

      >>車は7%。

      単に排出量を、排出元で比較するとそうなるかもしれませんが、それではガソリン車と電気自動車を比較したことにはならないですよね。それぞれの、排出を比較してみるとこうなります。
      https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/ev-and-fossil-fuel-power-station/
      変なサイトやメディアに騙されないようにしてください。計算方法もすべて公開していますので、ぜひご自身の目で、ご確認いただき、現在の日本のように火力発電比率が高くても、それでもガソリン車のほうが電気自動車より排出が多くなるということを、ご確認ください。
      ガソリン車を電気自動車に置き換えると、排出は減少するのです。

      >>レアメタル、レアアースの供給能力を超える。

      これ、根拠がありますでしょうか?
      リチウムイオン電池に使われる鉱物は、リチウム、ニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウムです。これらはどれもレアアースではなく、ある程度の埋蔵量はあります。そしてこの中で最も埋蔵量が少ないものはコバルトになります。
      しかし電池メーカーも一部の自動車メーカーも、それには気づいていて、コバルトの使用量を減らしたり、ゼロにしたりしています。
      https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/cobalt-free-batteries-for-electric-vehicles/

      >>2021年1月12日、電力のピークが95%を超える。関電は99%。

      これもどこかのメディアでご覧になりましたか?実際にどうだったのか確認してみましょう。
      関電さんを例に取ります。今年の1/12の午前8時、使用率がピークのとき、実際の需要は2416万kWで供給力は2421万kWでした。
      昨年と比較してみましょう。
      https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/028_08_00.pdf

      こちらの経産省の資料のP11、関西電力は供給力2567万kWで予備が81万kWあったことが分かります。あれ?今年は昨年の供給力より何と5.6%も少ないことが分かります。どういうことがお分かりでしょうか?電力会社は、今年の予測を見誤り、ギリギリになってしまったということなのです。今年はコロナが長引き、かつ厳冬だったことで予測が外れただけ。電力不足では無いのです。実際、関西電力の販売電力量の年間推移をご覧ください。
      https://www.kepco.co.jp/corporate/profile/data/pdf/denryoku_hanbai.pdf

      毎年ではありませんが、販売電力量は減少の推移をたどっていることもお分かりいただけると思います。

      もちろん将来的に、低排出の電気を作ること、すなわち電源の低炭素化は必須だと思いますし、その点は同意いたします。しかし、運輸部門の排出を抑えるに当たり、電源の低炭素化と電気自動車の組み合わせ以外に、ベターな解決策が存在しないのも事実なのです。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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