※記事中写真は Volvo Cars Global Newsroom より引用。
EVモデルを増やして目標達成を目指す
ボルボ・カーズは2040年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするため、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)のモデルを増やしています。
ピュアEVではこれまでに「EX90」、「EX40(旧EC40 Recharge)」、「EC40」(旧C40 Recharge)、「EX30」、「EM90」の5つのモデルを市場に投入しているほか、現在、5つのモデルを開発中です(※)。
このうち日本ではEM90とEX90が未導入です。EX90は2024年6月に北米で生産が始まっていて、今年下半期に納車が始まる予定です。
開発中モデルのひとつは、9月5日に発表された、ボルボのEVでは初のセダンタイプになる「ES90」です。2025年3月にスウェーデンで発表予定です。
公表されている短いティザー動画では、車高を抑えたスマートなデザインになっていることがわかりますが、詳細は未公開です。
Coming soon: Volvo ES90(YouTube)
(※)ボルボ・カーズは2024年2月20日、ピュアEVとその他の車種をわかりやすく区分するため、XC40 RechargeとC40 Rechargeの車名をそれぞれ、EX40とEC40に変更しました。これによりボルボ・カーズのEVはすべて、「E」から始まる名称で統一されました。なお日本の公式HPの表記はまだ変更されていません(2024年9月6日現在)
2030年にEV専業メーカーを目指していた
こうしたEV開発により、ボルボ・カーズは2011年に、すべてのボルボの車を2030年までにEVにするという野心的な目標を掲げていました。
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それ以前からボルボ・カーズは2025年までに世界の販売台数の50%をEVにし、残りの50%をPHEVにすることを目指していました。2030年までにEVを100%にするというのは、目標の大きな上乗せでした。
このターゲットを、この9月4日に、EVとPHEVを合わせて2030年までに90〜100%にすると修正したのでした。
90〜100%を電動車に
もう少し詳しく言うと、以下のようになります。
●2030年までのボルボの目標
全世界の販売量の90〜100%を電動車にする(ここで言う電動車はEVとPHEV)。
残りの0〜10%は、必要に応じてマイルドハイブリッド車も販売する。
上位の目標では、EVとPHEVにすることで、実質的にすべての車を充電可能なモデルにします。
一方、市場の状況に応じてマイルドハイブリッド車を投入できるように準備していきます。ただし、ハイブリッド車という言葉は出てこないので、考えていないのかもしれません。
目標は修正されたものの、この数字も十分に野心的に見えます。もちろん、PHEVの割合がどうなるか、またPHEVのEV走行可能な距離がどうなるかなど、不透明な部分は残りますが。
なおボルボ・カーズは、長期的な投資計画がEVに向いていることに変わりなく、資本支出計画に重大な影響は与えないとしています。
中期目標と修正するのと同時に、2025年までの短期的な市場の見通しについても変化が見られます。
前述したように、これまでは2025年までにEVを50%、PHEVを50%にすることを目指していました。これが今回、2025年までに電動化モデルの割合は50〜60%になるという予想になっています。
文脈からすると、ここで言う電動化モデルはEV、あるいはPHEVです。従来の100%にするという目標からだいぶ後退したのは確かなようです。
ただこの数字は、いたって現実的な数字です。ボルボ・カーズによれば、2024年第2四半期のEVのシェアは26%にのぼり、PHEVと合わせると48%を占めます。四半期ベースではほぼ、来年の目標を達成しているように見えます。
もう一点、EVの目標変更によって、CO2(二酸化炭素)の排出量削減目標も変わりました。
従来は2018年を基準として2030年までに1台あたり75%削減するとしていましたが、今回、65〜75%と幅をもたせました。
また2025年までの削減量も、2018年比で40%削減から、30〜35%削減に縮小しています。
EV市場の変化で目標修正
ボルボ・カーズが目標を変えたのは、EV市場を取り巻く環境整備が、予想と違っていたためです。
発表によれば、まず充電インフラの展開が予想よりも遅かったこと、次に一部の市場で政府のインセンティブがなくなったこと、さらにEVに対する関税が市場によって変化し不確実性が高まっていることの3つを、大きな要因に挙げています。
充電インフラの展開が遅いというのは、具体的にどのような状況を想定していたのか明確ではありません。
他方で一部の国でインセンティブがなくなったというのは、ドイツを指しているものと思われます。ドイツでは新型コロナ対策で未利用だった予算を気候変動対策の基金に転用し、これをEV補助金に充てるなどしていましたが、この転用を違憲とする判決が出て、2023年12月17日以降はEVの補助金申請ができなくなりました。
この影響もありドイツでのEV販売台数は落ち込んでいて、メルセデス・ベンツグループやフォルクスワーゲングループもEVに関する計画の見直しをしつつあります。
EVsmartブログの集計でも、2024年は1月から6月にかけて、EVの市場シェアは前年同期比マイナスを続けています。
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ドイツは欧州最大の市場でもあり、全体の販売台数も頭打ちの状態です。こうした中での目標変更は、企業経営を考えれば致し方ない事と言えます。
もっともドイツ以外でのEVのシェアに大きな落ち込みは見られず、気候変動対策としてのEVの重要性は変わっていないと言えます。
目指すのは気候変動対策
ボルボ・カーズの目標を振り返ってみると、2021年当時の関係者の発言が極めて挑戦的だったのがみてとれます。
当時のホーカン・サムエルソン最高経営責任者(CEO)はEV専業に関して、「成功し続けるためには、収益性の高い成長が必要だ。そのため縮小する事業に投資するのではなく、電気自動車とオンラインという未来への投資を選択した」と述べていました。
さらに当時のヘンリック・グリーン最高技術責任者(CTO)は「内燃機関を搭載した車に長期的な未来はない」と明言。完全にEVに移行することで「顧客の期待に応え、気候変動との戦いにおいて解決策の一端を担うことが可能になる」とも言っていました。
強気です。バリバリです。
今のアンダーズ・ベルCTOがどのように考えているのかはわかりませんが、気候変動対策の視点で自動車業界を見ると、長期的に内燃機関が厳しい状況になるのは間違いありません。内燃機関と電気では理論上の効率の限界値に差があります。気候変動対策は突き詰めると効率との戦いでもあるので、熱効率の違いはいかんともしがたくなると思えます。
まあこれも、きちんとリサイクルができればという条件はつきますが、課題を解決すればなんとかなるのなら、その方向へ進むのではないでしょうか。その方が合理性があるように思っています。
さて、今回の目標変更について、ボルボ・カーズの現在のCEO、ジム・ローワン氏は次のように述べています。
「私たちは、ボルボ・カーズの未来は電動化にあると確信している。(中略)しかし電動化への移行が直線的ではないことは明らかで、顧客と市場が受け入れるスピードはそれぞれ異なる。私たちは、電動化と持続可能性に関して業界をリードする立場を維持しつつ、現実的で柔軟な姿勢で対応していく」
より現実に即した目標を立てつつ、電動化100%の最終目標は維持しているということでしょう。
PHEVは伸びるのか
ところで、ボルボ・カーズは電動化の目標にPHEVを入れ込んできましたが、不透明な要素はあります。PHEVの将来性です。
イギリスではPHEVの割合が少し増えていますが、フランスとドイツでは停滞というか、少し縮小している感があるのです。
また米カリフォルニア州新車ディーラー協会の資料によれば、加州では2022年から24年第2四半期の1年半でEVのシェアは16.4%から21.4%に伸びていますが、PHEVは2.7%から3.4%と微増です。ハイブリッド車(HEV)は9.1%から13.2%に伸びています。
でもハイブリッド車だと、排ガスゼロのZEV(ゼロエミッションビークル)販売を義務付ける、カリフォルニア州などの「Advanced Clean Cars II」(ACC2)」に対応できないので、あと数年で罰金が発生します。
欧州でも、欧州委員会は2030年の温室効果ガス排出量を1990年比で少なくとも55%減にするための政策パッケージ「Fit for 55」を採択。乗用車と小型商用車からのCO2排出量を2035年までにゼロにする目標を明確にしています。中間目標は、乗用車55%減、小型商用車50%減です。
政策目標なので状況に応じて上下するとは思いますが、最終目標が気候変動対策である以上、一定以上の譲歩はしないと思われます。
そう考えると、なんらかの方法で一層の、例えばEVと一部のPHEVに特化した、電動化を進めるのは必須です。
ボルボ・カーズの目標変更は現実的な数値に落とし込んだものではありますが、その先を考えると、どこかの段階でジャンプアップする必要があるかもしれません。PHEV市場の楽観視もしにくいです。
ボルボ・カーズだけでなく、EV市場低迷と言われる中で各国の大手自動車メーカーがどう動くのかも、これからも注目していきたいと思います。
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文/木野 龍逸