カリフォルニア州なら3万5000ドル以下で買える
テスラは2020年1月に『モデルY・Standard Range(スタンダードレンジ)』を正式に発売しました。日本では未発売なので、ここではアメリカでの価格を見ていきます。
すばり、『モデルY・スタンダードレンジ』の価格は4万1990ドルです。カリフォルニア州では「Clean Fuel Reward」というプログラムが適用されるため販売時点で1500ドルの値引きがあり、テスラ社のサイトではカリフォルニア州だけ購入価格(Purchase Price)が4万490ドルという見積りも出ます。
『モデルY・スタンダードレンジ』は、もともと2021年に供給開始という発表があった一方で、メディアでは2020年内に生産→納車が始まるのではという予想も流れていました。結果的には当初予定通りのスケジュールだったことになります。
また価格は4万ドルを切るのではないかという噂もありました。これについては、販売価格は4万1990ドルですが、カリフォルニア州では補助金を含むと3万4190ドル(テスラの公式サイトによる)になるので、あながち間違いだったとは言えないレベルです。
テスラでは、現行モデルの中で最も安い『モデル3・スタンダートレンジプラス』の販売価格が3万7990ドルなので、『モデルY・スタンダードレンジ』はそれより4000ドル高いだけということになります。
乗車定員が7人のSUVで、しかも電気自動車(EV)。後輪駆動なのでSUVというよりはSUVタイプのミニバンという感じでもありますが、補助金込みで考えると驚異的な価格と言えそうです。
モデルYのコスパを航続距離で考えてみた
EVのコスパを考えるのならパーツの中で最も高価な電池の搭載量で比較するとわかりやすいのですが、テスラは搭載量を公表していないので、一充電あたりの航続距離で考えてみます。モデルごとに動力性能は違うので、意味があるかないかと問われても答えようがないのですが、これもまたひとつの判断基準と思っていただければ。
他方、実用性では電池搭載量よりも一充電航続距離がポイントになるので、今回の比較にも一定の意味があるとも思います。
まずは、テスラの内部比較をしてみます。『モデルY・スタンダードレンジ』(4万1990ドル)は、一充電航続距離が244マイル(約390.4km)なので1kmあたり107.6ドルでした。これに対して一充電航続距離326マイル(約521.6km)の『ロングレンジAWD』は1kmあたり95.8ドル、一充電航続距離303マイル(約484.8km)のパフォーマンスは1kmあたり123.7ドルになります。
こうして比べると、『モデルY』の中で航続距離あたりの単価がいちばん安いのは『ロングレンジAWD』になります。『ロングレンジAWD』はデュアルモーターなので、『スタンダードレンジ』と比べるとさらにお買い得ということになりそうです。『パフォーマンス』になると、動力系のマネジメントだけの違いなのか半導体も違うのかはわかりませんがコストも高く、とにかく高性能な車が欲しい~! という尖った人向きの価格なのは間違いなさそうです。
ロングレンジAWDのコスパが最強だった
ついでなのでテスラの中では最廉価の『モデル3』も比べてみます。こちらも『モデルY』と同じで、航続距離あたりの単価が最も安いのは、『モデル3・ロングレンジAWD』でした。なんと83.2ドルで、『モデルY・ロングレンジAWD』より12ドル以上安いことになります。『モデルY・スタンダードレンジ』と比べると24ドルもコスパが良いです。しかもデュアルモーターです。
モデルYとモデル3のコスパ比較(価格/航続距離)
モデルY | モデル3 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
グレード | スタンダードレンジ | ロングレンジAWD | パフォーマンス | スタンダートレンジプラス | ロングレンジAWD | パフォーマンス |
航続距離(EPA) | 244マイル | 326マイル | 303マイル | 263マイル | 353マイル | 315マイル |
km換算 | 約390.4km | 約521.6km | 約484.8km | 約420.8km | 約564.8km | 約504.km |
0-60mph加速 | 5.3秒 | 4.8秒 | 3.5秒 | 5.3秒 | 4.2秒 | 3.1秒 |
最高速度 | 135mph 約217km/h | 135mph 約217km/h | 155mph 約249km/h | 140mph 約225km/h | 145mph 約233km/h | 162mph |
重量 | 3920ポンド (約1778kg) | 4416ポンド (約2003kg) | 4416ポンド (約2003kg) | 3582ポンド (約1625kg) | 4065ポンド (約1844kg) | 4065ポンド (約1844kg) |
駆動方式 | 後輪駆動 | 全輪駆動 | 全輪駆動 | 後輪駆動 | 全輪駆動 | 全輪駆動 |
定員 | 7人 | 7人 | 7人 | 5人 | 5人 | 5人 |
価格 | 4万1990ドル | 4万9990ドル | 5万9990ドル | 3万7990ドル | 4万6990ドル | 5万4990ドル |
日本円換算 ※1/12現在 | 約478万円 | 約521万円 | 約626万円 | 約396万円 | 約490万円 | 約574万円 |
航続距離1km あたりのコスト | 107.6ドル | 95.8ドル | 123.7ドル | 90.3ドル | 83.2ドル | 109.1ドル |
日本円換算 ※1/12現在 | 約11200円 | 約10000円 | 約12900円 | 約9400円 | 約8700円 | 約11400円 |
電池の搭載量は公表されていませんが、『ロングレンジAWD』と『スタンダードレンジ』の重量は『モデルY』では496ポンド(224.8kg)の違いがあるので、モーター1個+電池搭載量の違いと考えられます。
ちなみに『モデル3』の『スタンダートレンジプラス』と、『モデルY』の『スタンダードレンジ』の重量差338ポンド(約153.3kg)は、3列シートになっていることによる装備品の増加や剛性確保などのためでしょうか。テスラが公表しているデータに車両総重量なのか車両重量なのかの記載がないのですが、EVsmartブログの過去記事によれば乗員などを含まない車両重量のようです。
それにしても、150kgの重量差があるにもかかわらず、0-60mph加速が同タイムというのは、モーターのポテンシャルの高さを表しているようです。タイムを上げようと思えばかなりの範囲でプログラムによる調整が可能ということかもしれません。
同時に、フル加速でこのパフォーマンスということは、余裕をもって電費運転を心がければ航続距離が想定以上に延びるのかもしれないなあ、などと想像してしまいました。
ともあれ、航続距離=電池搭載量を前提とした場合、こうして比べると『モデルY』にしても『モデル3』にしても、『ロングレンジAWD』のお買い得感がとても高いことがわかります。デュアルモーターで航続距離は長くて、おまけに動力性能も高くて、航続距離あたりの単価はいちばん安いのです。
プジョー『e-2008』はテスラと同等のコスパ?
ここからは、他社のコンパクト系SUVと比べてみましょう。まずはEVsmartブログでつい最近、長距離テストをしたプジョー『SUV e-2008』を見てみます。
『e-2008』は電池搭載量が50kWhで、カタログ値の一充電航続距離はEPA換算の推計値で296kmです。
【関連記事】
●プジョー『e-208』『SUV e-2008』を長距離試乗~急速充電を試してみた(2021年1月9日)
価格は『e-2008』の中で最も安い『Allire』が税込み429万円からです。前述のテスラの価格は税別なので、と言うかそもそもアメリカ価格なのでちょっとむりやりですが、やってみましょう。
一充電航続距離(EPA推定値)は296km、価格(税込み)は429万円なので、1kmあたり単価は約1万4493円になります。
2021年1月11日の夕方時点で、1ドルは104.11円でした。ということはドルに置き換えると約139ドルなので、コスパはまずまずと言っていいでしょう。
ただ、『モデルY・ロングレンジAWD』は全輪駆動、『e-2008』は前輪駆動という基本構成の違いがあります。また『モデルY』が7人乗りなのに対して、『e-2008』は5人乗りです。動力性能にも違いはあります。
とまあ、スペックはいろいろと違いますが、単純に一充電航続距離のコスパだけを比較すると、『モデルY』の良い競争相手になりそうです。
PSAグループではDSオートモビルから『DS 3 CROSSBACK E-TENSE』が販売されています。『E-TENSE』の諸元を見ていくと、電池搭載量は50kWhで一充電航続距離はJC08モードで398kmになっています。JC08では比較のしようがないので、イギリスのカタログを参照すると、WLTPモードの最小値で194マイル(約310.4km)、最大値で206マイル(約329.6km)です。これをEPA換算の推計値にすると、最小値で276.9km、最大値で約294kmになります。
価格は、上級クラスをコンセプトにするDSブランドだけあってコンパクトSUVの中では高く、税込みで534万円からです。そのため単価は、最高で1万9285円、最小で1万8163円になります。ちょっと差異が大きいのは仕方ありません。
ダチア『スプリング・エレクトリック』に超低価格の期待
他方、超低価格のEVになるのではないかと注目を集めているのは、ルノーグループの一角、ルーマニアを発祥の地とするダチアが2020年10月に発表したSUVのEV、『スプリング・エレクトリック』です。ルノーのリリースによれば、予約受付は2021年春になる予定です。
価格はまだ公表されていないのですが、ルノーはリリースで「unbeatable price」とうたっていて、そのまま受け取れば「無敵の価格」になります。最近のスポーツの世界で「unbeatable」と言えば、ボクサーの井上尚弥選手(WBAスーパー&IBF世界バンタム級王者、世界3階級制覇)の代名詞になっていますが、そこまで行かずともなんとなくすごそうです。
一充電あたりの航続距離はWLTPモードで225km(EPA換算推計値で約201km)です。バッテリー搭載量は26.8kWhと控えめになっています。プジョー『e-2008』とDS『E-TENSE』はともに50kWhなので半分強というところです。
それに対して一充電航続距離は『e-2008』の76%なので、もしかしたら効率はいいのかもしれません。電費で比較すると、あくまでも推計値ですが『e-2008』の5.92km/kWhに対して、『スプリング・エレクトリック』は7.5km/kWhになります。
他方、『テスラ モデルY・スタンダードレンジ』の一充電航続距離は約390kmなので、『スプリング・エレクトリック』の航続距離はテスラ比で57.6%になります。ということは、価格が『モデルY・スタンダードレンジ』の4割安になっていれば、ほぼ同じコスパになります。
つまりテスラ並のコスパになるためには、『スプリング・エレクトリック』は2万5194ドル、日本円で約262万3000円以下になることが必要になります。と言っても、ダチアが日本に入ってくることはほとんどなさそうですが。
ともあれ、実質的な航続距離コスパで「1万円@km」あたりが、世界の電気自動車の主流になってきそうな印象です。ところで、電池容量35.5kWhでEPA換算の推定航続距離が196kmの『ホンダe』は451万円〜なので、1km当たりのコストは約2万3000円。装備の違いがあるので単純に比べられないとは言え、競合するクラスの中では段違いに高コストになっていることがわかります。
いろいろと勝手な想像を巡らせてみましたが、最後にひとつ付け加えると、テスラは今後、さらに低価格のモデルを出してくる可能性がほぼ確実です。BBCなどによれば、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は2020年9月に開催されたバッテリーデーで、「3年以内に2万5000ドル以下の完全自動運転のテスラを出す」と発言しています。
この時には次世代電池に関する発表もありましたが、2020年にはリアの車体下部を鋳造で一体成型する巨大な鋳造機が動き出しているという話も飛び出しました。
【関連記事】
●テスラが米フリーモント工場でギガプレスを使った単一鋳造部品の大量生産を開始(2020年10月8日)
テスラによるコストダウンの取り組みは、従来の自動車メーカーが想像しなかった方法を採り入れていることで注目を集めています。あまりに先進的すぎたのか、モデル3の導入ではトラブルが頻発して計画が遅れるということもありましたが、その後になんとか軌道に乗せました。
低価格の新モデルが『モデル2』になるという噂もあって、期待は高まるばかりです。この速度に既存の自動車メーカーがどう対抗していくのか。『モデルY・スタンダードレンジ』の価格から、いろんな想像が膨らみます。楽しみがまたひとつ増えた感じです。
※EPA換算推計値=WLTP/1.121
(文/木野 龍逸)
日本の出遅れ感は否めないですね。
世界のEVシフトは加速する一方で国内メーカーはEV研究開発で連合を組んだものの進んで無いように思えます。
日本メーカーにはテスラの真似は出来ないと思われますので、
アメリカGMの変わりようを見て欲しい物です。
ぶっちゃけガラケー自体日本でしか売れてなかったから結果的にダメージは少なかったんですよね。ノキアやブラックベリーのような世界的に売れてた従来型携帯電話メーカー、やiPhone以前のスマホが打撃を受けましたが、逆にサムスンなどスマホへ素早くシフトして生き残って利益を上げた会社もいます。
日本メーカーも結果的にスマホ用のメモリやカメラのイメージセンサーを売っても受けた会社もいます。
恐らく消費者のニーズよりも取引先の反発?、離反?、倒産?を恐れているのでしょうね。
電池メーカーの規模としては勝てなくなってきますが、投資ができないのでしょうか
自動車メーカーが慎重だから投資しない、国内メーカーが電池作れない(電池を確保できない)からEVシフトができないといった面もあるのかな
ある意味、自動織機のほうの豊田がテスラにバッテリー温度調節のための部品を納入するというニュースを聞いて、部品サプライヤーと自動車屋の関係も変わってくのかなと
報道などでは部品点数が3分の1云々というけれど、逆に考えれば3分の1も存在するわけで
だとすると、完成車メーカーの受けるダメージは、あのときに電機メーカーの受けたダメージよりも大きいかもしれないですね。最終的に、自動車業界も残るのは部品メーカーのみ、という構図になるのでしょうか。寂しい限りです…
既存の完成車メーカーが電池の生産設備に投資したがらないのは、新しい技術に多額の投資するよりも既にある生産設備をできるだけ長く使った方が商売としては旨味があるからかもしれませんね。
また、大きなリスクを背負って大成功してもサラリーマンはさほど出世することはありませんが、無難な方を選んで過ごしていれば、いずれは隠居してそこそこ安定した豊かな老後が過ごせます。米国と日本の企業文化の差などもあるのかもしれません。
バッテリーのコスト勝負になったら、日本メーカーに勝ち筋があるのでしょうか…
せめて比較的バッテリーの搭載量の少ない PHEV だけでも安価に作れればいいと思うのですが、PHEV ですら安価なものが作れていないところを見ると、今後どうなるのか。
ガラケーがスマホに変わっていったときには、日本の電機メーカーは他にも産業を持っていたので、そのダメージは緩和されましたが、自動車の場合はもろにダメージを受けそうな気がします。
e2008のアリュールはそんなに安価ではないですよ
かのぼ さま、ご指摘ありがとうございます。
編集部の寄本と申します。
SUV e-2008の価格、エンジンモデルの価格になってました。失礼しました。
記事を修正しました。