テスラの大型蓄電システム『メガパック』 が日本に上陸〜再エネ電力活用の進展へ

5月28日、テスラモーターズジャパンは大型蓄電システム『Megapack(メガパック)』が日本で初導入されたことを発表しました。システムの蓄電容量は2964kWh(約3MWh)。木質バイオマスや太陽光発電による電力を蓄電&放電することで、エネルギーの自立化、電力の安定供給に貢献します。

テスラの大型蓄電システム『メガパック』 が日本に上陸〜再エネ電力活用の進展へ

メガパックの導入で建物の「ZEB」実現を目指す

テスラの大型蓄電システムである『Megapack(メガパック)』が導入されたのは、茨城県つくばみらい市の『高砂熱学イノベーションセンター』で、すでに2021年4月から稼働を開始しています。導入されたMegapackの総容量は2964kWh(約3MWh)、出力は429kWとなっています。

高砂熱学イノベーションセンターに導入されたMegapack。

高砂熱学工業株式会社(本社:東京都新宿区)は空調設備工事の国内トップカンパニー。同センターにはオフィス棟、ラボ棟、展示スペース、プレゼンルームなどがあります。施設内には超小型木質バイオマスガス化発電と太陽光発電など再生可能エネルギーによる約200kWの発電設備を備えており、Megapackが施設内の需要に合わせて適切に蓄電と放電を行うことで、施設全体のエネルギー(電力)自立化や、電力の安定供給に貢献します。

快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーが正味ゼロまたはマイナスの建築物を「ZEB(ゼブ=Net Zero Energy Building)」と呼び国が認証を行っています。同センターでは、Megapackの導入によって同センターのオフィス棟ではZEBを、また施設全体で「Nearly ZEB」(建物で消費する年間の一次エネルギーを75%以上削減する建築物)を目指すとしています。

Megapack=拡張性無限大の大型蓄電システム

テスラでは大型蓄電システムとして『Megapack』と『Powerpack』をラインアップして、商業・産業用、また系統電力用として世界各地での導入を進めています。

Powerpackは1システムあたりの容量が約200kWhで、バッテリーとインバーターは別筐体。2019年の記事『近鉄がテスラの蓄電池を導入』で近鉄が導入したのは、42基(総容量約7MWh)のPowerpackです。

Megapack

Megapackは1システムあたり約3MWh(約3000kWh)とより大容量で、ひとつの筐体には蓄電池、パワーコンディショナー、温度管理システム、インバーターなどがすべてオールインワンとなっており、現地での施工時間や短く、品質も安定しています。

導入に際しては、システム設計、試運転、カスタマーサービス、ソフトウェアまで全てをテスラがサポート。運転制御やウェブインターフェースによる遠隔監視などが可能なテスラ自社開発のソフトウェアも用意されているそうです。

また、Megapackはたとえば1MWhなど容量を下げて設置することも可能とのこと。ただし、容量を下げるとコストメリットも下がります。

おおまかな費用感や納期についてテスラジャパンに確認しましたが、価格などはプロジェクトごとにNDAを締結して提示する内容となり「非公開」ということでした。Megapack導入を検討したいという方は、テスラの公式サイトからお問い合わせください。

モビリティ電動化と再エネ電力活用は一緒に進めるべき

電気自動車情報メディアである『EVsmartブログ』で日本初のMegapack導入を取り上げるのは、「テスラだから」ではありません。モビリティの電動化は脱炭素、そして脱化石燃料の社会を進めるための重要な手段ですが、エンジン車を電気自動車に置き換えるだけでは不十分。発電時の温室効果ガス排出削減、つまり再生可能エネルギーの活用普及を同時に進めていくことが大切です。

再エネ発電で広く普及している太陽光発電や風力発電は、気候や時刻によって発電量に大きなばらつきが生じます。再エネで得られた電力を有効に活用するためにも、Megapackのような大容量蓄電池が重要な役割を果たすのです。

日本では世界に先駆けて電気自動車のバッテリーを系統電力と連携するV2Hが進められてきました。今後も、電気自動車とともにV2Hの普及を進め、社会全体で再エネを有効に利用する仕組みが広がっていくことに期待するのとともに、コストパフォーマンスに優れた大規模蓄電システムはサステナブルな社会実現のために不可欠なツールでもあるのです。

Megapackの拡張性は「無限大」。つまり、システムを繋げることで途方もない容量の「蓄電所」を構築できます。テスラジャパンのリリースでは、アメリカで建設中の容量730MWhのアメリカの事例や、オーストラリアに建設中の450MWhの事例などが紹介されています。

アメリカ カリフォルニア州 モスランディングに建設中の世界最大級の182MW/730MWhのMegapackシステム。ピーク用天然ガス発電所の代替として設置され、容量市場への参加も予定。
(2021年第二四半期 稼働予定)
オーストラリア ビクトリア州 ジーロング(Geelong)に建設中の300MW / 450MWhのMegapackシステム。太陽光エネルギーや風力エネルギーの蓄電・放電による再生可能エネルギーの活用に加え、系統電力の安定に貢献。また、ビクトリア州政府の「2030年までに再エネ率 50%」という目標の達成をサポート。
(2021年11月 稼働予定)

カーボンニュートラルを目標としたモビリティの多様化に異論はありません。でも、国が悪い、電力がダメと文句を言いつつ立ち止まっていたのでは、サステナブルな社会なんて実現できません。現在の技術や製品で「すぐにできること」はあるはずです。日本でも、賢明な再エネ活用が進んでいくことを願っています。

(文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)4件

  1. こんにちは、高圧電気管理技術者です。
    MegaPackの容量3MWh=3000kWhですよね…これはメガソーラー発電力2~3時間分(1MWとして)に匹敵します。一般住宅を1件5kWに換算して429kWなら5%損失があったところで400/5=80軒は賄えますか。
    その他、電力会社は高圧配電線に紐付くミドルソーラー発電所(6kV/500kW前後)の電圧調整に苦労しているようです。3MWh蓄電池で調整が可能なら電力会社も導入するかもしれませんね。そうなりゃ停電が許されない病院やデータセンターの近くに蓄電池設備をつける展開も出てきませんかねぇ!?
    一方の個人宅は卒FIT家庭を中心に蓄電池設置が叫ばれていますが費用面から諦める人も数知れず。そんな家庭こそV2Hが必要やないですか?複数台クルマを保有するなら1台はBEVにして逆送電を無くし電力売買を最低限にするんです…あいにく当家は自営業で2台ともクルマが出払うことがあり田淵電機の蓄電池を選びましたが、昼に自宅に戻る運用を組めば逆潮流しなくとも済みますよ。
    それか今後政府行政の責任で耐ブラックアウト策として蓄電池設置を促す法律を設定すべきかもしれませんが…一番早いのはしんぶん赤旗に蓄電の重要性を記事にしてもらう手ですか!?

  2. 九州電力さんすぐ導入をお願いします。
    「九州で、せっかく発電された太陽光など再生可能エネルギーの電力が使われない事態が頻発している。発電能力(設備容量)で見て、原発4基分もの電力が送電できないまま、無駄になっている日もある。」毎日新聞より

    1. おいぼれリーフさんに同意ですー。
      僕は中部の電気管理技術者ですが、業界専用の機関紙「電気新聞」を見る限り四国・東北・北海道など太平洋ベルト地帯に属さない地域は必須とみてます。むしろ住宅用よりメガソーラーにこそ蓄電池つけるべきやないかと。
      数百kW程度の高圧受電設備を使うソーラー発電所も電力会社にとっては厄介な存在で、少し曇ったり晴れたりしただけでかなり電圧が変動し配電線を管理する主任技術者の気苦労は絶えないと電力OBさんが言うてました…それを解決できるのはおそらく蓄電池だけやと。この際リーフ中古廃車などから電池を取り出し一刻も早く定置用蓄電池へ転用して電力有効活用すべきやないですか!?費用は設置者と電力会社の折半程度にすれば話は進むかも。
      ソーラー発電用パワーコンディショナーの電圧は多くがDC400V前後、リーフの電池もDC360V…それさえ揃えれば難しくはないはずですよ!?

      今まで電気自動車の世界で語られてなかった電力インフラの世界を語るのもi-MiEV乗り電気技術者の役目と感じてます。不明な点は質問くだされば自身の知る範囲でお答えしますよ!?

  3. 家庭用のPowerwallの価格が13.5kWhで99万円=7.3万円/kWh。
    Megapackの方がコストメリットがあるということは6万円/kWhを切って来るのか。日本メーカーの半分以下。これは電力業界も大きく変わりそうですね。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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