日産が欧州でEV小型商用車の新型『タウンスター』を発表~ただし欧州限定モデル

2021年9月27日、日産は欧州におけるLCV戦略の一環として、小型商用車『Townstar』の完全電気自動車モデルを、まずは欧州限定で投入することを発表しました。リーフで課題とされてきたバッテリー冷却(温度管理)機能も用意されます。

日産が欧州でEV小型商用車の新型『タウンスター』を発表~ただし欧州限定モデル

『e-NV200』の後継となるEV小型商用車

今日からいくつか、日本のマーケット(つまり、私たちの生活)にはあまり関係がない、でも気になる話題をお届けしようと思っています。

まずは日産。2021年9月27日、日産は小型商用車『Townstar(タウンスター)』の完全電気自動車モデルを投入することをグローバルのニュースとして発表しました。

Townstar は、電気商用車の草分けとして根強い支持を得ている『e-NV200』(エンジンモデルでは『NV250』)のニューモデルという位置付けになります。完全電気自動車モデルとともに、最新の「Euro 6d」排ガス規制に適合した1.3リッターエンジンのモデルもラインナップされます。また、バン以外にもファミリーユースなども想定したワゴンタイプが用意されます。

発表ではTownstarが「欧州市場におけるLCV(Light Commercial Vehicle)戦略」の中心的な車種となることとともに、「グローバル事業全体で持続可能な成長と収益性を優先」して導入することを強調。日産が掲げるカーボンニュートラル実現に向けたビジョン『EV36Zero』の重要な一手、つまり欧州における日産車の電動化を加速させるための新型車であることが伺えます。

Townstar EV specs
バッテリー容量44kWh
最高出力90kW
最大トルク245Nm
航続距離285km以上(認定待ち)
AC充電
最大出力
11kW
オプションで22kW
DC急速充電
最大出力
75kW
(欧州CCS)
バッテリー冷却22kW AC充電仕様は標準
11kW AC充電仕様はオプション

Townstar、EVモデルのバッテリー容量は44kWhと発表されました。インテリジェントなエネルギー管理システムとバッテリーの熱冷却機能を備えているとのこと。

ただし、バッテリーの温度管理(冷却)機能は、AC充電最大11kWの標準仕様ではオプション設定となっているようです。小型商用車の場合、ほとんど急速充電も利用しない使われ方も想定できて、「それなのに、コストが掛かるバッテリー冷却機能ってほんとに必要か?」という、欧州だけでも20万台以上のリーフ、4万台以上のe-NV200を販売してきた日産ならではの提案と受け止めることもできますね。

※追記(2021年9月30日)
バッテリー冷却機能について、当初「リーフやe-NV200から、堅実に進化した点といえるでしょう」としていましたが、コメントで「e-NV200は冷却機能を備えている」とご指摘をいただきました。強制空冷の機能を備えてるんですね。リリースで詳細はわかりませんが、タウンスターの「バッテリーの熱冷却機能(battery thermal cooling)」というのも、e-NV200から受け継いだシステムかも知れません。

一充電航続距離は285kmです。WLTPサイクルでの認定を待っている段階のようですが、この距離を実用値に近いEPA基準に換算すると、約254km程度となりそうです。リリースに明記がないのですが、公表されたスペックを確認すると、欧州CCS(コンボ)規格で最大出力75kWのDC急速充電に対応できるようなので、高出力急速充電インフラ網が構築されつつある欧州では、とても便利な小型商用車として使えるのではないかと思います。

価格はまだ発表されていません。e-NV200の欧州での価格は日本円換算で450万円程度。日産は欧州での電池生産に投資を進めていたりして、電池調達価格の低廉化や、競争力ある価格になると希望的観測を込めて、350万円とか400万円前後からの設定になると魅力的だと感じます。EVモデルに限り、先進的な運転支援機能である『プロパイロット』が装備されるようです。そのほかの快適&安全装備もいろいろ満載するようなので、価格予想はあくまでも「希望的観測」ではありますが。

サイズの異なる商用車ラインアップを揃える

さらに同日、欧州の日産は新型Townstarとともに、NV300に替わる新型車として『Primastar(プリマスター)』、NV400に替わる『Interstar(インタースター)』を投入し、「オールスターLCVラインナップ」を揃えることを発表しました。

お、電動小型商用車が揃うのか? と思ったのですが、PrimastarとInterstarのEVモデルについての言及はありませんでした。

とはいえ、日産では2023年までに欧州での新車販売の75%を「電動化」することも示しています。「小型」商用車とはいえ、NV300とかNV400クラスになると、搭載するバッテリー容量と航続距離、車両価格のバランスがなかなか厳しいことになるのでしょう。このあたりはバッテリー生産の進化やさらなる価格の低廉化、また「使い方」を含めた新たな提案といった、電気自動車普及のための大きな課題となるポイントを示唆しているように思います。

当面、日本への導入予定などは、ない。

今回のTownstar。そもそも欧州日産からの発表だし「ないんだろうなぁ」と思いつつ、日本の日産に念のため確認してみましたが「Townstarはフランスで生産されて、当面は欧州限定の車種。日本への導入については何も決まっていない」という回答でした。

それにしても、毎日の運行距離が少なく一定で、拠点での充電が可能な小型商用車というカテゴリーって、実はとてもEV向きなのではないかと思うのですが。日本市場で、日本の大手メーカーからは三菱『ミニキャブミーブ』が細々と市販されているだけになっています。

いわば、大きな隙間になっていて。だからこそ、佐川急便がベンチャーと組んで独自開発を試みたり、HW ELECTROというベンチャー企業が『ELEMO』をローンチしたり、というチャレンジを促してもいるわけですが。

新型Townstarの発表は、欧州を中心に世界で着々と進む電気自動車シフトを実感するとともに、日本がどんどん置いてけぼりになりつつあるような焦燥を感じるニュースなのでした。

(文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)12件

  1. これはルノーの新型カングーと同じ車体のようですね。
    日産はNV-200を作っていたスペイン工場を閉鎖するのでルノーの工場製の新型カングーの車体を拝借、という感じでしょうか。

  2. 三菱の工場…坂祝はパジェロごと閉鎖
    正直部品点数が減るからと言って嫌っていては工場ごとなくなると思うんですがね。

  3. イギリスでは随分昔から牛乳配達車がEV(鉛蓄バッテリー)だったはず。
    エリアが限定された商用車にはBEVはもってこいですね。DHLも配送車の電動化に積極的ですし今後この分野はさらに伸びてきそうです。

  4. これ、日本に持ってくると、1ナンバー登録になるんですかね。NV200は4ナンバー登録できるのにe-NV200は1ナンバーだったのも、売りにくい理由だったかと思います。

    1. これは車幅問題ですよね。1.7mを境に税金保険制度が変わりますし。
      商用車を見てもハイエースやキャラバンなど売れ線は4ナンバーですがね。荷物が多いか幅の広いものを載せるならワイド1ナンバーも選ばれますが、大抵は道路が狭いなどの事情で4ナンバー小型貨物を選ぶことになりますね。経費削減を意識する会社がどちらを選ぶかは自明の理やないですか!?

  5. タウンスター面白そうですね。ただ名前がトヨタのタウンエースに似てるわスタイルがプロボックスに似てるわ…商用車やからしゃーないですか!?
    これが日本サイズで登場すれば以前の日産ラフェスタのポジションやないかと思います。
    ただ日本版ともなると色々問題が出そうですー。電気屋視点で少なくとも充電電力が問題、AC11kWは非現実的でAC6kWがせいぜい、急速充電も配送センターなど自家用高圧受電設備があればエエですが電池容量的に急速充電は50kWが限界、日産リーフ40kWhと大差ないレベルやないですか!?…仮にADワゴンとして売り出しても商社が買うんか!?そもそも物流以外の営業車(ビジネス利用)は価格第一、その用途で電気自動車を導入する話は今まで聞いたことないですわホンマ。それに既存事務所への追加電気工事は完全新設以上に工事費がかかり工事期間の通行や業務にも支障が出ますから。別に急速充電器でなくとも低圧普通充電器ですら埋設などメンドクサイ電気工事士法・電気工事施工規則を思い出しますー。
    ※電気工事現場を見てて気がかりに思うた。

    電気のエキスパート同士で自動車電動化を語れる日はいつ来るんやろ!?そんなこと思いつつ電気職人のEV仲間を待ってますー。

  6. カングーのバンをNV250としてOEMしたのでそれを後継にするのかと思っていたのですが
    こうきましたか。
    ということはカングーよりも小さいのかな?

    40kw版eNV200バンは廉価版が無くなって500万円超えてました。
    そもそも売る気無かったと思われます。

    軽自動車EVバンの新型に興味ありますが、来年の新型軽EVの登場後なので
    とにかくミニキャブMiEVバンのバッテリ容量拡大版を出して欲しいところです。

    1. 軽貨物はん期待のミニキャブミーブバンは日産三菱軽EVの20kWhと予想できます。航続距離はJC08換算190km程度になるんやないですか!?
      ホンダN-VANみたいな車種を出すならJC08換算200kmかもしれまへんが。
      いずれにせよ商用EVは環境問題のみならずエネルギー使用合理化も絡むはずです。
      e-NV200は世界的に売るのと電池重量を支えるため剛性を上げて車幅を拡大せざるを得なかったことも絡むんやないですか!?それにNV200バネット自体モデルチェンジもなく実際セレナに比べて売れてへんから投資回収面もありそうです。基本設計の古さもありますが生産拠点のスペイン工場閉鎖予定もありその代替としても考えられてるんやないですか!?生産拠点工場の製造ラインに制約あったりしますから(例:三菱自工倉敷工場はラインが軽専門だからコンパクトカー以上は作れない)いわゆる工場の仕様ですww

    1. おもち さま、ご指摘ありがとうございます。

      少し気になりつつ、リーフのイメージで勢い余った表現になっていました。
      e-NV200、強制空冷が付いてるんですね。

      タウンスターの冷却システムが液式か空冷かはリリースに言及ないですが、e-NV200 からの進化版(もしくは流用)かも知れないですね。

      記事を修正しておきます。

    2. 正確に言うと、e-NV200ワゴンには5人乗りと7人乗りがありますが、7人乗りにはバッテリクーラーは付いていません。バンはすべて付いています。

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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