ドイツとビールと『ID.4』
11月に入ると、師が走る音が聞こえてくるのと併せて寒さを感じる日が増え、もうすぐ1年が終わるのかと寂しい気持ちになってしまう今日このごろですが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。
そんな感慨を感じる少し前のこと、10月7日から10日かけて横浜赤レンガ倉庫で開催された『ドイツフェスティバル2022』(主催:ドイツフェスティバル実行委員会)で、フォルクスワーゲンのベストセラーEV、『ID.4(アイディーフォー)』が展示されました。海外ではすでに、2021年に約12万台を販売し、ワールド・カー・オブ・ザ・イヤーに選ばれるなど高い評価を得ているEVですが、日本で実車を展示するのは初めてです。
フォルクスワーゲン ジャパンは2022年中に『ID.4』を日本で発売することを発表していますが、ヨーロッパから遠く離れていることもあってか、これまで実車を見る機会がありませんでした。貴重な機会を逃す手はありません。まずはこの目で見てこようと、横浜まで出かけてきました。
なお『ドイツフェスティバル2022』は、2011年に日独交流150周年と、ドイツ統一の日を祝う行事の一環として始まったそうです。2022年は日独交流160周年をテーマにしています。
同じ時期(9月30日~10月16日)にはドイツのビールとグルメを楽しむ『横浜オクトーバーフェスト』も開かれていて、多くの来場者を集めていました。
『ID.4』はそんな赤レンガ倉庫の、ほぼ真ん中に展示されていたのでした。
シンプルにまとまったインパネ回りがEVっぽい?
フォルクスワーゲン・ジャパンの展示テントは、ビールのサーバーがひしめく『横浜オクトーバーフェスト』の大テントのすぐ隣でした。ビール片手に気持ちよさげな人たちを横目に、まずはお目当ての『ID.4』を見てみました。
外観上は、奇をてらったところのない落ち着いたデザインのSUVだなと思いました。ヘッドライトは最近のフォルクスワーゲンの車を踏襲している印象です。
展示車はドアがロックされていたのですが、現地にいた広報担当の方にお願いしたら、ドアを開けてもらえました。ありがたいことです。
内装は、インパネ周りのシンプルさに目がいきました。運転席正面に設置された小型のモニター画面はスピードメーターなどの基本的な表示用で、真ん中に付いている大型モニターはナビや設定操作などに使うようです。
シフトノブはセンターコンソールにはなくて、ステアリング右奥、モニターの右側に切り替えレバーが付いていました。そういえばBMW『i3』も、このへんにシフトスイッチが付いてたのを思い出しました。
車の右後ろには普通充電器の展示もありました。展示してあったのはデルタ電子の充電器で、6kW対応の『Q-VEC』と思われます。広報担当者によれば、普通充電器は2種類を用意する予定だそうです。メーカーはまだ公表されていません。
日本導入のグレードは2種類でバッテリー容量に違い
では日本で販売する予定の『ID.4』はどんな装備になるのでしょうか。広報担当者に確認できたことをお伝えします。
導入予定のグレードは、「プロ」と「ライト」の2種類だそうです。発売時期は年内のできるだけ早い時期を目指すとしています。
グレードによるもっとも大きな違いは、バッテリー容量でしょうか。標準グレードと言える「ライト」は54kWhで、「プロ」は最大容量の77kWhになる予定です。
また、「プロ」ではパノラマルーフが標準装備になります。内装は「プロ」が革シート、「ライト」はファブリックシートです。ホイールは18インチと20インチの2種類を用意するようです。
ということなので、横浜に展示されていたのはパノラマルーフの付いている「プロ」でした。
ところで個人的には、フォルクスワーゲンのEVと言えば「ID」シリーズの最初に登場したコンパクトカーの『ID.3』が気になるのですが、今のところ日本での販売予定はないそうです。
フォルクスワーゲンは、SUVの『ID.4』をグローバルカーと位置付けて、ヨーロッパ、中国(安亭工場)、アメリカ(チャタヌーガ工場)で生産、販売をします。すでに各工場での生産が始まっています。その一環で重要度の高い日本市場にも導入されることになります。
一方で『ID.3』は、基本的に生産設備がある地域限定で販売をする方針だそうです。これまでにヨーロッパと中国の市場に導入されています。
日本に入らないのは残念ですが、そもそも日本の輸入車市場は規模が大きくないので致し方ないですね。今は『ID.4』が入ってくることでヨシとしたいと思います。
ID.4 主要諸元(参考・展示車) | |
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全長×全幅×全高 | 4585×1850×1640mm |
ホイールベース | 2770mm |
最高出力 | 150kW(204PS)/4321-8000rpm |
最大トルク | 310Nm/0-4621rpm |
バッテリー容量 | 77kWh |
一充電航続距離(WLTC) | 561km |
価格はいくらになりそう?
では日本導入時の価格はいくらくらいになるのでしょうか。公式発表は発売時になると思いますが、いつものようにざっくりと予想してみました。
実は今回、改めて『ID.4』の仕様を確認していたら、地域によってバッテリーの容量がだいぶ違うことがわかりました。例えばアメリカでは62kWhと82kWh、イギリスでは52kWhと77kWh、中国では55.7kWhと84.8kWhのグレードがあります。
数が多いのですが、とりあえず米英の『ID.4』の価格を並べて見ました。為替レートは、1ドル=146.8円、1スターリング・ポンド=168.4円で計算しています。
『ID.4』価格(米英) | ||||||
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バッテリー容量 | 駆動方式 | 航続距離 | 本国価格 | 日本円換算 | 1kWhあたり価格 | |
VW USA | ||||||
ID.4 Standard | 62kWh | RWD | TBA | $37,495 | ¥5,504,266 | ¥88,778 |
ID.4 Pro | 82kWh | RWD | 275mi 440km | $42,495 | ¥6,238,266 | ¥76,076 |
ID.4 AWD Pro | 82kWh | AWD | 255mi 408km | $46,295 | ¥6,796,106 | ¥82,879 |
ID.4 S | 62kWh | RWD | TBA | $42,495 | ¥6,238,266 | ¥100,617 |
ID.4 Pro S | 82kWh | RWD | 275mi 440km | $47,495 | ¥6,972,266 | ¥85,028 |
ID.4 AWD Pro S | 82kWh | AWD | 255mi 408km | $51,295 | ¥7,530,106 | ¥91,831 |
ID.4 Pro S Plus | 82kWh | RWD | 275mi 440km | $49,945 | ¥7,331,926 | ¥89,414 |
ID.4 AWD Pro S Plus | 82kWh | AWD | 255mi 408km | $53,745 | ¥7,889,766 | ¥96,217 |
VW UK | ||||||
ID.4 Pure | 52kWh | RWD | 223mi 356.8km | £38,710 | ¥6,518,764 | ¥125,361 |
ID.4 Pure Performance | 52kWh | RWD | 223mi 356.8km | £40,140 | ¥6,759,576 | ¥129,992 |
ID.4 Pro | 77kWh | RWD | 328mi 524.8km | £44,470 | ¥7,488,748 | ¥97,256 |
ID.4 Pro Performance | 77kWh | RWD | 328mi 524.8km | £45,900 | ¥7,729,560 | ¥100,384 |
ID.4 Pro Performance 4MOTION | 77kWh | AWD | 317mi 507.2km | £47,910 | ¥8,068,044 | ¥104,780 |
ID.4 GTX 4MOTION | 77kWh | AWD | 308mi 492.8km | £52,730 | ¥8,879,732 | ¥115,321 |
※航続距離は、アメリカはEPA、イギリスはWLTPのデータです。 |
バッテリー容量にもよりますが、52kWh~62kWhモデルは600万円前後、77~82kWhモデルがRWDで700万円前後、AWDは約700万円~900万円と幅がありました。1kWhあたりの価格を見るとアメリカとイギリスで違いが大きいように見えますが、バッテリーの種類の違いかもしれません。
ちなみに、表には出していませんが、中国での『ID.4』はバッテリー容量55.7kWhと84.8kWhがあるようです。あとはオプション、駆動方式などの違いで、全部で11種類のバリエーションがあることまで確認できました。選択肢の多さに市場の大きさを感じます。
価格は18万7300元(約376万円)~28万6288元(約574万円)です。米英に比べるとだいぶ安いです。
生産工場が中国なので、搭載しているバッテリーの供給元の違いや生産コストそのものの差でここまで安くなるのかもしれません。それにしても300万円台はちょっと飛び抜けています。運転支援など高度な機能はオプションになりますが、これが日本に入ってきたら価格破壊です。
ということで米英の車両価格から考えると、日本では54kWhで600万円前後、77kWhで700万円前後になるのではないかと思われます。昨今の半導体不足や円安がなければ、もう少し安くなるのかもしれません。この価格帯だとやっぱり高級車なので、フォルクスワーゲン・ジャパンのさらなる奮闘に期待したいところではあります。
同程度の価格帯だと、ボルボ『C40 Recharge』、日産『アリア』、アウディ『Q4 40 e-tron』、ヒョンデ『IONIQ 5 Lounge AWD』、メルセデス・ベンツ『EQA250』『EQB250』、それにテスラ『モデルY』などが選択肢に入りそうです。以下の記事に一覧表があるので、参考にしてみてください。
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ボルボのEV『C40 Recharge』試乗レポート~AWDモデルは上質な走りが印象的(2022年11月5日)
ここまでいろいろごたくを並べてきましたが、『ID.4』の日本発売は間近です。百聞は一見にしかずというか、遠くない時期に試乗レポートや長距離テストもできると思うので、今しばらくお待ちください!
(取材・文/木野 龍逸)