CATLはナトリウムイオン電池の本格量産に踏み切れるか?

CATLが発表したナトリウムイオン電池とは、どんな性能をもっているのでしょう。また、現実的にEVのバッテリーとして広がるのでしょうか。アメリカ在住のアナリスト、Lei Xing氏 によるレポートをお届けします。

CATLはナトリウムイオン電池の本格量産に踏み切れるか?

【元記事】 Is CATL’s sodium-ion battery ready for prime time? By Lei Xing.

年内に少量生産で市場投入予定

CATLが近年発表した革新的なバッテリー技術や大ヒットしたバッテリー技術と同様に、約2年前に発表されたナトリウムイオン電池も大きな喝采を浴びました。

CATLのナトリウムイオンバッテリーは、いわゆるABバッテリーパックソリューション(ナトリウムイオンバッテリーセルとリチウムイオンバッテリーセルを一つのバッテリーパックに統合したもの)と一緒に、2021年7月29日に発表されました。いずれも理論上は、従来型のリン酸鉄リチウム(LFP)や三元系正極材(NCM)などを用いた電池に比べると、エレルギー密度、充電時間、熱安定性、低温性能、バッテリーパック内の搭載効率といった点で優れています。

CATLは当時、ナトリウムイオンバッテリーのエネルギー密度は160Wh/kgに達し、室温なら15分間で80%まで充電が可能であること、また-20℃の低温環境であっても定格容量の90%以上が利用でき、パックの統合エネルギー効率は80%以上になると発表しています。また、熱安定性は、中国国内で定める車載用電池の安全性基準を超えています。このように第1世代のナトリウムイオン電池は様々な電動モビリティに活用でき、特に気温が極端に下る地域で活躍します。

リチウムイオンバッテリーの仕組みと同様に、ナトリウムイオンバッテリーも内部でナトリウムイオンが正極と負極を往来します。しかし、ナトリウムイオンはリチウムイオンよりも体積が大きく、構造安定性や物質の運動特性上、バッテリー素材として使用するには課題がありました。CATLは、大量に電荷を貯蔵できるプルシアンホワイトを正極に採用することで課題を解決するとともに、電子の再配列によって素材のバルク構造を再設計し、サイクル数の増加による急速な容量低下を解決したと主張しています。負極では、独自の多孔質構造を持つハードカーボン材を開発し、ナトリウムイオンの大量貯蔵と高速移動を可能にすることで、サイクル性能を向上させました。

CATLは、先端アルゴリズムと高い演算能力の知見を生かした高スループットの計算及びシミュレーション技術を活用して、ナトリウムイオンバッテリーに最適な素材の組み合わせについて研究開発を行い、実用化を早期に進め、日々開発を推進しています。同社は、次世代ナトリウムイオンバッテリーのエネルギー密度の目標を、200Wh/kg超に設定しています。

ナトリウムイオンバッテリーの生産には、リチウムイオンバッテリーの生産設備や工程をそのまま使用できるため、大量生産への切り替えを速やかに行うことが可能だとCATLは述べています。2021年7月の発表では基本的なサプライチェーンを2023年までに整備する目標を立てています。

さて2023年も折り返し地点ですが、最近までというか、正確には今年度の上海モーターショーの直前まで、CATLのナトリウムイオンバッテリーを最初に導入する企業の詳細については発表がありませんでした。

導入企業の一つが中国の奇瑞汽車(Chery)であることが、上海モーターショーに先立つイベントにおいて、同社が新ブランド「iCAR」を発表した際に明らかになりました。iCARブランドのファーストモデルは、CATLのナトリウムイオンバッテリーを搭載し、2023年の第4四半期に販売開始予定です。

さらに、CheryとCATLは、両社の新バッテリーブランド「ENER-Q」を発表しました。ENER-Qはバッテリー電気自動車(BEV)やプラグインハイブリッド自動車(PHEV)、レンジエクステンダー式電気自動車(EREV:電気自動車のバッテリー残量が少なくなると電力を補給するレンジエクステンダーを搭載した電気自動車)用のナトリウムイオン、M3P、LFP 、NCMバッテリーを搭載する予定です。またCheryの「QQ Ice Cream」や「Ant」など他車種にも、ナトリウムイオンバッテリーが搭載されるかも知れません。

CATLの研究センター副所長の黄起森(Qisen Huang)氏は昨年末に、ナトリウムイオンバッテリーは、航続距離400km以下のBEVに適しており、ABバッテリーパックソリューションを一緒に使うことで、航続距離500kmのBEVも可能だろうと公式に発言しています。また、お客様への初期商用化に向けて、今年度中にナトリウムイオンバッテリーの生産量を5 GWhまで引き上げる準備をしている発表しました。

ここからはナトリウムイオンについての注意事項について説明しますが、上記のように全てがバラ色の技術ではないということをご理解ください。

第1世代ナトリウムイオンバッテリーのエネルギー密度は十分な水準ですが、180Wh/kgのLFPや300Wh/kgのNCMと比べると見劣りします。黄氏もこの点を踏まえて、第1世代はエネルギー密度に限界があるため、先述のCheryやBYD「シーガル」(将来的にBYD独自のナトリウムイオンバッテリーを搭載されるとの話もあります)などの航続距離が短い小型車向けであると指摘しています。もっとも複数のケミストリーを組み合わせるABバッテリーパックソリューションによって航続距離は伸ばすことができ、実際にそのような車種も市場にすでに投入されています。NIO(蔚来)の75kWhバッテリーは、LFPとNCMを使用したハイブリッドモデルです。

CATLは、ABバッテリーパックソリューションとナトリウムイオンバッテリーセルを上海モーターショーで展示しており、筆者も実際に会場を見学し、エンジニアからナトリウムイオンバッテリーの商用化の実情について話を聞く機会に恵まれました。同エンジニアは、量産の開始は今年度中だと認めましたが、サプライチェーン、とりわけ上流の原材料について、体制を整えるのには時間がかかると強調しました。

「課題は、ナトリウムイオンバッテリーに使われる素材です。そのため、サプライチェーンが十分に成熟し、量産できるまで時間がかかります」という説明に加え、ナトリウムイオンバッテリーを搭載した「iCAR」の初期生産台数は、やはりサプライチェーンの影響で限られたものになると述べました。ナトリウムイオンバッテリーは、CATLのCell To Pack (CTP)技術を活用して、直接パックに組み込まれ、その上でシャーシに搭載されます。

中国の消費者がナトリウムイオンバッテリーを搭載したBEVを購入できる日が近々来るのは間違いないでしょう。しかし、現在のLFPやNCMのように主流と呼べるほどの量産に至るまでには、まだ時間がかかりそうです。

翻訳/池田 篤史(翻訳アトリエ)

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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