中国のXiaomi(シャオミ)が2車種目のEVである「YU7」の正式発売をスタート。航続距離835km、5.2C超急速充電、690馬力、最新自動運転、独自車載OSなど高い完成度を実現。発売開始から3分で20万台を受注して、中国の自動車市場に大きな衝撃を与えています。
セダンの「SU7」ではニュルブルクリンク最速記録も
もともと中国の大手スマホメーカーであるXiaomi(シャオミ)がEV事業に進出、2024年3月末にミッドサイズセダンのSU7の発売をスタートしました。上のグラフはプレミアムミッドサイズBEVセダンセグメントの車種別月間販売台数の変遷を示したものです。白で示されたSU7は、発売開始後瞬く間に販売台数を伸ばし、2024年12月以降、黄色のテスラモデル3の販売台数を6ヶ月連続で凌駕。モデル3から王者の座を奪っています。
また、SU7のハイパフォーマンスバージョンであるSU7 Ultraを2025年2月末に発売。1548馬力という圧倒的な動力性能を実現して、ニュルブルクリンクにおけるタイムトライアルで7分04秒957を記録しました。これはリマックNeveraやポルシェタイカンターボGTの記録すらも上回るタイム。ただの直線番長ではなく、一周20km以上にも及ぶ世界で最も過酷な走行条件下においても優れた走行性能を発揮できることを証明したのです。

※記事中画像は発表会の動画および公式サイトから引用。(独自作成の表を除く)
SU7 Ultraの非量産バージョン「Ultra Prototype」ではタイムを大幅に更新して6分22秒091を記録。これは量産車最速のメルセデスAMG Oneを上回り、非量産EV最速のフォルクスワーゲンID.Rに次ぐ歴代3位という快挙。
そしてシャオミはEV第二弾として、SUVセグメントのYU7の正式発売をついにスタートしました。このSUVセグメントは中国だけではなく世界全体でセダンセグメントよりも販売ボリュームが大きく、シャオミのEVビジネスにとってはSU7以上に重要な存在となります。とくにSUVセグメントEV販売台数の王者として長年君臨しているテスラモデルYと競合することになるため、SU7がモデル3から王座を奪ったように、シャオミがテスラを打ち負かすことができるのか注目されています。
スタンダードグレードで航続距離は800km以上
では、シャオミYU7のEV性能や装備内容をテスラモデルYと比較しつつ確認していきましょう。まずYU7の車両サイズについて、全長4999mm、全幅1996mm、全高1600mm、ホイールベースが3000mmという中大型SUVセグメントに該当します。例えばポルシェカイエンが全長4930mm、全幅1983mm、ホイールベースが2895mmであることから、カイエンよりもやや大きいサイズ感ですが、中国では大型SUVの需要が急速に高まっており戦略的なサイズとなります。
YU7はRWDのスタンダードグレードとともに、Pro、Maxという3グレードを展開。スタンダードとProには96.3kWhのBYD製Blade Battery、もしくはCATL製LFPを搭載し、ProではデュアルモーターAWDを設定。さらにMaxには全グレード共通のV6s Plusモーターを後輪に、V6モーターをフロントに搭載しながら、101.7kWhのCATL製三元系Qilinバッテリー(関連記事)を搭載しています。
スタンダードグレードの航続距離は835km(中国独自のCLTC基準)に到達し、これは中国国内で発売されている電動SUVとしては最長航続距離を確保。モデルY RWDと比較しても240km以上も長い航続距離になっています。
充電性能については、全グレード800Vシステムを採用したことによって、96.3kWh LFPバッテリーの場合はSOC10%→80%まで21分間で充電可能。さらに最上級Maxグレードでは5.2C充電に対応させてSOC80%まで12分間で充電可能。15分間に620km分の航続距離を充電可能というセグメントトップクラスの充電スピードを実現しています。モデルYロングレンジバッテリーの32分という充電時間と比較しても圧倒的な充電性能であることがわかります。
ちなみに5.2Cの「C」は、Cレートと呼ばれるバッテリーの充放電速度を示す単位で、1時間で電池容量分を充電できる速度が1C。101.7kWhの5.2Cということは、約530kWの出力で充電できることになります。
充電性能や動力性能でも世界のプレミアムEVを凌駕
シャオミはYU7の強力な充電性能を安定的に達成するために、電池の冷却性能を飛躍的に改善しました。バッテリーパックの両面冷却機構を採用するとともに、SU7 Ultraに採用した熱放散システムを採用。さらにその性能を実証するためにYU7 Maxを使用して24時間耐久テストを実施しました。
これは24時間の間に急速充電と超高速走行を絶え間なく繰り返すことで、どれほどの距離を走行できるのかを試す耐久テストです。時速210kmに達するハイスピード走行と、合計30回にも及ぶ超急速充電を繰り返すことで、モーターやバッテリーをはじめとする熱対策を徹底しないと記録を作ることができません。過去にポルシェタイカンが3425km、またメルセデスの新型CLA EVが3717kmを達成していたものの、YU7では3944kmを達成。空力などを含めるとSUVのYU7はかなり不利と評するべきテスト結果で圧倒しているのは、やはりYU7の熱マネージメントが非常に優れていることを証明しています。
さらに、動力性能も抜かりがなく、エントリーグレードでも0-100km/h加速は5.88秒、最高速は時速240kmを達成。Maxグレードは最大690馬力を発揮することで、0-100km/h加速は3.23秒、最高速も時速253kmを実現します。これは2025年後半に投入見込みの新型モデルYパフォーマンスを上回る動力性能となると思われます。
扱いやすさや実用性でもカイエンやモデルYを一歩リード
収納スペースについて、特筆するべきはボンネット下のフロントトランクの容量が141Lと広大な点です。特にボンネットは電動開閉可能であり、しかもYU7には車外に8つものマイクが搭載。車両に近づいて車両操作を口頭で指示すると、車内のディスプレイやスマホアプリを使用せずとも、例えばフランクの電動開閉をはじめとする車両操作が可能となります。当然オーナー以外が操作できないように、声帯認証システムを採用することでセキュリティ対策を強化しています。
また、全幅1996mm、ホイールベース3000mmというサイズの割に最小回転半径は5.7mと小回りが効き、ProとMaxに標準搭載されるデュアルチャンバーエアサスペンションのおかげで、最低地上高は最大222mmを確保。車内サイズも、ヘッドクリアランス、後席足元空間などでも競合のモデルYやカイエンをリードしています。

上から前席頭上空間、後席頭上空間、後席足元空間、後席横方向長さという4項目でモデルYやカイエンを上回るスペースを確保。
価格設定や標準装備内容も圧巻
最も注目するべきはその価格設定でしょう。シャオミはベンチマークと設定しているモデルYよりも1万元安い25.35万元(日本円で約509万円)〜と設定しました。このようにYU7とモデルYを比較してみれば一目瞭然、EV性能や動力性能という車両性能でYU7が圧倒している様子が見て取れます。
また、最上級のMaxグレードでは、以下のようなスペック&装備が全て標準搭載で32.99万元(日本円で約662万円)と驚異的なコスト競争力を実現しています。
●101.7kWhバッテリーによって航続距離760km
●5.2C充電対応
●0-100km/h加速3.23秒、最高速253km/h
●25スピーカーオーディオシステム
●CDC付きデュアルチャンバーエアサスペンション
●LiDARと700TOPSのNvidia Drive Thor-UプロセッサーによるシティNOAを含めたハイエンドADAS
さらにYU7とモデルYの標準装備内容を比較していきましょう。
【YU7のスタンダードとProの標準装備内容】
●19インチのハンコックION evo SUVタイヤ(転がり抵抗や静粛性を最大化)
●16.1インチの3Kセンタースクリーン
●1.1メートルの横長スクリーン「HyperVision」はドライバーと助手席向けに情報をリアルタイムに表示して、乗員とのコミュニケーションを促進
●リアは6.68インチの取り外し可能なタッチスクリーン
●インフォテインメントシステムの駆動SoCはプロセスノード4nmのQualcomm Snapdragon 8 Gen3、主流車載チップのSnapdragon 8295と比較して性能向上
●USB Cポートは全部で6つ(最大67Wの急速充電対応)
●ワイヤレス充電は80Wの急速充電を2つ搭載
●メモリー機能付き電動テールゲートとフランクの電動開閉機能は期間限定で標準搭載
●セントリーモードやペットモードなどに対応
●シート周りはナッパレザーを期間限定で標準設定しながら、前席のゼログラビティシートを採用。8方向電動調整と4方向ランバーサポート、レッグレスト、シートメモリー、ヒーター、ベンティレーション、10ポイントマッサージに対応
●後席シートもヒーターが搭載。電動背もたれ調整はモデルYの120度を超える、最大135度までリクライニング可能
●ステアリング調整はヒーター付き手動調整(Maxグレードのみメモリー機能付き電動調整)
●ワンペダルドライブ
●256色のアンビエントライト
●窓ガラスは全面の二重ガラス化(Maxグレードのみ静粛性のさらに高い二重ガラスや30もの吸音材を最適化)
●ガラスルーフは1.7平方メートルとクラス最大級。Maxグレードには新世代の調光機能採用(遮光率99.85%とサンシェードと同等の遮光性)
●オプション設定でフレグランス機能や冷温庫もラインナップ
●ハイエンドADAS「Hyper AD」はシティNOAを含めて全国で対応可能。(シャオミは標準装備なものの、モデルYは6.4万元でソフトウェアアンロックが必要)
●V2L機能は最大6.6kW
●音響システムはMaxグレードのみ25スピーカー、それ以外は14スピーカー
●スタンダードグレード以外CDC付きデュアルチャンバーエアサスペンション搭載。スタンダードグレードにはCDC搭載
●エアバッグは7つ
●高張力鋼とアルミニウム合金の配合割合は90.2%。超高張力鋼は最大2200MPaと業界最高水準。車体のねじり剛性も47610ニュートンという強度を実現
●車両保証は5年10万km、バッテリー保証も8年16万km
この通り、標準装備内容をモデルYと比較してみても、圧巻と言うしかない充実の装備内容となっています。
乗り物酔い防止モードなどユニークな機能を搭載
標準装備内容の比較では取り上げきれなかったYU7の豪華装備内容や最新テクノロジーについてもいくつか紹介しましょう。まずエクステリアカラーは合計9種類をラインナップ。特にエメラルドグリーンやチタニウムシルバーという高級さを感じるカラーとともに、ドーンピンクやダスクパープルといったカラーは女性ユーザーをターゲットにしていると説明されています。
化粧鏡のライトは3段階の光量調整と調光機能を採用。13.7Lものパスコード機能付きグローブボックスやリアシート下部の5.2Lの収納スペースは、ハンドバッグや化粧ポーチ、子ども用のウェットティッシュ、タオルなどの収納性をアピールしています。
また調光ガラスルーフだけでなく、フロントガラスやサイドガラスもUVやIRカットを徹底して日焼け防止対策が施され、HEPAフィルターによる車内の空気清浄機脳もアピールされています。
さらに乗り物酔い防止モードという、加速や回生ブレーキの立ち上げを意図的にコントロールすることで乗り物酔いの発生率を51%低減することに成功。SU7では女性のオーナーの割合が約30%であり、女性や子どもの快適性などを考えた機能がアピールされているのです。
また、インテリアの至るところに磁気ポイントやネジ穴付きUSBポートを配置することで、充電コードを散乱させずにスマホやタブレットなどの電子機器の固定と充電をサポート。しかも後席頭上にも最大100WのUSB Cポートを二つ搭載し、ライトやプロジェクターを取り付けると車中泊などの快適空間に早変わり。SUVとしての空間の広さを生かして、移動するための車としてだけではない、生活空間としての快適性を追求した機能を提案しているのです。
まさにシャオミの掲げる、スマホとスマート家電、そしてスマートEVというエコシステムをシームレスに繋ごうというシャオミの試み(Xiaomi CarIoT)が体現されたのがYU7といえるでしょう。
ちなみに、この「CarIoT」というエコシステムの普及について、BYDとGACトヨタ、およびZhengzhou日産と協業することも発表されました。特にGACトヨタは25年度中に投入するbZ7にシャオミのCarIoTプラットフォームと、ファーウェイの車載OSであるHarmony OSを採用する方針を示しています。スマートコックピットという分野でシャオミやファーウェイというEVも手がける巨大テック企業との協業関係をさらに深めようとしているのです。
また1年前のSU7の速報記事でも解説した通り、シャオミは自身でスマートフォン事業を展開して独自OS「Hyper OS」をEVやIoT家電に採用しているものの、アップル「iOS」でもシームレスに車両に繋ぐことができます。UWBによる車両制御をはじめとして、Apple CarPlay、Apple Music、Apple Watchの使用やiPadの後席接続も可能です。中国国内でもシェアの高い競合のアップルユーザーの利便性をむしろ向上させることで、一度シャオミのCarIoTエコシステムに引き入れてしまうことで、今後シャオミのスマホやIoT家電の購入に繋げるという、中長期的にEV事業がシャオミのその他ビジネスにも相乗効果を生み出すことを目論んでいるのです。
受注開始1時間で約30万台の受注獲得
このようにして、シャオミが発売開始した2車種目のYU7は、SU7を上回る超強力なEV性能と、SU7を遥かに上回る豪華装備内容を実現することで、2025年以降の中国市場における新たなベンチマークを確立したといえそうです。
ローンチイベント後の現地時間6月26日22時から注文ページが開設され、発売開始3分間で20万台、1時間で28.9万台の受注を獲得するという、中国の歴史上でも類を見ない売れ行きを記録しました。ただしこの段階での受注というのは5000元の手付金が7日間返金可能な状態であり、実際の確定注文数としては7日間経過しないと判明しません。それでも同じ条件で受注を受け付けていたSU7は、発売開始4分で1万台、27分で5万台、24時間で8万8898台の受注であったことから、SU7をはるかに上回る需要が存在することは間違いないでしょう。
いずれにしても、まもなく生産がスタートする第二工場の性能能力を含めても、すでに今年分の注文はほぼ完売したと言えそうです。
はたして王者モデルYが、今後も中国市場での販売台数トップを死守するのか。それともYU7がモデルYの需要を奪うような形で王座を引き摺り下ろすことはあり得るのか。販売動向には要注目です。
またシャオミは2027年中にも海外市場に進出する方針を表明済みです。特にシャオミは欧州市場で高いスマートフォンのシェア率を誇っていることから、まずは欧州などへの展開が予想されます。そして我々日本市場でもYU7をはじめとするEVを発売する可能性にも期待せずにはいられないでしょう。YU7に続く新型EVの動向も含めて、シャオミの最新情報からますます目が離せません。
文/高橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル)
コメント