フォルクスワーゲンが電動コンパクトSUV「ID.4」を発表

2020年3月3日、フォルクスワーゲンがブランド初の電動コンパクトSUVである『ID.4』を発表しました。『ID.3』に続く純電気自動車で、ヨーロッパ、中国、アメリカで、今年中に発売されます。

フォルクスワーゲンが電動コンパクトSUV「ID.4」を発表

ジュネーブモーターショー中止で急遽ウェブ発表に

3月2日からプレスデーが始まる予定だった『ジュネーブモーターショー2020』は、新型コロナウイルスの影響で2月28日に中止が発表されました。このショーで新型電気自動車を発表する予定だった各社は、急遽それぞれにウェブなどを通じての発表に切り替えました。興味深い新型電気自動車がいろいろ登場しましたが、今回はまずその第一弾として、フォルクスワーゲン『ID.4』と、『ID.3』の量産バージョンにについて発表された内容を紹介します。

ID.4に関しては、YouTubeのVolkswagenチャンネルにも新登場を予告するイメージ動画が公開(3月3日)されています。

『Prepare for the all-new ID. 4/Volkswagen』(YouTube)

『ID.4』はMEBを採用した2番目のモデル

今回発表された ID.4 は、フォルクスワーゲンの電動化戦略を担うモジュラーエレクトリックツールキット(MEB)を活用。コンパクトEVである ID.3 に続き、MEBを採用したIDファミリーとして2番目の電動モデルとなります。

今までにコンセプトカーとして提示されていた『ID.CROZZ(アイディ. クロス)』がより市販に近いプロトタイプとして発表されたもので、詳細なバッテリー容量や価格、サイズなどはまだ公表されませんでした。とはいえ、同社COOの Ralf Brandstätter(ラルフ・ブランドシュテッター)氏は「私たちは、 ヨーロッパ、中国、米国で ID.4 を生産、販売します」と明言。今年中に発売することも表明していることから、このプロトタイプのデザインなどは、ほぼ市販モデルに近いと考えていいでしょう。

搭載する駆動用バッテリーの総容量は発表されませんでしたが、「非常に優れた空力特性と大容量バッテリーにより、最大航続可能距離はフル充電で 500km(WLTP)」であることには言及されています。ID.3 のようにバッテリー容量別のグレードが設定されると仮定すると、大容量モデルで航続距離500kmを標榜すると考えるのが自然です。具体的には、50〜80kWh程度の中で、バッテリー容量を選択できるのではないかと思われます。

ID.4、サイドビューの『イメージ。

4WDモデルも追加予定

デザインとしては、MEBの利点を活かし、短いフロントオーバーハングと長いホイールベースを確保して、広い室内空間を実現していることが特長です。バッテリーをボディの中心近くに配置することで、低重心化とバランスのいい軸荷重配分を実現。また、コックピットには「タッチスクリーンとボイスコントロールによって、ほぼ全ての機能を操作することができる」ことが紹介されました。

タッチスクリーンでの操作といえばテスラ車が特徴的で、フォルクスワーゲンの『e-Golf』をはじめ、欧州メーカーあら登場する電気自動車は、どちらかというと従来のエンジン車のインターフェースを受け継いでいる印象がありました。具体的には、すでに発表されている ID.3 に近いものになるのでしょうが、ID.4 の発表ではその室内空間を「オープンスペース」と呼び、広々とした明るいインテリアスペースであることが強調されています。どの程度、「殻を破った」インテリアが採用されるのか楽しみです。

『The all-electric ID.3 – Now you can』(YouTube)

ID.4 は、まず後輪駆動モデルが登場。後日、電動4WDモデルも追加される予定になっているそうです。

『ID.3』の量産モデルについての発表も

フォルクスワーゲンでは中止になったジュネーブモーターショーで ID.3 量産モデルも展示予定だったとのこと。今回のプレス発表では、ID.3 の具体的なスペックなどについての情報もアナウンスされました。

2019年に予約が開始された発売記念モデルの「ID.3 1st」の事前予約は、3万台限定の予約枠に対して、すでに3万7000件を超える受注が入っているとのこと。

今後、市販モデルとしては「ID.3 Pure」、「ID.3 Pro」、「ID.3 Pro S」の 3 つのバリエーションが用意されるとしています。それぞれの特長を整理しておきましょう。

ID.3。

ID.3 Pure
エントリーモデルとして、容量45kWhのバッテリーを搭載。一充電最大航続距離は330km(WLTC ※EPA推計値=約294km)。ドイツにおけるベース価格は3万ユーロ(約358万円)以下。モーターは、2種類の出力レベル(93kw/126PS、110kw/150PS)から選択可能。

ID.3 Pro
バッテリー容量は58kWh。一充電最大航続距離は420km(WLTC ※EPA推計値=約375km)。出力レベルは 107kW/146PS または 150kW/204PS から選択可能。3万5000ユーロ(約417万円)以下で購入可能。

ID.3 Pro S
最上位バージョンの位置付け。バッテリー容量は77kWh。一充電最大航続距離は550km(WLTC ※EPA推計値=約491km)。出力レベルは 150kW/204PS。100kWの急速充電に対応。

IDファミリーの高性能モデル「GTX」には言及なし

ところで、フォルクスワーゲンの電気自動車、IDファミリーには、デュアルモーターの高性能モデルである『GTX』が今年中にも発表されるのではないかとも伝えられています。電気自動車の魅力の幅を広げる意味でも期待が膨らむことですが、『ID.5 GTX』や ID.3、ID.4 にGTXグレードが設定されるかどうかなどについての発表はまだありませんでした。

フォルクスワーゲンの電動化戦略は一歩前進

いずれにしても、ID.4 の発表によって、フォルクスワーゲンの電動化戦略が着実に一歩前進しました。今までにもお伝えしてきたように、フォルクスワーゲングループはeモビリティの世界的なリーダーとなることを目標に掲げ、2024年までに330億ユーロ(約4兆円)を投資。2021年から年間最大33万台、2025年までに約150万台の電気自動車を生産する方針を打ち出しています。

欧州や中国を中心に生産拠点の整備も進め、スウェーデンのNorthvolt と合弁企業を設立して、2024年からは年間16GWhの生産能力をもつバッテリーセル工場建設計画も進めています。

フォルクスワーゲンのような世界的大企業でも、エンジン車から電気自動車へのシフトは一朝一夕に実現できることではありません。大きな決断とともに、eモビリティ時代へのチャレンジを進めるフォルクスワーゲンに、今後も注目していきたいと思います。

ただ、最初のMEBモデルである ID.3 にしても日本導入は2022年以降とされています。なんだか日本が置き去りにされつつあるようで……。待ち遠しいですね。

(文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. e-UP!の断念もありましたので、CHAdeMOの規格に上手く対応できるのでしょうか?

  2. 保守的な日本のEV市場は今一盛り上がっていないので導入は後手になってしまうのでしょう!
    EVのメリットをもっと訴求せねばと考えさせられました。

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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