女神湖氷上試乗会で日産のEVなど電動モデルの走りをレポート/e-4ORCEが扱いやすい

2023年1月、日産が長野県の女神湖で開催した氷上試乗会で、アリア、サクラなどのEVやノート、キックス、エクストレイルなどのe-powerといった電動モデルをじっくり試乗。モータージャーナリスト、諸星陽一さんのレポートです。

女神湖氷上試乗会で日産のEVなど電動モデルの走りをレポート/e-4ORCEが扱いやすい

氷上の走りで電動モデルの利点を実感

長年にわたり、日産は氷結した湖上などを使って、ウインターシーズンの試乗会を開催している。この試乗会は一般的な試乗会のように決まった車種の評価を行うものではなく、さまざまな技術を体験するために行われることが多い。古くは4WDの駆動配分、ABSやトラクションコントロールの体験から始まったイベントである。

試乗会資料より引用。

現在もこうしたタイヤのコントロール技術を体感するイベントであることは変わりないが、電動車が増えてきたこともあり、電気によるタイヤコントロールがいかに迅速で、正確であるかを体験するイベントに様変わりしてきた。2023年の氷上試乗会では、GT-RやフェアレディZなどハイパフォーマンスモデルも用意されたが、今回私が注目したのはBEVのアリアとサクラ。そして日産独自のシリーズハイブリッドであるe-powerを採用するエクストレイル、ノート、キックスといった電動モデル。モーター駆動であることが、いかに低ミュー路で有効かということを体験した。

まず、定常円を使ってノート、ノートオーテッククロスオーバー、キックスを試す。いずれも駆動方式は4WD。ノートとノートオーテッククロスオーバーは基本的なシステムは同一だが、車高が25mmほど高い。車高が高いということは重心も高くなり、氷上などの滑りやすい路面ではドライブフィールを落とす原因になりがちだが、ノートオーテッククロスオーバーはそうしたネガティブな部分は感じることがなかった。

キックスはノートよりもエンジンのパワーがあるノートオーラのシステムを採用する。より力強くモーターを駆動させている印象で、定常円でのドリフトコントロールもしやすい。モーター駆動はトラクションコントロールなどを的確に作動させるが、人間が行うマニュアルコントロールについても、的確で素早い反応を示す。グリップの変化が急激に起こる氷上ではクルマ任せにしない状況でも、電動車両の利点が見えてくる。

アクセルやステアリングの操作にも俊敏に反応

次に行ったのがスラローム走行。スラローム走行は、コース上に置かれたパイロンを左右にかわしながら正確に蛇行していくもの。まずはVDC(ビークルダイナミクスコントロール=車両操作や挙動を監視して車両のトラクションコントロールや姿勢制御を行う機能)をオンとしたまま走った。VDCをオンのまま走っても、横滑りが完全に抑制されるわけではない、アクセルを急激にオフにしてステアリングを切り込むと、通常以上にクルマはインを向く。これはどのモデルでも同じだ。エンジン車でも同じような特性を示すが、電動モデルはアクセルオフ時の荷重移動がエンジン車よりも敏感に、そして大きく発生するので動きもシャープになる。この後アクセルを踏んでいくと、的確なトラクションがタイヤに伝わりクルマが安定していく。

次にVDCをオフにして走る。VDCオフにするとクルマ本来の動きを体験することが可能だ。VDCオフが可能になっているのは、スポーツ走行を楽しむためではない。もちろんスポーツタイプのクルマでは、VDCやトラクションコントロールなどをオフにすることでサーキット走行などでアクティブな走りを得られるようにしている。しかし、サーキット走行をするようなタイプでないクルマでもVDCやトラクションコントロールのオフスイッチは装備されている。これは雪道でスタックした際に空転させながらもタイヤを回転させたほうが脱出しやすい場合があることや、タイヤチェーンを装着した際にチェーンの内側でタイヤが空転するような状況で出力が絞られることを防止するためのものである。

VDCオフにするとタイヤの滑りが極端に増えてしまうので、ステアリング操作やペダル操作を間違うと、あっという間にスピン状態に陥る。しかし、こうした状況であっても電動モデルはアクセル操作に対するトルクの立ち上がりがいいので、的確な操作を行えば正常な挙動に復帰することができる。

ノート、ノートオーテッククロスオーバー、キックスのうちもっとも運転しやすかったのが、ノートオーテッククロスオーバーだ。微少舵角でのコントロール性が高いのがその要因。車高を25mmアップしているので、初期のサスペンションの動きに余裕が持たせているのだろう。グリップの低い路面では、サスペンションの動き出し初期の動きがゆるいほうが扱いやすい。また、車高アップはわだちやギャップが多数発生する降雪地帯ではかなり有利に働く、オーテッククロスオーバーと雪道との相性はかなりいいものだと言える。

電動化で制御規模は3倍に強化。車重への慎重さは必須

さて、試乗会後半はワインディングを模した周回コースでの試乗となった。電動系の試乗車はサクラ、エクストレイル、ノートオーラニスモ、そしてアリアの4WD。そのほかにもフェアレディZとGT-Rも用意された。周回コースでの試乗は、かなりお楽しみ要素が強いものである。

これらの車種を試乗して感じたことを総合的に書いていく。まず、滑りやすい路面ではやはり軽さは重要な要素であることを再確認した。とにかくサクラが乗りやすい。そしてノートオーラニスモも乗りやすかった。サクラはFFだがフラットな路面であれば凍結した湖上ならFFで十分に走れる。試乗車はブリヂストンのブリザックが装着されていて、氷上性能のグリップがしっかりしているのには感心させられる。

もちろん4WDのほうが路面に効率よくトルクを伝えられるので、ノートオーラニスモなどは加速が力強く、速度もどんどん高くなる。速度が上がればステアリングコントロールもペダルコントロールも早く行わなくてならなくなるが、それらの反応がいいのでドライビングしやすい。ペダル操作、とくにアクセルオフのペダル操作はBレンジで、e-ペダルをオンにすると前後荷重移動がしやすく、アクティブに走りやすい。

エクストレイル、そしてアリアの4WDは駆動トルクが大きいことに加えて、4WDであることからとにかく加速がいい。そして採用されている4WDシステムが単なる4WDではなく、最新のe-4ORCEであることでコントロール性も高いものとなっている。日産は機械式4WDの時代にATTESA(アテーサ)というシステムを開発。以来、積極的に4WD技術に取り組んでいるが、このe-4ORCEはその最新版だといえる。エンジン車の場合は1つのエンジンから出る駆動トルクを左右に振り分けるが、電気モーター駆動の場合はそれぞれ独立した動力源を前後に持っている。この状態がまず大きな違いで、優位性だ。

さらにモーターはアクセルのオンオフに対する反応が早く、この反応を前後に正確に振り分けることができる。左右の駆動力の違いは、ブレーキシステムを独立して制御することによって行う。つまり、前後左右4輪の駆動力制御が正確に行えるのが何よりの利点となっている。

その効果が大きく現れるのがコーナーリング。コーナーへ入ってからアクセルを踏んでいくと、クルマが安定してくる。つまり、ステアリングを切っている量に比例したコーナリングの軌跡を描くようになる。もちろんアクセルを踏みすぎればクルマは不安定になるが、アクセルをゆったりとそして適切な量で踏む(一般的な操作としては無理がななく、そっとという感じ)とクルマは素直に向きを変えてくれる。じつはこの動きを最初に実現したのは、第二世代のスカイラインGT-R(R32)のATTESA E-TSで、エンジン車の4WD技術を進化させたものだ。

駆動力が効率よくタイヤに伝わり、そしてコントロール性も高いとなると、走行ペースはどうしても速くなりがちだ。車重はエクストレイルが1.8トン、アリアが2.2トンとかなり重い。クルマの重さが持つ慣性モーメントは絶対的なもので、進化したとはいえスタッドレスタイヤの氷上性能には限界がある。一昔前、4WDは加速はできるがブレーキに限界があるので危険と言われたが、EVの4WDはさらにその上を行く危険性を持っている。現状、EVに乗ろうという考えを持っている人は、それなりに知識も豊富であるが、普及してくるとリスクはより高まるだろう。凍結路面では絶対的な速度を抑えることを心掛けたい。

今後、4輪に独立したモーターが装着され、それらが統合的に制御されるようになると、より正確でアクティブな駆動トルク制御が行えるにようになるだろうが、物理の法則は変えることができない。その折り合いをどうつけていくか? が課題となってくるだろう。

日産の資料によれば、エンジン車の4WDから電動化したことによって、制御規模は3倍に増加、さらにパワートレインとシャシーを統合制御するe-4ORCEにしたことで1.5倍に増えたという。つまり、e-4ORCEはエンジン時代の4.5倍もの制御規模を持っているという。現在、クルマの制御通信はCANというシステムをベースとしているが、制御量の増大と制御スピードの高速化が進むにつれ、CANでの制御には限界を迎えていて、今後はさらに高速化された通信手段へと変わっていくという。そうなると、クルマの動きはさらに上の段階へと進むことであろう。

【編集部注】今回の女神湖氷上試乗レポート。2月上旬に諸星さんから原稿が送られてきたメールを見逃していて、うっかり啓蟄の公開となりました。失礼しました。ともあれ、来年もまた冬はやってきます。氷上周回コース、楽しそうですね。(寄本)

取材・文/諸星 陽一

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					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

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