原付ミニカー規格で1人乗りEV『mibot(ミボット)』を開発中の広島のベンチャー企業「KGモーターズ」が、東京都内でプレス向け「先行試乗会」を開催しました。お披露目された試作車は着実に完成度が向上中。2025年秋の販売開始に向けて、1900台を超える予約が集まっています。
量産3000台に向けたロードマップ

CEOの楠一成氏。
※冒頭写真はこの日登壇した開発メンバーのみなさん。
2025年3月10日、KGモーターズ株式会社(本社:広島県東広島市)が、東京都内の自動車教習所を会場として開発中の小型EV『mibot(ミボット)』のプレス向け先行試乗会を開催しました。試乗の前にはCEOの楠一成氏や取締役の横山文洋氏らが登壇し、mibot のコンセプトを改めて解説、量産&販売開始に向けた進捗などが説明されました。
KGモーターズが1人乗り小型EV開発を目指し「ミニマムモビリティプロジェクト」が始動したのは2022年のこと。EVsmartブログでは当初から注目してさまざまな記事をお伝えしてきました。今回のプレゼンテーションでは、いよいよ今年の秋に迫った量産&販売開始に向けて、より踏み込んだ説明がなされた印象です。
mibot のことをまだよく知らない方はもちろん、興味しんしん、あるいは「すでに予約した」という方々に向けて、プレゼンテーションのポイントを紹介します。
まず、今までのプロジェクトの沿革です。CEOの楠氏は「くっすんガレージ」というYouTubeチャンネルでクルマ情報を発信していました。2020年に「小型EVを作っちゃおう」というプロジェクトを着想。2022年には完全オリジナルEV『T-BOX』を製作して東京オートサロン2022に出展。その後の「ミニマムモビリティプロジェクト」、そしてmibot開発へと歩んできました。
久しぶりに「T-BOX」初走行の動画を見たら2年以上前のものなのにやっぱり面白かったので、共有しておきます。なんというか、遊び心満点で真剣な取り組み姿勢は、現在のmibot開発にも踏襲されています。
次に、すでに確定した量産工場の紹介と、量産に向けた計画です。現在は、今年の秋までに「試作車両の完成」を目指して開発を続けている段階です。
2025年10月から2026年6月までの予定で、現在構築中の専用工場で生産を開始。当初はほぼ手作りで組み立てながら、2026年7月から2027年6月までに3000台を製作するための量産設備の開発や整備を進めていく計画です。
具体的な量産ラインの構想も説明されました。前述の2027年6月までに3000台。その後、初期段階では年間1万台規模、将来的には年間最大10万台が生産可能な工場にしていくプランとのこと。工場のコンセプトは「ワクワクと革新を生み出す場」です。
自動車をはじめとする日本のものづくり産業にそこはかとない停滞感が漂うなか、ベンチャー企業のフレッシュで熱意あふれるチャレンジが着実に前進している様子を知るだけでも、ワクワクして元気になれる気がします。
mibot はどんなEVなのか
mibotがどんなモビリティなのか。そのコンセプトや開発状況も丁寧に紹介されました。まずは主要スペックを確認しておきましょう。
短距離移動に特化した「原付ミニカー規格」で1人乗り、最高速度は60km/hです。搭載するバッテリー容量は7.68kWhで、一充電航続距離の目標は100kmに設定。充電はAC100Vのみの対応で、約5時間で満充電ということなので、1.5kW(100V×15A)程度で充電できる計算になります。
価格は「100万円以下が目標」であることはかねて公言されていました。今回の資料で「110万円」となっていたのは、税込価格だと思われます。以前は「税込100万円」を目指していたので、諸物価高騰の折、少し値上げを余儀なくされたのでしょう。
KGモーターズではmibot開発のミッションとして「小型モビリティロボットで持続可能な移動を実現する」という言葉を掲げています。少し噛み砕いた「KGモーターズが目指す世界」として示しているのが「誰もが、安全に、快適に、手頃な価格で自由に移動できる世界」です。
説明のなかで楠氏が示したのが、上の国交省の調査資料です。通勤や買い物など、1人乗車で10km未満の移動という、軽自動車でさえ「too much」となる移動のためのモビリティとなることがmibotが目指している役割です。
今までにもさまざまな超小型モビリティが発売されてきましたが、高価過ぎたり、ドアがなくて吹きさらしでエアコンもなかったり、作りがプアでブレーキの効きが不安といったさまざまな要因でそんなに売れることはなく、ひとつのジャンルを築くまでには至っていませんでした。
2024年に募集された「モニター応募者」と、すでに予約した方のアンケート結果です。予約者では「戸建ての持ち家」の方が87.9%と圧倒的多数です。また、予約者の95%以上がすでに1台以上の自家用車を所有しているというデータが示されました。
開発コンセプト通り、mibotが「より手軽で快適なセカンドカー」や「家族のチョイ乗りモビリティ」として期待されていることがわかります。つまり、mibotは「軽自動車の代替品」ではなく、今までになかった新しいモビリティであるということです。
100万円以下という価格と、先進のSDVとしての機能両立を目指しているのもmibotのユニークな特長です。1人乗りのミニマムなモビリティでありながら、エアコンやシートヒーターを装備。専用スマホアプリも自社開発中で、ドアの解錠や施錠、乗車前のエアコン操作や充電コントロールなどをアプリで行えるようにする予定です。また、車載ディスプレイの表示内容やデザイン、走行サウンド、パワートレインの出力特性などは無線通信によるOTA(Over the Air)でアップデートする機能を搭載する計画です。
EVで専用アプリが用意されるのは最近では当たり前のことになりつつありますが、大手ブランドのEV用アプリでも使い勝手や機能はイマイチというケースが多々あります。いろいろ秀逸なテスラアプリと比べると、残念なアプリが多いといってもいいでしょう。そのあたり、楠氏に質疑応答で尋ねると「私もテスラオーナーですから、バッチリ使えるアプリを開発中です」という答えが返ってきました。ベンチャーならではの自由な発想で、使いやすいアプリにしてくれることを期待です。
さらに、将来的にmibotは完全自動運転モビリティを目指すとしています。ただし、まずは量産する段階のモデルでは自動運転に必要なカメラやセンサーなどを搭載する予定はなく、必要に応じてハードウェアを追加できるようにする構想であることも説明されました。なにはともあれ、小さなボディに夢がいっぱい詰まってるって感じです。
仮に、家庭の契約電気料金が35円/kWh、満充電(7.68kWh=約269円)で80km走るとして、10kmの走行に掛かる電気代はわずか34円弱です。レギュラーガソリンが170円/Lで、燃費が20km/Lの軽自動車で試算すると、80km走るためのガソリン代は680円。85円/10kmという計算になるので、mibotの走行コストは燃費20kmの軽自動車と比べても半分以下でこと足ります。
原付ミニカー規格なので車検は不要。毎年の税金も原付並みの安さだし、任意保険もいわゆる「ファミリーバイク特約」でOKです。軽自動車や軽EVと比較しても経済性が抜群であることも説明されました。
スムーズな加速感とブレーキの効きに好印象
さて、先行試乗の感想です。試乗会の会場は東京都北区の王子自動車学校でした。休校日の月曜日、教室や教習コースを丸ごと借りての開催で、試乗は教習コースの外周路を2周、さらにS字やクランクなどを走り抜ける設定でした。
乗り込んでの第一印象は、フロントガラスまでの懐が思いのほかに深いこと。黒いボックスの中にはエアコンのユニットなどが収められているのだと思います。軽く手を伸ばしただけではフロントガラスに触れないくらいの距離感です。原付ミニカー規格では衝突安全試験は義務づけられていないものの、KGモーターズでは独自に安全性能の目標を立て、衝突安全テストも行っているとのこと。この「懐の深さ」は衝突安全性能にも貢献しているのだろうと思います。
今回の試乗車はまだ量産段階手前のプロトタイプです。ギアボックスをチューンナップ中で「アクセルオフの際などに少しガタつきが出ることがある」と事前説明があったように、細かなところはまだまだセットアップ中という印象ではありました。
でも、外周路で思い切りアクセルを踏み込んだり、ブレーキを掛けてみたりして。パーソナルモビリティとしては十二分にスムーズで快適な加速性能があることを実感。こうした小型モビリティでは「心許ない」ことが多いブレーキも「しっかり止まれる」印象でした。確認したところブレーキブースターやABSは非搭載。普通のクルマに比べて「踏みしろ」が小さい感じはありましたが、直線で50km/hくらいまで速度を出してからの急減速でも、ブレーキがロックすることもなく、しっかり減速できる印象でした。
短時間の試乗ではありましたが、楠氏をはじめとするスタッフのみなさんがまさに愛と情熱を注ぎ込んで開発していることが感じられて、ますます応援したい気持ちが高まったのでした。
今後、量産が近付くにつれて一般試乗などのチャンスが設けられるのではないかと思います。読者のみなさんも要注目。機会があればぜひmibotの走りを実感してください。

取り回しのよさはもちろん抜群。坂道発進もしっかりパワフルでした。
【関連記事】
2025年発売予定/KGモーターズの超小型EV「開発の思い」や「目標」をインタビュー(2023年3月13日)
TECHNO-FRONTIER 2023 トークセッション「パーソナルEVの可能性」をレポート(2023年7月30日)
税込100万円で予約受付開始! KGモーターズが小型EVの量産ロードマップを発表(2024年3月25日)
エネオスの次世代SSで感じた「EV時代への可能性」&超小型EVの実車をチェック(2024年4月15日)
小型モビリティロボット『mibot』お披露目/二子玉の「蔦屋家電+」で実車展示中(2024年8月8日)
取材・文/寄本 好則
コメント