EV給電を活用して水害から復活!「鶴之湯旅館」で感じた暮らしの進化のあるべき姿

2020年の熊本豪雨で大きな被害を受けた球磨川温泉「鶴之湯旅館」が復興を果たして営業を再開したことを知り宿泊してきました。宿泊取材に行ったのは7月下旬のこと。今年は勢いを増して日々押し寄せるEV関連のニュースに追われて書けないでいた記事をお届けする、歳末蔵出しレポートです。

EV給電を活用して水害から復活!「球磨川温泉鶴之湯旅館」で感じた暮らしの進化のあるべき姿

クラウドファンディングを応援しました

令和2年7月豪雨(熊本豪雨)で一階部分が浸水して大きな被害を受けた熊本県八代市の球磨川温泉鶴之湯旅館。EVsmartブログでは、2020年9月に『電気自動車と太陽光発電で進化中!〜鶴之湯旅館復活プロジェクトを応援しました』と題する記事で旅館の復興を目指したクラウドファンディングを紹介。目標到達に向けてきわどい感じになっていたのを『読者のみなさまにお願い「鶴之湯旅館復活プロジェクト」を成功させたい!(2020年10月13日)』という記事で応援しました。

復興作業中の様子。

鶴之湯旅館の創業は昭和29年(1954年)。総木造の三階建て(地下一階)の建築は「日本で一番新しい木造三階建て旅館」です。現在のご主人である土山大典(だいすけ)さんが、「曾祖父が創業して、両親が必死に守ってきた歴史的な価値のあるこの旅館を残していきたい」と、2006年から休業していた旅館を四代目として受け継いで再開したのは2016年のことでした。

2020年(令和2年)、旅館の被害を知った日産自動車のEV事業部部長(当時)であった小川隼平さんが、ボランティアによる復興作業を支援するために日産リーフと給電設備の無償貸与を手配。EVsmartブログ編集部は小川さんから状況をうかがって、協力呼びかけ記事で応援したといういきさつでした。

ご主人の土山大典さん。

2021年11月から旅館の営業を再開

その後、クラウドファンディングは無事に成功。鶴之湯旅館は、太陽光発電パネルを設置して、電気自動車である日産e-NV200の中古車を購入。ニチコンのV2H設備も導入して、「電気で備える新しい木造旅館」として生まれ変わることができたのです。

鶴之湯旅館での宿泊は「2階貸切」と「3階貸切」 の、1日2組限定です。通常は2名以上での受付ですが、今回の取材では私一人の宿泊を受け付けていただきました。

この宿を訪れる手段はやっぱり電気自動車であるべきです。熊本空港で日産リーフのレンタカーを借り、チェックインしたのは2022年7月26日の午後でした。

駐車場に設置されているEV用コンセント(200V)は、なんと、EVsmartブログでも何度もご紹介している「PLUGO BAR」でした。「EV充電設備を景観のノイズにしない」ことを目指して開発されたPLUGO BAR。歴史ある木造建築の風情や、すぐそばを流れる球磨川の景観ともかっこよくマッチしてました。

ニチコンのEVパワーステーション(V2H機器)が設置されていて、e-NV200はまさに「走る蓄電池」として活躍しています。

山あいの建物なので太陽光発電の効率はあまり良くないそうですが、この日は17時過ぎでも2.2kWを発電、自家消費する電力は全て賄うことができていました。

鶴之湯旅館では、電気による冷暖房設備はありません。7月下旬の暑い盛りだったこの日、私が宿泊する2階には懐かしい蚊帳を張った寝所が設えてありました。

続きの居間もいい風情です。

建物全体の消費電力が小さいので、夜間の電気もほぼe-NV200からの給電で足りているとのこと。もちろん天候次第ではありますが、無駄な電力消費を抑え、電気自動車と太陽光発電を軸とした仕組みを整えれば、電力エネルギーを自給自足するオフグリッドに近い暮らしが実現可能であることを感じます。

地域の自然の恵みを堪能

一階の大広間でいただく夕食の膳には、ご主人の土山さんが目の前の球磨川で獲ってきたという天然鮎の塩焼きや甘露煮をはじめ、地域の集落で栽培された無農薬の米や野菜、山菜などを使った料理が並びます。

春はタラの芽などの山菜、夏や鮎やウナギ、秋には鮎やモズクガニ、冬はジビエなどが楽しめるとのこと。

キレイに蘇った一階の大広間。夕食と朝食時には、この空間を独り占めさせていただきました。

「快適さの当たり前」を考え直す時間

翌朝、球磨川の対岸から撮影した鶴之湯旅館の佇まい。浴室棟の屋根に太陽光パネルが載っているのがわかります。

客室には、テレビも置かれていません。蚊帳の中で布団に入り、川風と扇風機で涼みつつ読書を楽しむ夜を過ごしました。

水害で被害を受けた大浴場も、真新しく改築されていました。源泉の温度は約30℃で、少し湧かして大浴場に使っていて、季節によって湯の温度を変えているとのこと。真夏のこの日は38℃と少し低めの温度になっていて、のんびりと長湯を楽しませていただきました。

鶴之湯旅館で過ごした一泊二日。私にとっては「快適さの当たり前」を考え直す時間になりました。真夏の夜は、窓を閉め切りエアコンの冷房を効かせた部屋で過ごすのが快適です。でも、蚊帳の中で扇風機を使い、球磨川の川音を聞きながら過ごすのも、冷房を効かせた部屋とはまた違った快適さを感じることができます。

EVシフトにも似たところがあって、「エンジン車の利便性や快適さを、大容量バッテリーで「置き換える」だけでは違うんじゃないか」と思っていて、では「EVならではの新たな快適さ、便利さの基準ってどうあるべきなんだろう」ということが、ここ数年、個人的に思案するテーマになっています。

端的に結論を言ってしまうと、バッテリー容量を控えめにしたEVを、再生可能エネルギーの電気で充電するのが最善。そのためにも、合理的な充電インフラ(もちろん再エネで)を構築する必要があるということです。また、今回借りたリーフのレンタカーのように、日本全国で、手軽に電気モビリティを活用できる、EVによる「MaaS」が進展することが不可欠だと考えています。

電気の冷暖房がないエネルギーミニマムなライフスタイル。自分の家で実践するのはなかなかハードルが高いでしょう。でも、鶴之湯旅館に泊まれば、その快適さや「ここはちょっと不便かも」ということを実感できます。熊本県八代市の山あいで、首都圏や関西圏からはちょっと訪れにくい場所ですけど。機会があれば、ぜひ訪れてみてください。

体験型スマートホームも完成

7月の熊本取材。実はもうひとつ、『太陽光発電と電気自動車でVPP普及を目指す福岡「リフェコ」のチャレンジを応援したい』という記事で紹介した体験型スマートホーム「くまもとルーフ・ルーフ」が竣工したということで、そこを取材する目的もありました。

太陽光発電に定置型蓄電池、電気自動車とV2H、エコキュートなどを組み合わせ、フィリップスの「Hue」というスマート照明システムを導入するなど、「2025年の日常」をテーマとして具現化されたサステナブル&スマートな住宅です。

そして、「くまもとルーフ・ルーフ」のプロジェクトを中心になって進めたリフェコ(当時)の辻基樹さんは、鶴之湯旅館の復活に向けて再エネと電気自動車活用のプロデュースを手掛けた方でもあったのです。

鶴之湯旅館のミニマムとは対照的ではありますが、「EVと再エネを活用した現代的で新しい快適のカタチ」の提案が、この「くまもとルーフ・ルーフ」といえるでしょう。

取材・文/寄本 好則

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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