EV充電へのビジョン【03】普通充電設備のリプレイスを合理的に進めるために

「EV充電エネチェンジ」で目的地を中心とした普通充電設備拡充に取り組むENECHANGE株式会社CEOの城口洋平氏が、指針の方向性を評価しつつさらなる課題について考察する連載企画。第3回は入替設置(リプレイス)についての提言です。

EV充電へのビジョン【03】普通充電設備のリプレイスを合理的に進めるために

※冒頭写真は普通充電器のイメージです。

まさに今も老朽化した充電器が放置や撤去されている

経済産業省が10月に発表した「充電インフラ整備促進に向けた指針」で、2030年までのEV充電設備の設置目標数を15万口から30万口へ倍増することが明示されました。

具体的には、高速道路SAPAや道の駅などを中心にした公共用急速充電器(経路充電)は従来通り3万口を目標とする一方で、宿泊施設などの公共用目的地充電(普通充電)が10~15万口、集合住宅や月極駐車場などの基礎充電(普通充電)は10~20万口という目安が示されています。日本政府が掲げる「2035年までに新車販売を100%電動車とする」目標を考えると、目的地充電や基礎充電の口数はさらに必要になると考えられますが、日本におけるEV普及を進めるために、重要なステップであり、EVユーザーとしても歓迎すべき目標です。

日本では、2013年(平成25年)にもEV用充電設備を一気に全国へ広げることを目的として、総額1005億円の予算を計上して「次世代自動車充電インフラ整備」の補助金制度を施行しました。現在、約3万基ある充電設備の多くが、2013年~2016年頃にかけて交付されたこの補助金を活用して設置されたものです。

EV充電器の耐用年数はおおむね8~10年程度とされていて、2013年からの補助金で設置した充電設備には8年間の保有義務期間が定められていました。つまり、この補助金で設置された充電器が保有義務期間を終えて耐用年数を経て、リプレイス(入替設置)すべき時期になっています。

さらに、2014年には国の「次世代自動車充電インフラ整備」方針に共鳴した、トヨタ、日産、ホンダ、三菱の自動車メーカー4社が出資して「合同会社日本充電サービス(NCS)」を設立。当時の国の補助金で全額ではなかった設置費用を補填するとともに、急速充電器、普通充電器ともに8年間の保有義務期間については通信費やメンテナンスなどの維持費用、充電時の電気代まで支給する支援金制度を実施していました。

こうした支援も、保有義務期間8年の期限を迎えれば無くなります。つまり、充電設備を設置している事業者としては、今までほとんど負担なく運用できていた充電器にコストが掛かるようになります。しかも、肝心の充電器は耐用年数の限界に近く老朽化しているのですから、さらにお金を掛けてメンテナンスやリプレイスをするのではなく、撤去してしまうケースが増えているのです。

普通充電設備リプレイスへの工事費補助率が原因

もちろん、設置している事業者としてEV用充電設備が集客に貢献していたり、今後のEV普及を見据えて必要と考えるのであれば、新しい充電器にリプレイスしたり、増設したいという判断になります。

ところが、現行の充電インフラ補助金の制度には「既設の普通充電設備、コンセント及びコンセントスタンドを撤去し、新たに普通充電設備、コンセント及びコンセントスタンドの設置のみを行う申請の場合、設置工事費の補助率を1/2以内とする」という規定があります。

普通充電設備については、設備費(機器代)の補助率は50%ですが、新設の場合は工事費は「1/1以内」、つまり100%の補助率で申請することができます。でも、リプレイスでは工事費への補助が50%以内になってしまうのです。このため、よく利用されている充電器であっても、機器を入れ替えて設置しようという事業者の判断を難しくしています。

また、設置者が積極的に充電器の更新を行おうとする場合でも、入替設置では工事費の負担が増大するため、すぐ近くの別の場所に「新設」として補助金を申請するようなケースが出てきています。

普通充電設備の工事費には、基礎や配線などの設置工事のほか、充電スペースのライン引き、案内看板の設置、電灯といった付帯設備の工事も含まれます。

入替であれば、基礎や配線はもとより、案内看板など多くの既存設備が流用できます。ところが、新設にすると案内看板などは充電設備の必須要件になっているので、基礎や配線(配管)を作り直すのはもちろん、既設の案内版をわざわざ撤去して付け直すといった無駄が生まれてしまいます。

リプレイスにも100%の工事費補助(ただし、補助額上限は半額)を

2030年までに30万口の目標を達成するためにも、普通充電設備のリプレイスを適切に進めることが重要です。また、利用実績が良好な充電設備こそ、耐用年数を迎えたのであればきちんとリプレイスされるべきです。そのためにも、ENECHANGEでは「普通充電設備リプレイスへの工事費補助率を100%とする(ただし、補助額上限は半額)」ことを経済産業省など関係各所に提言しています。

既存設備を流用できるリプレイスの場合、新設よりも工事費用の総額を低く抑えることが可能です。したがって、工事費への補助率は100%とするものの「上限金額を現状の最大135万円から半分の67.5万円とする」提案としています。

適切な場所に設置されている普通充電設備のリプレイスを進め、結果的に工事費の総額を抑えることになるのですから、補助金の有効活用にも繋がります。

こうした提言への気づきは、われわれが充電サービス事業者として日々多くのケーススタディを重ねているからこそ得られるものでしょう。「充電インフラ整備促進に向けた指針」が掲げる「ユーザーの利便性向上」「充電事業の自立化・高度化」「社会全体の負担軽減」という三原則を実現するためにも、ぜひ制度に反映していただくことを願っています。

連載/EV充電へのビジョン

【01】2030年の日本に必要なEV充電インフラの口数と出力は?(2023年10月30日)
【02】急速充電器は「必要な場所」を優先して設置を進めるべき(2023年11月14日)
【03】普通充電設備のリプレイスを合理的に進めるために(2023年12月7日)

提言者/城口 洋平(ENECHANGE株式会社代表取締役CEO)

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					城口洋平

城口洋平

東京大学法学部卒、英国ケンブリッジ大学工学部博士課程卒。同大学での研究成果をもとに2015年にENECHANGEを起業し、2020年にエネルギーテック企業として初めての東証マザーズ上場を実現。2021年に時価総額1,000億円を達成。起業家大賞(新経済連盟 2022年)受賞。経済産業省委員会、経済同友会、新経済連盟等にて、脱炭素戦略の政策提言にも参画。

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