東京・調布でオフグリッドハウスを実現している電気自動車ユーザーをレポート

調布市内で開催されたセミナーにEVsmartブログ編集長が登壇。当日の参加者のなかに、一軒家を改築して調布市内でオフグリッドハウスを実現したというリーフオーナーの方がいらっしゃったので取材させていただきました。大都市でも可能なライフスタイル変換の実例です。

東京・調布でオフグリッドハウスを実現している電気自動車ユーザーをレポート

電気自動車について話したセミナーでの出会い

2月11日、調布未来(あす)のエネルギー協議会が開催したエネルギーセミナー『eモビリティ~ 走る蓄電池と移動・暮らしの未来像』に、EVsmartブログ編集長として、私(寄本)も登壇しました。電動バイク『XEAM』を販売するMSソリューションズ塩川社長とともに、電動モビリティの現状などについてお話しして、ファシリテーターは環境エネルギー政策研究所(ISEP)研究員の古屋将太氏でした。

調布未来(あす)のエネルギー協議会は、公共施設の屋根を借りて太陽光発電を行う『調布まちなか発電株式会社』を運営。調布市内で34カ所の発電所を設置しています。また、再生可能エネルギー普及促進に向けた啓発活動として定期的にテーマを絞ったセミナーを開催しています。

そうした団体が開催したセミナーだけに、集まってくださった参加者のみなさんは、もともと再生可能エネルギーへの関心や理解の深い方が多く、質疑応答も盛り上がり、とても有意義な時間を過ごすことができたのですが……。それをさておき驚いたのが、参加者のなかに、電力を自給自足する「オフグリッド」を実現している方が数名いらっしゃったことでした。

オフグリッドって何?

オフグリッドというのは、電力会社の送電網(グリッド)には繫がらず、太陽光や風力などの自然(再生可能)エネルギーや蓄電池を活用して、電力を自給自足する仕組みのことです。自然エネルギーの普及とともに注目度上昇中の仕組みではありますが、自宅、まして東京などの都市部で実現するのは簡単なことではない、と思ってました。

今回のセミナーに参加してくださっていた湯浅剛さんは「電力自給からコミュニティへ」をキャッチフレーズとしてオフグリッド建築の普及を目指す『一般社団法人 えねこや』を主宰。本業は一級建築士で、東京・調布市内にある自身のオフィス『アトリエ六曜舎』をオフグリッドにしているそうです。しかも、電気自動車、日産リーフも購入したということで、何はともあれ実際に建物を拝見し、お話しを聞かせていただくことにしました。

アトリエ六曜舎ウェブサイト。表紙の写真がオフグリッドのオフィスです。

【関連サイト】
一般社団法人 えねこや

太陽光活用と鉛バッテリーでオフグリッドを実現

アトリエ六曜舎は、深大寺近くの閑静な住宅街にありました。築40年、普通に二階建ての一戸建てだった建物を、事務所兼住宅として、オフグリッドでリフォームしたそうです。

電柱から建物に繫がっているのは、電話線だけでした。
階段下のバッテリースペース。オフグリッドハウスの心臓部。

南向きに広く取った屋根の上には、総出力3.3kWの太陽光発電パネルと、太陽熱温水器を設置。階段下のスペースに、フォークリフト用の鉛バッテリーを24個置き、合計18kWh分の蓄電池としています。鉛バッテリーの特性として空になるまで使うと劣化を早めるので、おおむね9kWh程度を「実用域」として使っているそうです。これに、出力3kW(100V30A)のインバーターなどを組み合わせ、建物全体に電気を供給しています。

オフィスではエアコンも動いていて、湯浅さんとスタッフの方がそれぞれにパソコンでお仕事中でした。当然ですが、普通に快適なオフィスです。取材に伺った日は晴天で冬にしては暖かな日でもあったからでしょう、電池容量を示すインジケーターの数値はしっかり100%で動いてました。

設備には見学者用の説明書きも。
この日はストーブはお休みでした。

オフグリッドハウスのポイントは、限られた電力を上手に活用することでもあります。この建物では、断熱気密性能を高め、採光を確保&制御して室内空間の快適温度を維持するための「パッシブデザイン」を採用しています。

電気自動車同様に、厳寒期の暖房は大きな電力消費に繫がるので、六曜舎のオフィスには、薪でもペレットでも使えるバイオマスストーブを導入。空気循環装置を採用して、熱のロスを抑えながら快適な室内空間を保つ工夫も満載です。

さらに、玄関脇には懐かしい手動ポンプを備えた井戸までありました。昨年、房総半島の台風被害では長引く停電や断水が問題になりましたが、この建物なら安心です。

井戸! もちろんちゃんと水が出ました。

この建物はおおむねオフィスとして使用しているのですが(キッチンやバスルームもあります)、屋根に設置してある太陽熱温水器も十二分に性能を発揮していて、シャワーやお風呂に使う40度以上のお湯を普通の家庭で使う量の7割程度も供給できるそうです。

ちなみに、V2H(Vehicle to Home)活用を見越して日産リーフ(24kWの初期型を中古で購入。電池はまだ12セグを維持)を購入したものの、今のところ鉛バッテリーで事足りているのでオフグリッドハウスとは未接続。リーフは隣接したご自宅のガレージにあって、再生可能エネルギーに力を入れる電力会社からの電気による普通充電を中心に、おもに奥さまの足として活用しているそうです。

オフグリッド? 理想的だけど実現するのは難しいだろうなぁ、と思い込んでいたのですが、六曜舎を見ると「なんだ、もう実現できるし、普通に暮らせるじゃないか!」という印象です。

移動式「えねこや」も完成!

湯浅さんがオフグリッドハウス普及に取り組む一般社団法人の名称にしている「えねこや」とは「自然エネルギーだけで心地よく過ごせる、小さな建築(=エネルギーの小屋)」を意味しています。太陽光発電と蓄電池を活用して電力を自給するオフグリッドが前提で、地域に開かれて人々が集えるカフェやワークショップスペースなどを増やしていくことを目指し、湯浅さんを中心としたスタッフが提案やサポートを行っていくことに取り組んでいるのです。

2019年には、オフグリッドの木製トレーラーハウス『移動式えねこや』を製作するためにクラウドファンディングを実施。3回のワークショップを開催して、参加者とともに完成させました。すでに各地のイベントなどに出動して大活躍とのことですが、自重が2トン近くあり、リーフで牽引したかったけど無理、ということで、ランドクルーザーで牽引して走るそうです。

普段はランクルとともにオフィス横のガレージに。
説明用の小冊子もあります。
オフィス内にはワークショップの写真パネルも展示。

「移動式えねこや」は、出力1kWの太陽光発電パネルを搭載。蓄電池を積み、キッチンやロフトもある快適な空間に仕上がっています。

湯浅さんには、SDGsをテーマにしたテレビ番組から取材のオファーが来ているとのこと。また、近隣の自治体などが主催するイベントに出動する予定も続々と決まっているそうです。

「えねこや屋台」もあります。

脱炭素ライフを実現するための「選択肢」は、まだ世の中のスタンダードになっているものばかりではありません。10年前の電気自動車もそうでしたが、まずは自分がモルモットとなって、やってみる、使ってみる心意気が必要になることも。

EVsmartブログを愛読いただいている電気自動車ユーザーの方の中には、自宅や別荘などでオフグリッドへのチャレンジを構想している方が、きっといらっしゃることでしょう。でも、前例の少ないオフグリッドハウスを、きちんと設計したり施工してくれる業者さんを探すのは、なかなか大変なことですよね。

「えねこや」、そして湯浅さんは、インバーターなどオフグリッドシステムについては、オフグリッド挑戦への先駆者である『自エネ組(自給エネルギーチーム)』と連携。ペレットストーブは、長野県の『パイプ屋本舗』が製作する無電力ペレットストーブ(電力を使わずペレットを自動供給できる優れもの)を採用するなど、日本各地の、オフグリッド&持続可能なライフスタイル促進に取り組むさまざまな先駆者と連携しています。

私自身、自宅は太陽光発電さえ設置してない(屋上を緑化したので設置が難しい)し、別荘を持ったり、もう一度自宅を建て替えるなんてのは遠い夢ではありますが、オフグリッドには興味津々。これからも、湯浅さんと「えねこや」の取り組みに注目していきたいと思います。

湯浅さん、突然の取材、快くご対応いただき、ありがとうございました!

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)5件

  1. どこかで伺った方だと思ったら、グランドファンディングされていた「えねこや」へ私は寄付していました。家もオフグリッドされていたのですね。
    私の場合は、アイミーブに充電をしたくてソーラー発電を導入しました。1.6kWのパネルを自作して充電に励んでいます。
    充電できない分は電気が余るので、そこからオフグリッドへ向かいました。といっても本格的にやろうとすると電池とソーラーパネルへの投資を大きくしなければならないので、最低限の電池とパネルでできる範囲のミニ・オフグリッドです。冷蔵庫とテレビと小物など一部屋だけのそれも一部の家電だけを動かしています。これが現実的で、停電時にも対応できる形だと考えています。

    1. Eddyさん、コメントありがとうございます。

      オフグリッドの現実味を高めるためにも、蓄電池は大切なポイントですよね。新築ローンでテスラパワーウォール導入、っていうのが素敵だな、と、個人的には思っているのですが。
      完全オフグリッドでなくとも、数日間自立できるエネルギー環境が構築できると、安心ですよね。Eddyさんはじめ、クレバーなEVユーザーのみなさんのチャレンジに、今後も注目させていただきます。トピックあれば取材に行きますのでお知らせください!

  2. 寄本様レポートお疲れ様でした。
    かつて自身も電力会社から電気を買わない大型オフグリッドソーラー導入を夢見ていましたが手始めに導入した12V100Wソーラーで止まったままソーラー発電業者の罠に引っかかり3.5kWソーラー発電を導入してしまいました(爆)もっとも当家はi-MiEV導入済で2023年のFIT切れ対策でV2H導入も十分検討できますが。
    オフグリッドソーラーで得られる電力は小さいので山小屋生活みたいな省エネの知恵が必要になりますよ。実際ログハウスへ蓄電ソーラーを入れる人が多いですし。
    最近YouTube等へ中古の初期型リーフ電池をバラして別途調達したBMSへ接続し20kWh程度の蓄電池とする動画も結構見かけますが、電気工事士として冷や汗モノの物件も数知れません。そのへんはどう感じられますか!?
    ※もし僕が同じ事考えても妻子に反対されるオチが待ってますが。

    1. ヒラタツさま、コメントありがとうございます。

      日本EVクラブなどを通じて、コンバートのノウハウなどをのぞき見ていた感覚ですが、車載をばらしてBMSとか、確かな知識と技術の裏付けある「規範」は必須。うかつなチャレンジが道を狭くしてしまう危惧も感じます。

      ともあれ、中古EVや中古電池活用のノウハウや選択肢、いろいろ広がるといいですね。あと、V2H機器がもっと安くなるとか、リーフにも100Vコンセントが付くとか、あったらいいな、が山盛りです。
      ぜひ、ご家族を説き伏せつつ道を切り開いていただけることを!

    2. ヒラタツ様
      YouTubeフォローしています。デーモン閣下面白かったです。
      FITが切れるまでは売電一択ですよね。まだ蓄電池高いし。
      とはいえ、何時かは切れるので蓄電池かV2Hについて当方も色々勉強しているところです。
      ヒラタツ様のご自宅のソーラーパネルですが、10年で元が取れそうでしょうか?
      当方16年前にオール電化で新築時は3KWで300万円越えで、元を取るのに30年であっさり諦めましたが、2018年にパナ7.5KW売電26円/KWh契約、2019年に施工した際シミュレーション上では8年弱で元が取れる状況となっており、売電初めて半年といったところです。
      今のところ順調です。
      屋根に太陽光パネルを載せているEVユーザーの動向が大変気になっており、コメントした次第です。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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