電動車再確認【03】ポルシェ『カイエン』PHEVモデル試乗レポート【塩見 智】

モータージャーナリストの塩見智氏の電動車再確認シリーズ第3弾。今回は電動モデルを『E-パフォーマンス』と位置付けて、電気自動車の『タイカン』をはじめ、高性能なプラグインハイブリッドモデルをラインナップするポルシェから、『カイエン』のPHEVモデル2グレードに試乗したレポートです。

電動車再確認【03】ポルシェ『カイエン』PHEVモデル試乗レポート【塩見 智】

2グレードのPHEVモデルをラインナップ

ポルシェ・カイエンEハイブリッド、カイエンターボS Eハイブリッドに相次いで試乗した。カイエンは2002年に発売されたポルシェ初のSUV。あのポルシェがSUVを! と世間は大騒ぎしたが、蓋を開けてみれば大ヒット。スポーツカーブランドがSUVをラインアップする先鞭をつけた。今ではSUVをラインアップしていないブランドはほとんどない。

現行型は2018年に登場した3代目。初代も2代目も途中で大きなマイナーチェンジをしているので感覚的には5代目という分類だ。このクルマの電動化ヒストリーをおさらいすると、2代目に切り替わった直後の2011年にハイブリッドのEハイブリッドが追加され、2014年に2代目がマイナーチェンジした際、プラグイン・ハイブリッド化されたS Eハイブリッドが登場した。いずれも3リッターV6スーパーチャージャーエンジンに、モーターおよびバッテリーが組み合わせられていた。

そして現行型にはEハイブリッド(1300万円)、ターボS Eハイブリッド(2441万円)という2種のプラグイン・ハイブリッドがある。

カイエンEハイブリッド。

Eハイブリッドは、3リッターV6ターボエンジン(最高出力250kW、最大トルク450Nm)とモーター(同100kW、同400Nm)で4輪を駆動する。先代とは過給器の種類が異なるものの、エンジンの性能自体は大きくは変わらない。モーターの性能はざっと4割増し。バッテリーの総電力量も10.8kWhから14.1kWhへと約3割増加した。システム全体の最高出力は340kW(462ps)、最大トルクは700Nmに達する。

もうひとつのターボS Eハイブリッドは、4リッターV8ターボエンジン(同404kW、同770Nm)に、Eハイブリッドと同じモーター(同100kW、同400Nm)とバッテリー(14.1kWh)が組み合わせられる。システム全体の最高出力は500kW、最大トルクは900Nm。

カイエンターボS Eハイブリッド。

両車のパワーの差は、V6エンジンとV8エンジンが生み出すパワーの差。本質的な違いはこの部分のみで、ターボS Eハイブリッドのほうが1000万円以上高価なため、装備や仕立てに違いはあるものの、電動車としての成り立ち、振る舞い、使い勝手は変わらない。

電動を活用する豊富なドライブモードを設定

乗ってみると、実にポルシェらしいポルシェだ。どういうパワートレーンを採用しているかということ以前に、乗り味がポルシェ。すなわち乗員に常にボディの堅牢さを感じさせ、ステアリングホイール、ペダル、シフトレバー、ウインカーレバーに至るまで、操作系の取り付け剛性や動作精度が高く、動きに遊びが少ない。サイズ、重量、形状が異なるため、挙動は異なるが、操作で得られる満足感が911と同じレベルだと感じた。ポルシェを乗り継ぐ人にその理由を尋ねたら、一連の精度の高さを感じられる操作系と答える人は多いのではないだろうか。

Eハイブリッド、ターボS Eハイブリッドともに、「ハイブリッドオート=基本EVで走行し、バッテリー残量が低下するか、高い負荷をかけた場合にエンジンが稼働する」、「Eホールド=その時点でのバッテリー残量を維持すべく必要に応じてエンジンが稼働する」、「Eチャージ=バッテリーが満充電に近い状態になるまで常時エンジンが稼働して充電する」、「スポーツ=バッテリーにある電力を積極的に加速ブーストに用いる」、「スポーツプラス=バッテリーにある電力を積極的に加速ブーストに用い、さらに何度ブーストを求められても対応できるようにほぼ常時充電も行う」、「Eパワー=EVで走行する。135km/hまで対応」と豊富なドライブモードが設定されている。

システム部分は他社のPHEVと大きく変わるものではないが、スポーツカーブランドのPHEVらしい演出には抜かりがない。たとえば、ステアリングホイールにあるスポーツレスポンススイッチを押すと、20秒間に限って加速性能が強化されるだけでなく、アクセル操作に対する応答性が高まる。そのスイッチを押さなくても、加速力も応答性も十分だと感じたが、ただの電動車ではなくポルシェの電動車を選ぶ人ががっかりしない対策が施されているのかもしれない。正直に言えば、Eハイブリッドでも全域で十分な動力性能が得られたので、ターボS Eハイブリッドの真価がどこにあるのかがよくわからなかったが、速さに対する価値観は人それぞれなので、否定するものではない。

動力性能に見合ったブレーキ性能もある。Eハイブリッドで2295kg、ターボS Eハイブリッドで2490kgと乗用車としては最も重量級の両車だが、いずれも状況を問わず不安のない減速力を得られた。また踏み方に対するリニアリティも抜群で、車両をコントロールしやすかった。これもこのブランドを通じて一貫して得られる価値だ。

普通充電で感じる小さな「うれしさ」

Eハイブリッドはニトリ成増店駐車場とイケア新三郷店駐車場、ターボS Eハイブリッドを西武池袋本店の駐車場でそれぞれ普通充電してみた。ここのところ相次いでPHEVを試乗し、充電が当初の一大イベントから日常的な行為になってきたが、相変わらず時間を置いて車両に戻り航続距離が伸びているとうれしい。

いずれも残量ほぼゼロの状態で充電を始めると、残りの充電時間として「4時間30分」と表示された。メーター表記上のバッテリー残量がなくなった状態での燃費は街なかで6.5km/L前後、高速走行中心で11km/L前後だった。

どちらも満充電にした後、40km台の走行可能距離がメーターに示され、実際に40km前後走行するとEパワーモードに入らなくなって低負荷でもエンジンがかかるようになった。正確な数字はとっていないが、満充電時にメーターに表示されるのは現実的な数値なのだと感心した。

PHEVのカイエン2モデルに試乗し、PHEVとは古典的なICE、HEVと理想的なEV、FCVの間に置かれた現実的なソリューションだとあらためてしみじみ感じた。内燃機関でとことんまでパワーを上げて客を喜ばせようにも、許された走行時のCO2排出量に限りがある。かといってEVで理想とする動力性能と航続距離を実現するにはバッテリーの高価格が足かせとなる。仮に低価格で大量にバッテリーが供給できたとしても、そのCO2排出の多い方法で発電された電力を使うのでは効果が限定的とされる。また自由な充電環境が手に入る消費者ばかりでもない。PHEVは良いとか悪いとかではなく現実解だ。

人間の欲望が一番やっかい

PHEVにもいろいろあって、できるだけトータルでの効率を上げて航続距離を伸ばそうとするモデルもあれば、それだけで十分以上の動力性能をもつ内燃機関を搭載し、その上にバッテリー及びモーターを組み合わせ、電力を効率アップにも加速アシストにも振り分けられるモデルもある。カイエンEハイブリッドは後者寄り、ターボS Eハイブリッドは完全に後者だ。

PHEVであまりにハイパフォーマンスを追求すると、それを実現するためにどんどん重くなり、内燃機関のパワーを上げても、またバッテリー容量を増やしても思うように速さを得られないというジレンマに陥る。ま、それはICEでもEVでも同じだが、PHEVの場合、顕著だ。ポルシェをはじめラグジュアリーブランド各社もそれは重々承知のうえで、目の前のCAFE規制をクリアすべく、ラインアップをどんどんPHEV化している。

EVの技術もICEの技術も必要とする複雑なPHEVは、各地域、各国、各メーカーの複雑に絡み合う思惑が生んだ、まさに複雑なソリューションだが、PHEVカイエン2モデル、とりわけターボS Eハイブリッドの胸のすくような加速を味わうと、単純に気持ちいいと思ってしまう。人間の欲望が一番複雑でやっかいだ。

ポルシェ『カイエン』車種紹介ページ

(取材・文/塩見 智)

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					塩見 智

塩見 智

先日自宅マンションが駐車場を修繕するというので各区画への普通充電設備の導入を進言したところ、「時期尚早」という返答をいただきました。無念! いつの日かEVユーザーとなることを諦めません!

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