プレミアムブランドの自負を感じるPHEV〜ボルボ『XC40 Recharge Plug-in hybrid』北陸試乗レポート【御堀直嗣】

コンパクトSUVのプラグインハイブリッド車、ボルボ『XC40 Recharge Plug-in hybrid』に自動車評論家の御堀直嗣氏が北陸でたっぷり試乗。「EVへの架け橋」としての魅力や課題を含めて、ボルボ流PHEVの印象をレポートします。

プレミアムブランドの自負を感じるPHEV〜ボルボ『XC40 Recharge Plug-in hybrid』北陸試乗レポート【御堀直嗣】

電気自動車モデルも視野に入れたPHEV

スウェーデンのボルボは、高級車と位置付けるXC90を2016年に日本で売り出すに際し、プラグインハイブリッド車(PHEV)も若干遅れてではあったが市場導入した。前輪側に搭載されるガソリンエンジンにモーター機能付き発電機(ISG)を備え、後輪をモーター駆動とする4輪駆動(AWD=オール・ホイール・ドライブ)として実現した。

今回新たにXC40に追加されたPHEVは、前輪駆動(FWD)であり、ガソリンエンジンにモーターが組み合わされている。

ボルボは、16年のXC90以来、二つのプラットフォームを基本に車種構成しており、60シリーズ以上は『SPA』と呼ばれるプラットフォームを使い、40シリーズは『CMA』と名付けられたプラットフォームを使う。そしてCMAは、今回のPHEVだけでなく電気自動車(EV)も視野に設計されていて、欧州ではすでにXC40 Rechargeの「Electric」モデルもローンチされている。

XC40は、昨年48Vのマイルドハイブリッドを先に日本市場へ導入しており、PHEVは今年になって初めてとなる。欧州ではEVモデル同様すでに販売されており、XC40プラグインハイブリッドと呼ばれてきたが、今年から「リチャージ・プラグインハイブリッド」と呼ぶように車名変更している。

今回は、石川県金沢市を起点に北陸周辺を終日試乗する時間の余裕があった。宿泊したハイアットセントリック金沢の地下駐車場には、200Vの充電コンセントが6台分設置されており、宿泊者へのEVおよびPHEV対応がなされている。したがって出発の朝、車載のリチウムイオンバッテリーは満充電となっており、EV走行可能な距離は40kmの表示になっていた。諸元では41km(WLTC ※EPA基準の数値は未発表ですが、欧州仕様のWLTP値をもとに約37〜40km程度と推計できます)となっているが、すでに数千km走った試乗車であり、それまでの走行状況によりオンボードコンピュータ上の数値は運転の仕方の影響を受けているはずだ。

3つの走行モードで電気の走りを満喫

満充電からの走り出しはモーターのみである。当然ながら、モーターでの走りは、発進、加速とも何ら支障はなく、快適だ。アクセルペダルの操作に対する応答も的確で、運転しやすい。もちろん静粛性にも優れ、移動での心身の負担を減らしてくれる。

走行モードは、ハイブリッド/ホールド/チャージの選択肢があり、ハイブリッドモードで充電残量があれば自動的にモーター走行が行われる。充電電力がなくなるとハイブリッド走行になる。そこで印象深いのは、搭載されるガソリンエンジンが排気量1.5リッターの直列3気筒であるにもかかわらず、3気筒エンジン特有の振動や粗い騒音が室内へ聞こえてこないことだ。これは、昨年市場導入された48Vのマイルドハイブリッド車でも感嘆した点だ。

直列3気筒エンジンは、軽自動車で広く使われるエンジン型式で、登録車のコンパクトカーでも使われている。またBMWのMINIでも1.5リッターエンジンでは使われているが、他車と比べXC40の直列3気筒エンジンの快適な仕上がりは驚くべき水準だ。コンパクトSUVであっても、ボルボはプレミアムブランドであるという自負が、振動や騒音で不利な直列3気筒エンジンを使ってもそれを感じさせない仕上がりを目指させたのではないか。

ホールドは、リチウムイオンバッテリーの充電量を維持しながらハイブリッド走行するモードであり、チャージは充電量を回復させるためのモードだ。ともにガソリンエンジンを利用するが、とくにチャージモードではほとんどガソリンエンジンだけで走行し、モーターは発電に軸足を置くことになるが、1.5リッターの直列3気筒でも加速などで力不足を覚えることはなかった。もちろん、適宜モーター補助は行われているはずである。

やや硬めだが、しっとりと安心感のある走り

乗り心地はやや硬めだ。しかし体が跳ねてしまうような粗さはなく、しっかりとした乗り味で、走りに安心感がある。

金沢市を出て高速道路で富山県に入り、雨晴の道の駅で一休みした。高速道路では運転支援機能を使った。そのうち車線維持機能は、かなり車線に近づいてからハンドル操作が行われる制御となっており、作動がやや急すぎると感じた。車線の反対側へ寄って行ってしまうほどハンドルが切られるため、多少蛇行しながら車線中央へ収束するといった制御になるところは、軽自動車でも車線維持機能が搭載される時代となったいま、熟成遅れの印象があった。
【追記】この点については、ボルボ広報から指摘があり、運転支援のための車線維持のスイッチを別途操作しないと運転支援としての機能が作動せず、レーン保持の機能のみであるとのことである。(2021年4月6日)

また、減速の際に回生が働いているわけだが、そこから摩擦ブレーキも併用して止まる段階で、思ったより速度が落ちずブレーキペダルをより強く踏み込むことがたびたびあった。日産のe-POWERのように、ワンペダルで減速し、停止するようなモーター駆動を活かした減速制御を経験していると、これも熟成不足の感がある。変速機を持たないe-POWERに比べ、7速DCTの変速機を持つので、回生と摩擦ブレーキと変速段数を含めた制御に難しさがあるのかもしれない。

PHEVの利点を活かすには日本の充電環境が課題

車載バッテリーは、90セル、34Ah、326V(約11kWh)で、モーター走行は41kmという諸元である。世界的にも一日の移動距離は一般的に40kmといわれているので、日常的にモーターのみで賄えるだろうという性能だ。しかしそれは、毎日普通充電をできる環境での話である。

日本では、集合住宅の管理組合問題があり、マンションなどの駐車場に普通充電のコンセントをなかなか設置できない実情がある。欧州では、路上駐車が認められている地域が多いため、CHAdeMOだけでなくコンバインド・チャージ方式(通称コンボ方式)が採用されている。路上駐車するなら、そこに充電しに駐車するEVが長時間滞在なのか、経路充電なのかわからないためだ。したがって普通充電しか装備しないPHEVでも、日常的に充電できる。

しかし日本の現状では、集合住宅に住む人の多くは急速充電口のないPHEVを所有する意味は薄れる。ハイブリッド走行のできるPHEVに急速充電口を備え、急速充電器で充電することへの批判があったり、EV所有者と摩擦が生じたり、本来必要のない装備だという議論があったりし、それらは合理性や倫理の面で正当な話だ。しかし、集合住宅の管理組合問題を抱える日本では、普通充電の設置が解決できないとPHEVを所有する意味は薄れることになる。

その点はボルボ・カー・ジャパンも承知しており、国内販売台数のうちPHEVが占めるのは1割ほどではないかとの見方があるようだ。そしてEVへの架け橋として、戸建て住宅に住む消費者にPHEVを経験してもらいたいという。
【追記】この点について、今後目指すのは2割であるというのが公式コメントであるとボルボ広報からの情報があった。(2021年4月6日)

したがって、クルマの良し悪しではなく、充電事情によって、集合住宅に住み、普通充電設備を駐車場に設置できない人は、48VのマイルドハイブリッドのXC40を選択するほうが理にかなっている。いずれにしても、日本でもPHEVを含めた電動車の利点を活かすには、集合住宅の駐車場や賃貸の月極駐車場にも充電設備を設置することが困難ではない社会になることが大切だ。

そういう意味で、欧州自動車メーカーからもっと早く、そして多くのEVが導入されるのを、電動化に関心を高めつつある日本の消費者は待っている。エンジン車からマイルドハイブリッド、そしてPHEVを経てEVへという、自動車メーカーが想定する段階を踏んだEVへの移行は、消費者の願いと乖離しているといえなくもない。大都市に人口が集中し、集合住宅に住む人が多い日本の現状においては不都合だ。販売店も、PHEVの価値を訴求するのに苦労するのではないか。

(取材・文/御堀 直嗣)

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この記事の著者


					御堀 直嗣

御堀 直嗣

1955年生まれ65歳。一般社団法人日本EVクラブ理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。1984年からフリーランスライター。著書:「快走・電気自動車レーシング」「図解・エコフレンドリーカー」「電気自動車が加速する!」「電気自動車は日本を救う」「知らなきゃヤバイ・電気自動車は新たな市場をつくれるか」「よくわかる最新・電気自動車の基本と仕組み」「電気自動車の“なぜ”を科学する」など全29冊。

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