50%で300km? サクラオーナーには異次元感覚〜ボルボEX30で600km走り倒してみた

日産サクラがマイカーの中尾真二氏が、ボルボの新型電気自動車『EX30』を長距離試乗。サクラとは異次元の、電池残量50%程度で300km近い航続距離や急速充電性能に驚愕しつつ、約600kmを駆け抜けたレポートです。

50%で300km? サクラオーナーには異次元感覚〜ボルボEX30で600km走り倒してみた

旅行や仕事にも便利に使えるサクラだが……

筆者は日産サクラをファーストカーとして2年ほど運用している。現在のマイカーはこの1台なので買い物などの足以外に仕事や旅行での遠出にも使っている。仕事での車移動は1回あたり数10kmから100km前後で月に数回程度、1〜2泊の旅行(300kmから500km)は年に数回。この程度なら、バッテリー容量20kWhのサクラでも十分に運用可能だ。

サクラの使い勝手にとくに不満はないのだが、そんなEVのオーナーがバッテリー容量69kWh、航続可能距離はWLTCで560km、実用に近いEPA基準だと460kmという車に乗ったらどうなるのか? ボルボ・ジャパンから、Volvo EX30 Ultra Single Motor Extended Rangeを3日間借りることができたので、総移動距離600kmほどを走った感想をレポートしてみたい。

日産サクラは、バッテリー容量が20kWhと小さいものの一般的な乗用車としての利用で不便という認識はない。荷室、後席の広さ(これは特筆したい)、収納など軽自動車としてのパッケージングもよくできている。乗り心地やプロパイロット(1.0)による高速道路走行は、エンジンの軽自動車にはない快適さ。200Nmのトルクは我が家の家族3名乗車の峠道でもストレスフリーだ。

自宅に普通充電用のコンセント(200V/3kW)があるので、普段は電池残量の警告(SOC20%以下で表示される)が出たら(夜間)充電するという運用をしている。買い物や足がわりの利用なら、月に1回、普通充電で100%にしていれば足りてしまう。残量20%以下からでもサクラなら一晩(6~7時間)で100%になる。翌日に長距離移動があっても気にする必要がない。

電費は通年でならすと8km/kWh。区間電費で10km/kWhを超えることも珍しくない。

20kWhのバッテリーだが温度管理機能がついているので、急速充電をつなぐ長距離移動でも熱ダレすることはなく、1日に4、5回の急速充電を行っても充電効率が落ちることはほぼない。

もともとバッテリー容量が小さいのと、充電速度の制御があるため、道の駅やコンビニなどの20kW〜30kWの中速充電器でも、サクラにとっての最大効率で充電できる。充電が時間課金の場合、電力量あたりの金額では損をしていることにもなるが、どんな充電器でも30分あれば、2~30%台から80%前後まで回復する。充電器の出力が20kWでも90kWでも、夏場だろうが冬場だろうが30分で8~10kWhほど安定して入ってくれる。20kWhのサクラならばおよそ50%分、距離にして70~80km分は入る計算だ。

長距離移動では、SOCの残量30%を目安に充電ポイントを探し、100km前後の移動をつないでいく。これで、片道200km以上、全行程で300km以上の移動(旅行や出張)をこなすことができる。

とはいえ300km以上の移動となると、給油と同じような感覚ではなくなる。充電のための立ち寄りが必要だ。EX30の航続距離なら、計算上は東京から名古屋までなら途中充電なしで到達できるのだが……、 理屈ではわかるが、実際に運転してみるとどうなるのか。

SOC50%台で300km以上の走行可能距離表示。サクラオーナーにとっては異次元の感覚だった。

今回試乗のポイントはサクラオーナー目線の評価

サクラとEX30。車両の装備や動力性能、ユーティリティについては輸入SUVと国産の軽自動車を比較してもあまり意味がない。また、EX30自体のレビュー記事はすでにたくさんある。車両そのものの操作性や機能、乗り心地や電費などの詳細についてはそちら(関連記事アーカイブ)を参照してほしい。

今回は、輸入車EVの実力を国産軽EVオーナー目線で評価することを目的とした。バッテリー容量がサクラの3倍以上の69kWhもあるEX30だとどうなのか。航続距離も180kmから560kmに拡大される。こちらも3倍以上だ。普段使いの普通充電と出先での急速充電などの違いも気になる。

大容量バッテリーを搭載した輸入車の場合、日本の平均的な急速充電器は、機器の相性の問題やチャデモ規格に合わせるため、本国仕様と同じ充電性能が出ていない、充電器の出力制限がかかってしまう、といった話も聞く。また、普通充電も海外で一般的な9~12kWではなく3kWまたは6kWがほとんどだ。自宅は3kWのもっともシンプルなAC200Vコンセントを使っている。一晩の充電でどれくらい回復できるのだろうか。

まず、都内で車両を受け取り自宅に着いた時点で、EX30のSOCは79%となっていた。走行可能距離は443kmだ。この時点でサクラ感覚からすると異次元の距離だ。そこで考えたのは、事前にコースや充電ポイントなどを調べておくのではなく、3日間で500km以上を「思い付き」で移動してみることだった。

走行ルートは固定せず「思い付き」で選ぶ

自宅から近い東名高速道路青葉ICから西に向かうことにした。海老名SAで休憩してバッテリー残量などを確認した。移動距離は25km。SOCは79%から74%になっていた。5%分を消費したことになるが、走行可能距離は443kmから414kmになっていた。途中、渋滞はあったものの高速道路を普通に走行したため、区間電費は17.2kWh/100kmとなっていた。

サクラの電費表記は〇km/kWhと1kWhで何キロ走れるかを表している。テスラや輸入車は100km走行するのに何kWh消費したかを示す表示がデフォルトになっていることが多い。サクラ(国産EV)方式に換算すると、約5.8km/kWhとなる。

サクラで5km/kWh台の電費は冬場、ヒーターを入れた買い物など短距離移動の数字だ。サクラの車体重量は1080kg。EX30は1790kgなのでサクラより700kgほど重い。モーター出力もサクラ47kWに対してEX30が75kW。電費に差がでるのは当然だが、EX30の5.8km/kWhという数字は同クラスの輸入EVと比べて悪くはない。

まだ70%以上残っているので、山道のアップダウンを試すことにした。箱根方面か厚木で降りて宮ケ瀬・山梨方面にいくか考えていたら、うっかり厚木ICを過ぎてしまっていた。しかたないので大井松田ICで降りて箱根方面に向かうことにした。

SOCが6~70%で走行可能距離が300km前後あると、思い付きでルート変更しても困らない。寄り道で50km余分に走っても、充電ポイントを増やすかどうかといったところ。残念ながらサクラにはできない芸当だ。

箱根の入り口、湯本付近でメーターを確認したところ、SOC65%、走行可能距離365km。海老名SAからは42kmほど走っていた。区間電費は15.2kWh/100km、約6.3km/kWhだ。小田原厚木道路など高速道路区間もあったが電費が改善し、40km走って5%分(約3.45kWh)しか減ってない。

峠のアップダウンで動力性能と回生状況を確認

箱根の上りは箱根ターンパイクや箱根新道ではなく、旧道を使った。思い付きで走るルートは、走行条件のよい道ばかりとは限らないからだ。また、箱根街道の七曲りのようなワインディングでの乗り味や電費を見たかったという理由もある。

EX30は全幅が1835mmと国産車と比較すると小さくはない。機械式駐車場のサイズ制限ギリギリだ。その分トレッド幅が広くなり安定感+回頭性が高くなる。EV特有の低重心・高トルク(345Nm)ともあいまって、上りのつづら折りも軽快に駆け上がる。

サクラの200Nmもかなりのもので、家族旅行の3名乗車+荷物を積んだ状態の峠道でも軽自動車ではありえない動力性能をみせてくれる。だが、若干足回りとタイヤが負けている感がある。

EX30は、完全停止するワンペダルドライブが可能だが、回生ブレーキの効きは強くない(切り替え機能なし)。そのためアクセルオフの減速感はあまりないが、七曲りコーナーもそのままトレースしていく。急こう配の左カーブは、イン側が段差のようになっているのでラフな運転をしているとアウト側に膨らみやすいのだが、EX30はこの状態でもステアリングなりに曲がってくれて、センターラインを割ることはない。必要ならステアリングの切り足しもできる。

旧道をおよそ10km走行し、芦ノ湖手前の地点でSOCをチェックしたら57%まで減っていた。およそ8%分、5.52kWhを消費したことになる。この区間だけなら55kWh/100km(1.8km/kWh)という電費になる。だが、このあと三島方面に先行車の流れに乗る形で下っていくと、61%まで回復した。概算だが、箱根峠越えを約4%(2.76kWh)の消費で済ませたことになる。ただし、1名乗車(+PCやカメラなどの荷物)・気温22度、エアコン25度設定という条件がつく。ちなみにエアコンはONにしていたが、忘れていて途中窓をあけたりしていたので、おそらくエアコンはほとんど稼働していなかったと思われる。

サクラの下り回生性能は、しっかり調べたことはないが、筑波山の下りではSOC13%から18%まで回復したことがある。20kWhの5%分とすると約1kWhの充電ができたことになる。サクラの電費ならおよそ8km走行分。EX30の4%(同じ道ではないので比較できないが)はおそらく5~6km走行分に相当するはずだ。

150kW充電器で最大83kWの充電出力

駿河湾沼津SA下り線。

箱根から御殿場に出て新東名高速道路に乗り、駿河湾沼津SAで充電することにした。SOCは56%で、まだ充電する必要はなかったが、150kW器での充電能力を確認するために昼食をかねて立ち寄った。

充電器の出力表示は83kWが最大だった。充電電圧を400Vとすると207Aだ。他に充電している車両がなかったので、よい条件で充電できたようだ。30分の充電で86%まで回復した。

こんな急速充電出力も、サクラでは見たことがない。

走行可能距離は484km。自宅を出発してからここまでの走行距離は110km。高速道路を降りて寄り道した割にはあまり走行距離を稼げていない。ここまでの平均電費(メーター表示)は14.3kWh/100km(6.9km/kWh)だ。このあと、浜松いなさJCTで東名高速道路にスイッチし、音羽蒲郡ICまで走行し、目的地充電(普通充電)を試す。

充電場所は、古くから普通充電器を設置している「ルートイン」とした。最寄りのルートインは豊川ICの近くにある。一般道でそこまで戻りチェックイン。さっそく普通充電器につなぐ。SOCは48%、走行可能距離は270km。メーター表示の電費はほんの少し上がって14.2kWh/100km(7km/kWh)。自宅からの移動距離は295kmほど。

サクラで300kmの移動となると、出発時に100%にした状態で3回は急速充電をしているところだろう。最初の150km以内で1回。さらに次の100km以内に充電が必要となるから200km台前半で2回目の充電。高速道路は電費が落ちるので、300kmを目指すならもう1回の急速充電が必要だ。

そう考えると、サクラと比較してkWh当たりの電費が数km分落ちるくらいで、300kmを1回の途中充電があれば余裕で到達(今回は体験的に充電したが無充電でも走破可能)できるEX30の実用性は格段に高いといえる。サクラで1日300kmの移動をすることも可能だが、EX30の性能があれば、途中でルートを変えたり思い付きで立ち寄りできる自由が格段に広がる。

ホテルの普通充電で痛恨のミス!

ルートインの普通充電はEV充電エネチェンジが新たに設置したもので、eMPのネットワークにも連携している。前回利用時は3kWの出力だったが、出力6kWの普通充電器にアップデートされていた。フロントで充電方法のチラシをもらうと、CMキャラクターののんさんのチラシでちょっとアガる(笑)。エネチェンジになったといっても充電方法に大きな変更はなく、充電プラグを挿してカード認証をするだけだ。あとは、タイマー充電や、100%充電、80%充電など車両の設定次第で充電される。

だが、ここで痛恨のミスを冒してしまった。プラグをつないだとき、SOCは48%。100%充電まで「34時間6分以内」と表示された。あまり深く考えずそのまま車を離れてしまった。じつは、EX30には昼間の自宅充電、電力契約が30A以下、AC100Vでの充電などを想定して、充電電流を6A以下に制限する設定がある。これをオンにしたままだったのだ。

充電完了(満充電)まで34時間以上という表示のおかしさに気付くべきだった……。

オフにしておけば最大45Aまでの普通充電が可能になる。200Vなら9kWまでの出力となる。気が付いて電流制限を解除していれば30A=6kWでの普通充電がされたはずだが、6A以下で充電してしまったことになる。

充電器につないだときは夜の9時前。翌朝8時くらいまでたっぷり10時間は充電していたはずだが、62%までしか充電できていなかった。6kWの充電器に10時間つないで、9.66kWh。非常にもったいない充電となってしまったことが悔やまれる。ちなみに、深夜電力で充電するためのタイマー設定を解除し忘れて、普通充電器に繋いでいたのに充電できていなかったというミスもよくあるそうだ。今後は気をつけたいと思う。

ともあれ、62%のSOCでも走行可能距離は349km。表示通りなら途中充電なしで自宅まで(約260km)到着できるはすだ。目的地充電を失敗してもなおも300km走れるというのは、走行可能距離を2割くらい割り引いて考えても(実際それくらいマージンをとったほうがいいが)心強い。

だが、前日に豊川稲荷にお参りをする(このルートインの利用は初めてではないが、だいたいEVの評価での利用でお参りしたことがなかった)ことを決めていたので、チェックアウト後は参拝と豊川稲荷周辺を軽くドライブした。目的地充電でミスったとはいえ300km以上走れるという表示のおかげで、焦りや不安なく帰りのルートを考えることができる。

富士川SAでは最後まで40kW以上の出力を維持

じつは、今回もうひとつミスを冒している。途中で財布に現金が(ほとんど)ないことに気が付いた。SA等での食事やコンビニでの買い物はクレジットカードで済ませていたが、豊川稲荷周辺の駐車場でカード利用ができるところが少なく、コンビニATMで現金を引き出すために市内で余分な動きをすることになった。

豊川稲荷参拝で想定よりも時間と走行距離を浪費したので、復路の富士川SA(上り)で急速充電を1回行った。高速道路では、EX30も電費が15~20kWh/100kmくらいまで落ちるので、車両の走行可能距離が自宅まで届かなくなってきたからだ。

富士川SAの充電器は50kW器だった(最大125Aのはず)。残り21%で充電開始。開始1分で111A出ている。電圧は394Vとなっていたのでざっと43kW。150kW機では200A以上流れていたのでもう少しがんばってほしいと思ったが、充電開始から20分以上すぎても111Aの表示を維持している。初速は速くないが安定して110Aでてくれるならさほど効率は悪くない。終了1分前でも418V、111Aを維持していて、30分で21.4kWhほど充電、SOCは54%まで回復した。メーター表示の15.1kWh/100kmの電費で313km走行可能とでている。

自宅までの距離はおよそ121km。余裕である。自宅到着時のSOCは30%。自宅出発からは571km。これ以外に車両貸し出しのためのボルボ・ジャパンとの往復を合わせると620kmほど走行した。借用期間中の電費表示は14kWh/100km台。単純計算では7km/kWh前後となる。データをとった区間の走行距離(569km)と、途中3回充電した量(53.76kWh)、出発前と到着時のSOCの差分(31.05kWh)で計算すると6.7km/kWhだった。

この電費なら、EX30のバッテリー容量がサクラの3倍以上とはいえ、充電の電気代はそれほど変わらない可能性が高い。夜間電力を活用すれば電力契約もいまのまま(電灯線B 40A:夜間料金あり)でいけそうだ。なにより、1回の充電で400kmの移動が可能という安心感は大きい。とくに印象的だったのは、SOCの表示が50%以上あれば走行可能距離が300km前後確保されているという点だ。バッテリー容量からすれば当然なのだが、サクラオーナーにとっては異次元といっていい。

テスラやATTO 3のオーナーからエンジン車に乗っていた時より走行距離が増えたという話を聞いたことがある。EX30にたっぷりと乗ってみて、その感覚が理解できた。

取材・文/中尾 真二

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					中尾 真二

中尾 真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。「レスポンス」「ダイヤモンドオンライン」「エコノミスト」「ビジネス+IT」などWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアをカバーする。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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