CES 2023での中国の存在感 〜技術力の高さが国際的な軋轢を上回る

2023年の幕開けとともにラスベガスで開催された「CES2023」では、EVや自動運転などに関連した中国企業の出展が盛況でした。アメリカ在住のアナリスト、Lei Xing氏のレポートをお届けします。

CES 2023での中国の存在感 〜技術力の高さが国際的な軋轢を上回る

【元記事】China factor at CES 2023: tech confidence trumps geopolitical turbulence by Lei Xing

中国のEVや自動運転車(AV)関連技術が様々な方面から進出しつつある

6日間、10万歩以上、90km以上を歩き、ブースを見て回ったCES 2023。とくに新しく完成した巨大なLVCC西ホールでは車両技術に特化した展示があり、世界で最も影響力のあるテックイベントで中国の影響力がいかに大きいのか痛感しました。私は2016年から5年連続でCESに参加していましたが、世界を一変させたパンデミックが始まる直前のCES 2020以来、直接参加できておらず、今回3年ぶりの参加となります。

CESでは中国企業の出展数が非常に多く(大半が深センの企業)、他にもグローバル企業が中国市場に活用できる製品や技術を出展するなど、常に中国は注目されていました。

オミクロンの変異株が原因で中止になりかけた2022年のリアル(対面)イベントも含め、2年ぶりにリアルで開催されたCESは、参加者がざわめき、記者会見なども満員御礼で、いつもの活況ぶりを取り戻していました。CES 2023の来場者数は延べ12万人以上、うち海外からの来場者は3分の1、出展企業は3,200社以上でした。出展企業には300社以上の車両技術関連企業が含まれており、主催者はそれを根拠にCES 2023は世界最大級のオートショーであると宣言するようになりました。

今年のCESは、中国のパンデミック規制が解除された時期と重なったこともあり、中国からの参加者が予想以上に多かったです。パンデミック時にオンラインで知り合いになってから、初めて直接お会いした方もかなりいましたし、パンデミック前に私が中国にいた時にお会いしたことのある中国や外資の会社役員の方々にもたくさんお会いしました。私はCESが「Connect, Experience and Surprise(人とつながり、展示を体験し、驚きを感じる)」の略だと勝手に思っていますが、CES2023はあらゆる意味でそのとおりになりました。

中国企業の出展内容などから読み取れること

最初の中国ニュースは1月3日、フォルクスワーゲンがID.シリーズの6番目のモデルで、ID.4に続く2番目のグローバルモデル、ID.7のカモフラージュバージョンを発表したことです。ID.シリーズ初のセダンでもあるID.7は、航続距離が最大700km(WLTP)で、中国、欧州、北米の主要3市場で展開される予定です。

中国では、ID.4やID.6と同様、フォルクスワーゲンの合弁会社である上汽フォルクスワーゲン(SAIC VW)と一汽フォルクスワーゲン(FAW VW)でID.7を生産する予定です。量産モデルのワールドプレミアは第2四半期に予定されており、市場投入は2023年後半を予定しています。熾烈な中国のNEV市場において、テスラ以外の海外ブランドはあまり成功していないためフォルクスワーゲンも厳しい競争にさらされると予想されますが、フォルクスワーゲンは海外ブランドの中では比較的好調で、昨年は14万台以上のID.モデルを販売している実績もあります。

その夜、私はZF社のプライベート・メディア・イベントに出席し、同社のアジア太平洋地域、マテリアル・マネジメントおよび電動パワートレイン技術を担当する新役員、ステファン・フォン・シュックマン氏と中国市場に関する私の考えを長時間にわたってお話させていただきました。フォン・シュックマン氏と最後に会ったのは、2019年3月に上海で、もう4年近く前のことです。

ZFといえば、週の後半に、NIOが2025年から発売を予定している次世代モデルに搭載する予定のSBW(ステアバイワイヤ)技術を活用したレーシングシミュレーターをZFのブースで体験することができました。両社の契約は昨年10月に締結され、NIOはアジア太平洋地域で初めてこの技術を車両に搭載する顧客となりました。

翌日には、ZF、Bosch、Valeo、FORVIA(HellaとFaureciaの合弁)、Continentalなど、中国に大きなプレゼンスを持つ世界有数のTier1サプライヤーの面々が記者会見を開いていました。

ドイツのサプライヤーBentelerから独立したスタートアップ企業HOLONは、記者会見でドライバーレスシャトル(ムーバー)を発表し、そこでCEOのマルコ・コルメイヤー氏にお会いする機会がありました。彼と最後に話したのは2017年の上海モーターショーで、彼がBentelerのeモビリティ担当副社長だった頃です。彼はインタビューで、また中国に行き、もしかしたら近日行われるイベントでシャトルを披露できるかもしれないので、楽しみにしていると話してくれました。

この日、米国のLiDARスタートアップLuminarは、同社のIris LiDARをオプションとして備えるRising Auto R7を北米で初公開しました。私もこのスマートEVを実際に見るのは初めてで、創業者兼CEOのオースティン・ラッセル氏とグータッチさせていただきました。面白いことに、Luminarの会見で隣に座っていた2人のアメリカ人が、展示車のボンネットに「R」のエンブレムがついていたことから、R7をRivianだと勘違いしていたので、すぐに「あれは中国最大の自動車メーカーSAIC MotorのスマートEVですよ」と教えてあげました。

この日、中国の話題が出るのに時間はかかりませんでした。Boschの次に行われたFORVIAの記者会見で、同社CEOのパトリック・コラー氏が、中国の小型EVの価格が欧州のものより1万ユーロ程度安く(約143万円)、欧州で競争力があると述べています。また、ドイツ勢が中国市場で利益の50%以上を稼いでいることから、EUが中国からの輸入を減らすよう一致団結できるのか疑問だとも述べています。

「中国車を締め出さなくても利益が得られるなら、誰が締め出すでしょうか? 消費者はこうした車を欲しがるだろうし、こうしたモビリティにはニーズがあります」と、コラー氏は会見で私に語りました。「もし、我々自身がこうしたニーズに応えられないなら、既存の中国車の販売をわざわざ止める必要はないのではないのでしょうか?」

コラー氏は、欧州が法規によってEV革命を起こしたが、インフラや発電能力の面で遅れており、中国はそれらを正しい順序で行ったと強調していました。

Valeoのクリストフ・ペリヤCEO。

Valeoの会見では、フランソワ・マリオン氏と会うことができました。彼の現在の役職はグループコーポレートコミュニケーション&IR担当上級副社長ですが、最後にお会いしたのは2019年4月の上海モーターショーで、彼がまだValeo Chinaの社長だった頃です。彼の上司であるCEOのクリストフ・ペリヤ氏は会見で、世界のLiDAR出荷台数は3~5年以内に年間100万台に達すると予想しており、その背景として、とくに今は中国のLiDARスタートアップのInnovusionとHesaiが供給するNIO ET7、ET5、ES7やLi Auto L9、L8などの中国のスマートEVにLiDARが登場していることを理由に挙げていました。

CES2023では、Valeoを含む20社近くのLiDAR企業が出展し、車両技術における最大のテーマとしてLiDARが取り上げられたと私は考えています。このフランスのサプライヤーは、LiDARの生産の古株で、彼らの技術はMercedes S-Class/EQSやHonda Legendなどの乗用車ですでに実装されており、まもなくステランティスグループ傘下のブランドの複数のモデルでも実用化される予定ですが、中国との厳しい競争にさらされています。

CES 2023では、中国のLiDAR「ビッグ3」であるHesai、Innovusion、RoboSenseに加え、ZVISIONやVanJeeといったマイナーな中国のLiDARスタートアップが参加し、Luminar、Innoviz、Cepton、Ouster、LeddarTech、Opsys、AEVA、AEye(コンチネンタルが一部出資)、PreActなどの海外の強豪、そしてValeo、Bosch、Mobileyeなどの大手Tier1も出展しています。

「ビッグ3」は各社、既存の長距離LiDAR製品を補完する目的で、「死角」あるいは短距離を見るLiDAR製品を発表しており、前述の通りすでに中国のスマートEVに搭載され始めています。なかでもInnovusionとHesaiはCES 2023に先立ち、2022年にそれぞれ5万個および10万個以上のLiDARを販売したと発表しています。また、Hesaiは興味深いことに、Rising Autoの次期モデルの1つでコンペに勝ったことを発表しています。これはLuminarにとって興味深い状況を作り出しており、また、LucidにLiDARを供給しているRoboSenseもRising Autoから発注を勝ち取る見込みだとも聞いています。

NIOの独占LiDARサプライヤーであるInnovusionの共同創業者兼CEOの鮑君威(Junwei Bao)博士は、私の1月6日の独占インタビューで得た、Valeo CEOのLiDAR市場の可能性に関する見通しに同意すると言っています。鮑氏によると「今後2~3年以内に、全世界のLiDARの出荷量は年間100万台を突破し、今後5~10年で、自動車へのLiDARの普及率は全世界で20~30%を超えるだろう 」とのことです。

Hesaiのブースで、Hesaiの創業者兼CEOのデビッド・リー氏と鮑博士、そして中国の自動運転スタートアップWeRideのCEOトニー・ハン氏に偶然会った時に面白い話が聞けました。ちなみにWeRideもCES 2023に出展しており、無人自動運転タクシー(ロボタクシー)製品に主にHesaiのLiDARを採用しています。3名は2022年のトップLiDARサプライヤーがどこか議論していて、Hesaiの出荷台数には自家用車以外のLiDARも含まれているから、消費者の手に渡るLiDARを最も多く売ったという観点でInnovusionが勝者だと意見が一致したそうです。

Sensor Suite 5.1を搭載したデモカーと、WeRideのトニー・ハンCEO(右は筆者)。

WeRideといえば広州に本社を置きカリフォルニア州サンノゼに拠点を持つ「Chinafornia」企業のひとつで、同社の最新のSensor Suite 5.1(SS5.1)と自動運転レベル4(L4)のテクノロジーを搭載したテスト車両(2023年式日産リーフを改造)を数台持ち込み、ラスベガスのメインストリート「ストリップ」で30分のデモ体験を提供していました。SS5.1は、車両のルーフやボディによりスムーズにセンサーを統合しており、ご想像のとおりHesaiのLiDARを含むセンサー群が搭載されています。ハン氏は、SS 5.1に搭載されているLiDARのコストは1万元(約19.5万円)もしないとコメントしてくれました。

ハン氏はこうも言っています。「我々がこの展示でお伝えしたいのは、このセンサー群のセットアップで、すでにL4対応にかなり近い所まで来ているということです」。WeRideは今後もグローバル展開の機会を探っていくとこのとで、海外でのIPOもあり得ると匂わせていました。また、同社はBoschと共同で、中国市場向けのL2 ADASソリューションの開発も進めています。

CES 2023で密やかに、でも着実に動きを見せていた中国企業の1つがHorizon Roboticsで、同社は昨年、フォルクスワーゲングループおよびソフトウェア子会社のCARAID(CES 2023に公式に出展)と、中国市場向けのソフトウェアと自動運転ソリューションを開発する大型契約を結んでいます。NVIDIAやQualcommなどと競合するHorizon Roboticsは今回、ブースの出展こそしていませんでしたが、接待用の特別室を用意して見込み客に同社の演算チップを展示していました。私は、「ストリップ」で同社の副社長に偶然会い、その後WeRideのブースで彼がハン氏と話している際に、もう一度会うことができました。そこでどういうやり取りがあったのか分かりませんが、CES 2023の数週間後、両社はHorizon RoboticsのJourney 5チップをベースにした演算プラットフォームとWeRide Oneのソフトウェア、ハードウェア、クラウドプラットフォームを使ってL4自動運転ソリューションを開発する覚書に調印していました。

Mobileyeのブースに展示されていたZEEKR001とNIO ES8のロボタクシー。

CES 2023で目立っていたといえば、Geely Holding Group(ジーリー)のハイエンドブランド、ZEEKRでしょう。出展こそしていなかったものの、パートナーのMobileyeのブースで「ZEEKR 001」を、Waymoのブースではロボタクシー「M-Vision」を展示していました。私はZEEKR 001を実際に見るのが今回初めてで、M-Visionは11月のLAオートショーでの世界デビューで初めて目にしたのですが、これはWaymo Oneプラットフォームで2024年に米国での走行が予定されている次世代ロボタクシーで、今回は2度目の体験となりました。

ZEEKRは、2022年にMobileyeの「ハンズオフ、アイオン(手放し可、道路は注視)」運転支援機能SuperVisionTMを搭載して7万台以上を販売した、予想外の躍進を遂げた中国のスマートEVブランドの1つで、ZEEKR 001とともに今年ヨーロッパに進出すると予想されています。Mobileye CEOのアムノン・シャシュア教授は会見で、今年中にさらに3つのGeely Holding Groupブランドでこの機能を採用すると発表しました。

Waymoのブースに展示されていたZEEKR M-Vision。

Mobileyeのブースでは大きなサプライズがありました。なんとZEEKRのCEOでジーリーのベテラン役員であるアンディー・アン(安聰慧)氏に会うことができたのです。アンディー氏に対して「ZEEKRは昨年中国で最も驚かされた新興EVブランドの一つでした」とお伝えすると、「今年はもっと驚かせますよ」と回答をいただきました。

また、MobileyeのブースにはNIO ES8のロボタクシーも展示されており、興味深いことにLuminarのLiDARを搭載し、テルアビブ、ミュンヘン、デトロイトで運行を開始する予定とのことでした。これまで発表されたLuminarの部品供給先が全て中国ブランド(Rising Auto)か、ジーリー傘下のブランドである点は興味深いです。Volvo EX90はLuminarのLiDARを標準装備し、Polestar 3はオプションとして選択できます。どちらのモデルも昨年のグローバルデビュー以来、初めてCES 2023で一般展示されていました。

CES 2023で話をさせていただく機会があったエグゼクティブは、他にステランティス・グループCEO、カルロス・タバレス氏と、イタリアのデザインハウス、ピニンファリーナで長年CEOを務めたシルビオ・アンゴリ氏の2名でした。

ピニンファリーナのシルビオ・アンゴリ氏と筆者。
プジョーのコンセプトカーと、ステランティス・グループCEOのカルロス・タバレス氏。

中国に対して数々の辛辣なコメントを残し、ジープの生産を中国から撤退させたタバレス氏は、基調講演の後、CES 2023でデビューした「インセプション・コンセプト」をベースにしたプジョーの次世代EVを中国で現地生産するかどうかについて社内で議論が続いていると私に教えてくれました。ステランティスは中国の合弁会社を整理し、現在残っているのは東風-プジョー-シトロエン(DPCA、または神龍汽車)だけです。

一方、アンゴリ氏は私との独占インタビューで、中国の自動車メーカーが海外市場に進出する際には、製品のカスタマイズ性を考えなければならないと語りました。

「単一の製品で全員を満足させることはできない。もっともっと個に特化していく必要がある」とのことです。

ピニンファリーナは現在、中国市場の収益貢献比率が15%未満まで低下しており、中国の自動車メーカーが垂直統合を進め、内製化を強化して成果が増えるにつれ、自社の役割は減少しているとアンゴリ氏は言います。

ということで、CES 2023における中国関連情報のごく一部をご紹介しました。この他にも多くの関連する会話や交流があったのですがご紹介しきれませんでした。しかし、ここまで読んでいただいた内容から、米中の地政学的な摩擦があるにもかかわらず、中国はテクノロジーに大きな自信を示していることが伺えます。そして、中国のEV、自動運転車、そしてテクノロジーが直接的、または間接的に、さまざまな形で米国に進出していくのは時間の問題です。

翻訳/翻訳アトリエ(池田 篤史)

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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