アウディが電気自動車『e-tron』に高性能な「Sモデル」を追加〜『Audi e-tron S/e-tron S Sportback』を日本導入

アウディがすでに日本でも発売されている電気自動車『e-tron』にモーター3基を搭載したハイパフォーマンスな『Audi e-tron S/e-tron S Sportback』を追加導入、4月初旬にも発売することを発表しました。新たな高性能EVの登場を、自動車評論家の御堀直嗣氏が読み解きます。

アウディが電気自動車『e-tron』に高性能な「Sモデル」を追加〜『Audi e-tron S/e-tron S Sportback』を日本導入

3モーター搭載で500馬力超えを実現

ドイツのアウディは、3個のモーターを車載した合計370kW(約503馬力)という高性能な電気自動車(EV)、e-torn「Sモデル」を発表した。基になるのは、2020年に国内でも発売されたe-tronとe-tron Sportbackだ。

価格は『e-tron S』が1398万円(税込)〜、『e-tron S Sportback』が1437万円(税込)〜となる。

アウディはこれまでも、エンジン車にSモデルと名付けた高性能車種を追加発売しており、EVも同様の車種体系で臨む様子がみえてくる。

発表されたSモデルの諸元によれば、前輪に150kWのモーターを一つ使い、後輪側へは132kWのモーターを2個搭載し、左右輪で使い分けることにより、左右で駆動力を配分するトルクベクタリングを実現する。トルクベクタリングは、エンジン車でも利用されてきた技術で、左右輪へのトルク配分を変えることによって、カーブでの安定性向上や、曲がりやすさの向上に寄与する。

これを電気的にモーターで行えば、エンジン車より速く、きめ細かなトルク配分の制御を行えるようになり、タイヤのグリップ性能を最大限に活かすことができ、プロフェッショナルな運転者でなければ危険を伴うような速さでの旋回性能を体験できるのではないかと想像する。

また今回は、従来からマトリックスヘッドライトと名付け、複数のLEDを使って前方の照射範囲を調整し、相手を幻惑することなく夜間の前方視界を向上させる技術をさらに発展させたようだ。100万個のデジタルマイクロミラーを1/5000秒単位で制御し、高精細な前方視界を実現するとの解説だ。その諸元解説にすんなりとは理解が追い付かないが、それほど高機能となっているということだろう。人間の目が作動を意識しないほど素早く状況を的確に認識し、より広範囲に明るい視界を確保する性能であると想像できる。

ブーストモードでは0~100km/hが4.5秒、バッテリー容量95kWhでWLTCでの一充電走行距離が415kmを確保する(実用値に近いEPA値としては約332km程度と推計)というSモデルの性能を、昼夜を問わず遺憾なく発揮させるには、情報収集のためのヘッドライト技術も高度でなければならない。

「技術による先進」を掲げるアウディの哲学

欧州の『IONITY』では最大350kWの急速充電ネットワーク構築を進めている。(画像はIONITYウェブサイトから引用)

ポルシェ・タイカンや、アウディe-tron GT、そして今回のSモデルなど、ドイツの自動車メーカーが力を注ぐEVの超高性能化は、350kWでの急速充電性能を含め、速度無制限区間を持つドイツならではの取り組みといえる。なぜそこまで高性能にこだわるのかと、思わなくもないが、実際にドイツへ行きアウトバーンを走り、それが日常の行動であれば、もっと速くとの志向は、人間の欲望の深さ故といえなくもない。

それを実現するため、アウディは、ディーゼルハイブリッド車でル・マン24時間レースを制し、今年はダカールラリーにe-tronのシリーズ・ハイブリッド車を出走させ、総合成績はトヨタの優勝に対し9位ではあったが、区間タイムで何度か最速を記録している。モーター駆動車両での初参戦で、性能の一端は示せたのではないか。

また、アウディは、自社の先端技術に独自の名称を与えることを1980年代から行っている。よく知られるのが、4輪駆動車に与えたクワトロだ。EVやHVにe-tronと名付けることも、アウディらしい方法だ。ほかにも、アルミニウム車体を含め軽量化技術には、ウルトラと名付けた。情報・通信にはコネクトと名付けている。先進技術に独自の名前を与えることで、アウディは技術をブランド化し、商品のブランド力を総合的に高めようとする戦略を採っている。

ダカールラリーに挑んだ『Audi RS Q e-tron』。

背景にあるのは、アウディの企業哲学である「技術による先進」だ。メルセデス・ベンツなら「最善か無か」であり、BMWなら「駆けぬける歓び」に相当する。そうした企業哲学を軸に商品を企画・開発し、販売促進し、そして未来を摸索するのである。

技術による先進を謳うアウディにとって、Sモデルは、e-tron GTとともに象徴的な存在だ。一昨年国内で発売されたe-tronは、技術による先進を体感させる印象のよいEVだった。アウディジャパン広報に聞けば、アウディ初の本格的EV開発のため、ドイツ社内の精鋭が集まって開発されたのだという。Sモデルは、それをさらに超高性能へ高めた凄いEVであるはずだ。

電気自動車にとって高性能化だけが正解なのか?

一方、アウディに限らずドイツの自動車メーカーは、どこまでクルマを高性能化すれば気が済むのかという疑問もある。エンジン車でもひたすら高性能化した結果、走行速度が速くなり、それに伴う事故の甚大さが高まって、衝突安全性能を高める必要が出た。クルマは大型化し、車両重量は重くなり、車種個別の燃費性能は向上したとしても、総合的な燃費の悪化は免れない状況となった。そこを、ディーゼルターボエンジンでしのごうとしたら、排出ガス問題が起き、それはアウディの経営陣にまで責任が及んだ。

ドイツの矛盾の根源は、建設から100年になろうとするアウトバーンにありそうだ。速度無制限という他国に例を見ない独自の高速道路網は、クルマの性能向上に大きく貢献した。しかし一方で、先のような矛盾も生じさせている。それにもかかわらず、そこに住むドイツ人は、クルマでの移動を日々謳歌しながら、際限のない高性能に慣らされ過ぎてしまったように思えてならない。

EVへの移行は、環境問題が最大の背景だが、同時にまた、EVであるからこそ実感できる新たな暮らしの価値観の発見が貴重なのではないかと思っている。高性能や速さを否定はしないが、程よい暮らしのなかにある普遍的な幸福を改めて意識し、そこに生きる喜びを実感できる感受性を取り戻すきっかけになると私は考えている。

ひところ流行ったスローライフという言葉や生き様も、速くて大きくて高いことが偉い、それが贅沢の極みだと考えられてきた、20世紀の暮らし振りへの疑問ではないだろうか。

20世紀初頭に比べ5倍近く増えた世界人口のなかで、今日も人々が心地よく暮らすには21世紀にあった生き方や暮らし方、そして幸福の感じ方があるのだと思う。それに気づかせるEVの存在は、貴重だ。EVに秘められた真価を発見し、活用することで、21世紀を快く生きるきっかけが見つけられると考える。

EVなのに、エンジン車と同じように音を作って出すのは、たとえていえば新幹線に蒸気機関車の音を出させるようなものではないのか。昔を懐かしむなら、蒸気機関車に乗りに行けばいい。エンジンをマニュアルシフトで操る旧車を愛でることに反対はしない。だが、EVに乗るならEVの長所を見極め、EVらしさに幸せを感じられる暮らしを創造する方が発展的ではないだろうか。

アウディのSモデルは、EVの高性能化の一つの指標になるかもしれない。同時にまた、A1やQ2などに相当する廉価な車種のEVで、ドイツ人がどのような価値を創造してくるかに興味がある。

「技術への先進」を商品特性としながら、VWとは違った性能や価値、そして価格設定をどのように提案してくるのか、それが次のアウディの課題だと思う。

(文/御堀 直嗣)

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					御堀 直嗣

御堀 直嗣

1955年生まれ65歳。一般社団法人日本EVクラブ理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。1984年からフリーランスライター。著書:「快走・電気自動車レーシング」「図解・エコフレンドリーカー」「電気自動車が加速する!」「電気自動車は日本を救う」「知らなきゃヤバイ・電気自動車は新たな市場をつくれるか」「よくわかる最新・電気自動車の基本と仕組み」「電気自動車の“なぜ”を科学する」など全29冊。

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