BMW『iX3』発表〜サステナブルな電気自動車への取組を強調

BMWは7月14日、新しい電気自動車(EV)の「iX3」を発表しました。2018年4月の北京モーターショーでコンセプトモデルを発表した時に150kWの急速充電と、航続距離250マイルにすることを宣言していましたが、その通りの性能を確保しての登場となりました。

BMW『iX3』発表〜サステナブルな電気自動車への取組を強調

ユーザーが好みに合わせてパワートレインを選ぶ時代に

『WORLD PREMIERE OF THE FIRST-EVER BMW iX3』よりキャプチャ。

BMWは7月14日、オンラインで、BMW初のフル電動SUV『iX3』を発表しました。iX3のコンセプトモデルは2018年4月の北京モーターショーで発表。この時に、1充電あたりの航続距離400km以上、バッテリー容量70kWh、最大出力200kWという基本性能を目指すことが明らかにされ、2年以内に発売という見通しが示されていました。今回の発表で、初期の目標をスケジュール通り達成したことになります。

オンライン発表会ではBMW AGのオリバー・ツィプセ(Oliver Zipse)会長がプレゼンターを務め、ユーザーの期待が高まっている今が新たなEVを市場に投入する「完璧なタイミング」だという見解を示しました。プレゼンテーションによれば、BMWが2020年に欧州で販売する車は14%が電動化される見通しですが、2030年には50%になると予想しています。

2020年で14%というのも、日本の現状からすれば圧倒的です。

またツィプセ会長は、究極には顧客がニーズに応じて車のパワートレインを選べるようにする「Power of Choice」というアプローチを進めていく方針を示しました。複数のパワートレインの車を同じ生産ラインで作れるようにするそうです。

そのひとつが、BMWでもっともポピュラーな車のひとつであるX3ということになります。X3はすでに、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、プラグインハイブリッド車(PHEV)がラインナップされています。今回のEVの投入で、4つのパワートレインから選ぶことができるようになりました。

グループPSAが提唱するコンセプトと似ていますが、プラットフォームはICEからの流用です。

生産ラインの混流で思い出しましたが、ホンダは、『Honda e(ホンダe)』を他の内燃機関モデルと混流のラインで生産していく予定です。混流で流せれば、生産台数の少ない車でもコスト削減になりますね。

第5世代のBMW eDriveテクノロジーを搭載

iX3は、第5世代の BMW eDrive テクノロジーを搭載しています。ニュースリリースによれば、BMWの既存のEV(i3やミニ クーパーSEでしょうか)に比べて電気駆動システムの出力密度は30%増になったほか、バッテリーの重量エネルギー密度はセル単位で20%上昇しています。第5世代の BMW eDrive は、2021年に発売予定の「iNext」や「i4」にも搭載される予定です。

発表されている詳細な仕様は、次の表の通りです。

BMW iX3(欧州仕様)スペック
全長4734mm
全幅1891mm
全高1668mm
ホイールベース2864mm
乗車定員5人
電池容量(ネット)80kWh(74kWh)
電圧400V
一充電航続距離460km(WLTP)
約410km(EPA換算)
電力消費率19.5-18.5kWh/100km
5.12-5.4km/1kWh
最高出力/トルク210kW/400Nm
急速充電可能出力150kW
0-100km/h加速6.8秒
最高速度180km/hで制御

まず気になる一充電あたりの航続距離は、WLTPサイクルで460km、EPAサイクル換算推計値で410kmなので、実用には十分と言えそうです。ただし、そのためのバッテリー容量は80kWhなので、日本で普及しているチャデモの50kW出力では満充電にするのは少し難儀かもしれません。なにはなくとも、100kW級の急速充電器が欲しいところです。ポルシェが独自に150kW充電インフラ整備を明言していますが、今後、BMWでも日本に150kW出力の急速充電インフラを整備してくれることを期待したいところです。

バッテリーはすべて床下に搭載しています。モジュール数は10、188セルで構成されています。総容量は80kWhですが、実用域(ネット)は74kWhとなっています。

アクセルは、「i3」でもお馴染みのワンペダル操作が可能な操作機能になっています。回生ブレーキは3段階で調節できます。搭載しているモーターはcurrent-excited synchronous motor(電流励起同期モーター)というタイプで、レアアースを使っていないそうです。

オンライン発表会でツィプセ会長が強調していた特徴のひとつが、スタート時の音です。BEVのモデル用に新たに開発されたスタート音はとても印象的であると、会長は説明していました。パイレーツ・オブ・カリビアンのシリーズやインターステラーなどの映画音楽を手がけたハンス・ジマー氏が音を作ったそうです。車の性能には関係がありませんが、ちょっとした遊び心が感じられるのは個人的には好きです。

ところで「iX3」は、BMW初のフル電動SUVです。最大斜度23.1度の登坂能力もそうですが、オプションなしで水深500mmを時速7kmで走行可能というのは、排気管のないEVならではの特徴だと思います。

メイン市場は中国と欧州で、米国も発売はキャンセル

ところで、プレゼンテーションは全体で約12分弱の短いもので、前半は環境問題に対する対応についての説明が続き、実際に車が登場したのは7分過ぎでした。BMWとしては、iX3単体というよりも、とくに欧州で急務になっているCO2対策や、気候変動への対応の一環として電動化を進めているということを強調したかったようです。

そして気になる発売時期ですが、まずは中国で2020年後半に予定されています。なのですが、当面の販売地域は中国と欧州に限られるようです。価格は……、未発表です。

米国の自動車業界専門メディアの Automotive News は今年3月9日に、BMWがiX3の米国での販売をキャンセルしたと報じました。この方針は1月下旬にフロリダでの会議で販売ディーラーに伝えられたそうです。

また記事では、米国の自動車業界のコンサルタント、オートフォーカス・ソリューションズのSam Fiorani副社長が、iX3は長い航続距離がユーザーの優先事項ではない中国向けに作られていると指摘し、「なぜ魅力が限定的なモデルを北米市場に押し込み、テスラ・モデルYやフォード・マスタング マッハEのすぐ隣に並べるのか?」と疑問を述べたことを紹介しています。米国では、EPAサイクルで航続距離が240~250マイル(約384~400km)程度はないと勝負にならないという見方です。

BMWの6月のプレスリリースによれば、BMWは中国と欧州で同時にiX3の認証を取得していますが、他の地域については触れていません。考えてみれば、iX3のコンセプトモデルは前述のように北京モーターショーで発表されていますし、欧州と中国市場向けという見方は一理ありそうです。

それにiX3は、中国の瀋陽の工場で生産され、世界に配送されます。瀋陽工場は2018年に華晨汽車集団(遼寧省瀋陽市)と合意した協議書に含まれるもので、エコカーの生産が中心になると見られています。

加えてJETROのビジネス短信(2018年7月18日)によれば、BMWの中国の合弁会社、華晨BMW(BMWブリリアンスオートモーティブ合弁会社)は2017年にバッテリーの研究開発と生産を行う「動力電池センター」を瀋陽市で稼働させているほか、iX3向けの電池も同センターに増設する工場で生産する予定です。完全に中国生産のEVは、BMWとしては初めてになると思われます。

そう考えてると、メインターゲットは中国で、あとはBMW本社のある欧州が販売エリアになるという見方があるのもうなずけます。オンライン発表会でデリバリー時期が明示されなかったのも納得です。できれば幅広い地域で販売してほしいな、という思いはあるものの、ニーズがない(?)のでは致し方なし、というところでしょうか。

というわけで、米国での販売予定がないということは、日本市場はさらに見込み薄ということになりそうです。瀋陽ならすぐ近くなのに、なんとも残念なことです。などと書いていますが、BMWの広報には未確認なので、もし日本市場に入るようなアナウンスがあれば、アタマは坊主にしませんが(すでに近い状態なので無駄な賭けです)、随時、追記していきたいと思います。

(文/木野 龍逸)

この記事の著者


					木野龍逸

木野龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。「Yahoo!ニュース 特集」などで災害対応や司法の問題などについて記事を執筆中。また原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に「ハイブリッド」(文春新書)、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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