BYDのEVフォークリフトで何が変わったのか?〜いち早く導入した青果業者に直撃取材

乗用車EVでの日本進出を発表したBYDが先駆けて日本に導入しているリチウムイオン電池搭載のEVフォークリフト。使い勝手やメリットなどの実力は、これから進むであろう商用車EVシフトの前哨戦的な意味もあるでしょう。いち早く導入した横浜市内の業者キーパーソンへのインタビューをお届けします。

BYDのEVフォークリフトで何が変わったのか?〜いち早く導入した青果業者に直撃取材

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鉛電池に比べて、充電時間、稼働時間に圧倒的な差

横浜市の老舗青果卸会社である金港青果はリチウムイオン電池を搭載したBYDのEVフォークリフトを導入したのは2021年11月のこと。鉛電池搭載のフォークリフトは10年くらい前から横浜中央卸売市場内に増えてきたそうですが、リチウムイオン電池搭載のフォークリフトを導入したのは、この市場のなかで金港青果が最初のケースです。

はたして、その実力はどうなのか。実際に横浜中央卸売市場を訪ねて、実際の使い勝手や鉛電池搭載のフォークリフトとの違いなどについて、金港青果の営業支援チーム課長、柴道清総さんにお話を伺いました。

柴道清総さん。

―BYD製のEVフォークリフトを導入したきっかけから教えてください。

最初は営業の方が飛び込みでいらっしゃいました。以前からBYDの名前は電池関連のニュースなどで知っていましたが、その時初めてフォークリフトも扱っているのだと知りました。鉛電池のフォークリフトは弊社でも使用していますが、リチウムイオン電池のフォークリフトはBYDで初めて存在を知りました。そして話を聞いているうちに、リチウムイオン電池の良さや安全面、鉛電池のフォークリフトと違う点(充電回数、充電時間、寿命、稼働時間など)、環境に優しいことなど、メリットがたくさんあることが分かってきたのです。

実際に試乗し、その良さをさらに実感しましたね。エンジンはもちろん、弊社が所有している鉛電池搭載のフォークリフトもやや出力が小さくて上り坂ではスピードが落ちますが、BYD製のリチウムイオン電池を搭載したEVフォークリフトはそれを感じません。パワフルにグイグイ坂道を登って、キビキビ動くことに驚きました。

―鉛電池に対して充電時間や稼働時間、メンテナンスについてはいかがですか?

やはり充電時間の短さや、バッテリー液の補充といったメンテナンスが不要な点、そしてリチウムイオン電池自体のリサイクルも行えるという点がすばらしいですね。使用状況にもよりますが、鉛電池は最低でも充電に約8時間かかり、稼働時間は約5時間です。リチウムイオン電池は2時間でゼロから満タンになって、10時間程度は稼働できます。

青果市場はほぼ24時間動いていますから、フォークリフトでの作業も長時間になります。鉛電池の場合はスペアの電池をいくつか用意して、フォークリフトで運んで載せ替えながら使っているのですが、これが結構大変なんですよ。誤って横倒ししてしまうと、バッテリー液が漏れることもあります。希硫酸なので取り扱いには要注意です。

リチウムイオン電池を搭載したEVフォークリフトを使うのははBYDが初めてでしたが、充電時間が短くてすみ、稼働時間も長い。1日で使える時間が長くなり、作業効率が本当によくなって助かっています。

―中国製ということで、不安はありましたか?

私自身はブレードバッテリーなどの安全性について知識がありましたが、私以外の現場の作業員も乗るので、彼らにとって不安はあったと思います。また、日本ではまだ採用例も少ないので、アフターサポートやメンテナンス、消耗品の対応、故障時の対応などは正直、少し心配でした。

―充電器はどうしていますか?

壁のコンセントから電源を取る、専用の急速充電器を使います。この急速充電器はキャスターをつけて移動させることも可能です。充電器の規格はGB/T(中国で一般的な充電器の規格)です。
(編集部注※最大出力などはBYDに確認中)

専用の急速充電器。
プラグの規格は中国のGB/T。

―実際に使ってみていかがですか?

故障はあるにはありましたが、それに対する対応が迅速で助かりました。事務所も近い(※BYDジャパンの本社は横浜中央卸売市場に近いみなとみらい地区にある)ので、何かあった時に連絡するとすぐに状況を確認しに来てくれます。修理が必要な時は代車なども用意してくれるのでおおむね満足ですね。

あとは、このような市場での採用例は初めてとのことなので、研究や調査の目的も兼ねており、何かあったらすぐに本部へ報告するという状況に今はなっています。担当の方がちょくちょく足を運んでくださるので、現場の作業員と意見を交換したりしています。

操作レバー類も日本仕様に変更

―導入して感じた、良かった点、改善してほしい点などはありますか?

市場の中にスロープがあって、ここを1日何度も上るのですが、坂道でのスピードがもっとも大きな違いを感じました。おかげで従来よりも作業が早くなり、効率性も大幅に向上しました。逆に不満はありません。

充電プラグをしっかりささないと「実は充電されていなかった」みたいなことはありましたが、使い慣れてきたので今は大丈夫です。

あと、デモカーもそうでしたが、当初は操作レバーの仕様が欧州向け(レバー類が左側についている)でしたが、導入までに従来の日本製フォークとほぼ近い仕様(レバー類が右側)が用意されました。対応の速さを感じました。

―フォークリフトの周辺を照らす青い光が印象的ですが…これは何でしょうか?

音が静かなEVフォークリフトならではの機能ですね。接近に気づきにくい場合があるので、フォークリフトの周辺を囲むように青いLEDの光が注意喚起のために照らしています。トラックのドライバーさんたちからは、「わかりやすくて良いですね』と評判上々です。

―エンジンフォークリフトと比較して運用コストはいかがでしょうか?

車体自体はバッテリーの値段分高くなっていますが、エンジン車に比べてメンテナンスする部分が減ったので、その分維持費用があまりかかりません。また、年1回の法定点検がありますが、それ以外の細かい点検は省けるようになリました。

あとは、タイヤに関していうと、例えばトヨタL&F製品はメンテナンス費用にタイヤ代も含まれています。トヨタL&Fのフォークリフトは市場での使用に長年の経験があるのでタイヤ交換がメンテナンスのサイクルに組み込まれています。

BYDはこのような業界での採用が初めてなので、どれぐらいでタイヤ交換が必要になるかが予想できていなかったみたいです。現在は減ったら購入という形になっていまして、今後のためにもデータを収集中ですね。

(インタビューここまで)

「エンジンフォークを使っていた時は、排ガスで1日乗っていると耳も鼻も真っ黒になっていた」という作業員の方も少なくない状況だったそうですが、EVフォークリフトにしてからはその悩みから解放されたそうです。

生鮮食品である青果を扱う場所で長時間、稼働させる車両ですからやはり、清潔で排ガスがなくパワフルで、使う人にもストレスが少ない方が良いのは当然でしょう。横浜中央卸売市場青果部では金港青果とほぼ同じ歴史を持つ丸中青果でもBYDのEVフォークリフトを採用しました。

柴道さんのお話しにあったように、実際のユーザーの声を丁寧に聞きながら改善を重ねることが、さらなるユーザーの満足度向上に繋がることでしょう。こうした積み重ねが「次に買い替えるならリチウムイオン電池のEVフォークリフトに」というユーザー意識の変化を拡げていくことになるのだと思います。

フォークリフトに限らず、ことに小型の商用車については新たなEVモデルのニュースがしばしば聞かれるようになりました。日本でも、働くクルマのEVシフトが着実に進展しているようですね。

【編集部注】 今回のレポート、取材させていただいたのは2022年9月17日だったのですが、その後、2022年11月30日をもって金港青果株式会社は営業活動を終了して解散となることが発表されました。

(取材・文/加藤 久美子)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 折角の取り組みが「会社の解散」でなくなってしまうのは残念です。
    鉛バッテリーのフォークリフトの方がコスパ大だと思っていましたが
    何よりもパワーがあるというのはちょっと考えてみれば「なるほど」
    という発見でした。
    そして持続時間と充電の速さ。
    急速充電出来るという事は普通充電にも対応しているのでしょうか?

    既存の電動フォークリフトをリチウム化する会社が出てくるでしょうね。
    或いは既存のフォークリフトをコンバートするとか。

    そういえばBYDのこれはV2Hにも対応していましたね。
    そういった機能を省いて値段を下げることも可能でしょうか。

    BYDは普通の乗用車でも攻勢をかけてきていますが
    小型の耕運機とかもやってほしいです。
    頻繫に使うわけでもないので使い終わったら残ったガソリンを抜かないといけないのは面倒です。
    コマツが小型ユンボを電動化しました。
    バイク用の取り外し式バッテリーを採用してよさげです。

    BYDにはそういったところにも期待しています。
    日本メーカーが作ると変に高いですから。

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この記事の著者


					加藤 久美子

加藤 久美子

山口県下関市生まれ。大学時代は神奈川トヨタのディーラーで納車引き取りのバイトに明け暮れ、卒業後は日刊自動車新聞社に入社。95年よりフリー。2000年に自らの妊娠をきっかけに「妊婦のシートベルト着用を推進する会」を立ち上げ、この活動がきっかけで2008年11月「交通の方法に関する教則」(国家公安委員会告示)においてシートベルト教則が改訂された。 一財)日本交通安全教育普及協会認定チャイルドシート指導員の資格を取得し、育児雑誌や自動車メディア、TVのニュース番組などでチャイルドシートに関わる正しい情報を発信し続けている。 愛車は1998年5月に新車で購入したアルファスパイダー(26.5万キロ走行)

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