日産「GREEN PASS」プロジェクト発表〜EV普及に必要な取り組みとは?

日産自動車が「EV普及に向けての新たな取り組みに関するプレス発表イベント」を開催、オンラインでの配信も行いました。発表された「GREEN PASS」は、NEXCO中日本と協同で海老名SAに電気自動車オーナー専用ラウンジを開設するなどといった内容でした。

日産「GREEN PASS」プロジェクト発表〜EV普及に必要な取り組みとは?

EVオーナーへプレミアムな体験を提供する「GREEN PASS」プロジェクト

2022年2月16日、日産が「日産自動車 EV普及に向けての新たな取り組みに関するプレス発表イベント」を開催。YouTubeを通じてオンライン配信を行いました。

EVsmartブログ編集部では、2月14日、Twitterの日産自動車公式カウントの発信を通じてこの発表会開催を知りました。満を持した新型電気自動車『アリア(ARIYA)』のデリバリー開始を目前に控え、「高速道路SAPAにCHAdeMO規格最大150kW出力の急速充電器を設置するのか?」とか、春と噂される新型の軽自動車EVの発表に向けて、「画期的な軽EVのサブスクプランを提示!」とか。いろいろと想像を巡らせたのですが……、そんな発表ではありませんでした。

発表されたのは、日産とNEXCO中日本の協同プロジェクト「GREEN PASS powered by NISSAN」の開始です。どんなプロジェクトなのか。内容を列記しておきます。

【実施期間】
2022年2月17日(木)〜3月16日(水)

【実施内容】
●東名高速 海老名サービスエリア(SA)下り線に、EVオーナー限定の休憩施設「GREEN LOUNGE」を開設。
・ラウンジ内には段ボール家具を設置。
・「やすらぐほど充電できる椅子」を用意。
・日産リーフからの給電によるスマホ充電が可能。
・絶滅危惧食材で作られた「GREEN LOUNGE BURGER」を無料サービス。
・バーガーにぴったりの、ジンジャーエールとほうじ茶を合わせたペアリングドリンクも無料サービス。
●海老名SA(下)、厚木PA(内外)、足柄SA(上下)の21店舗で特典を得られる「GREEN COUPON」を提供。

日産が主催するプロジェクトですが、「脱炭素に貢献するEVオーナーに、より豊かな時を過ごしていただくために」、日産の車種限定ではなく、全てのEVオーナーに提供されます。「各メーカーのEV専用アプリを提示」すればOKということなので、とくに各施設で急速充電を行う必要はなく、EVと2台持ちの方がエンジン車で立ち寄っても大丈夫だと思われます。

クーポンの特典としては、SAPAの飲食店で「そばやうどんを注文するとミニ丼をサービス!」といった内容です。

「絶滅危惧食材」って何だ? と思ったのですが、発表された写真を見ると、バーガーに使われている食材は「牛肉、トマト、レタス、リンゴ、根セロリ、小麦粉/トウモロコシ」など。こうした普通の食材が、気候変動によって収穫量や品質が低下するなどの危機に瀕する可能性が高いというメッセージでした。

EV普及に向けた「PR」が目的

発表会では、まず日産自動車株式会社 日本マーケティング本部 Division General Manager の増田泰久氏が「GREEN PASS」の概要を説明。EV普及を通じて地域課題解決に取り組むブルースイッチ活動で、地方自治体など連携パートナーが150を超えたこと、また、4RエナジーとともにEV用バッテリーの二次利用推進を進めていることなどをアピール。EV普及の先駆者である日産だからこそ、EVを選んだオーナーに何か還元したいという思いからこのプロジェクトが生まれたことを説明しました。

また、NEXCO中日本グループで、管内156カ所のSAPA管理運営を行う中日本エクシス株式会社 代表取締役社長の三宅広通氏が登壇。SDGsを支持するNEXCO中日本グループにとっても地球温暖化抑制はCSRの重点テーマであり、急速充電施設の整備にも取り組んでいること。そして、脱炭素社会実現を進めるEV普及に向けて、海老名SA下り線は日本でも最大級の施設であり、「EV普及のPRに貢献できることが喜ばしい」と強調しました。

女優の黒谷由香さんを迎えたトークでは、日産の増田氏がスペシャルなバーガーを「EVオーナーの皆様へのお礼」として無料で提供することを紹介しました。同乗者にも無料でサービスされるそうなので、EVオーナーのみなさんは、ミシュラン一つ星レストランである「sio」のオーナーシェフ、鳥羽氏監修のスペシャルバーガーをお楽しみください、ではあるのですが……。

本当に必要なEV普及のための取り組みとは?

はたして、この発表を聞いて「いいね!」と膝を打つEVオーナーが、あるいは「自分もEVに乗り替えよう」と考えるICE車オーナーが、どのくらいいらっしゃるのでしょうか。私自身、日産リーフのオーナーですが、「そうなんですか? 日産さん」というのが、正直な第一印象でした。

EVオーナーへの感謝の還元はありがたいし、普通の食材が「絶滅危惧食材」という発見の提言とか、なるほど、とは思うのですが。

まず、NEXCO中日本との協同プロジェクトにして、急速充電器の増設とか出力アップという朗報ではなかったのが切ないです。私のリーフは最大50kWにしか対応していませんが、e+は約70kW、もうすぐデリバリーされるアリアは最大130kWでの急速充電が可能です。でも、海老名SAには上下線各1台の90kW器があるだけで、大枚はたいてアリアを購入したオーナーさんは、高速道路を利用したロングドライブで高出力対応の恩恵を享受するのは困難な現状です。

日産というメーカーが主導するのであれば、今後予想される高出力対応EVの増加に向けて、当面の現実的な高出力である150kW器を高速道路ネットワーク上に網羅していく! というような発表が欲しかった……。また、NEXCO中日本も絡んだ発表であるのなら、先だって首都高速の大黒PAに開設された e-Mobility Power の新型6口器を管轄の全SAに設置する! といった発表であれば、諸手を挙げて賛辞を贈ったことでしょう。

日産ARIYA

そもそも、EVオーナーのためのプロジェクトということですが、「高速道路SAPAで急速充電する時に、休憩場所で困るよね」と感じているEVオーナーさん、この記事の読者でいらっしゃいますか? 少なくとも、私は感じたことはありません。EV普及に向けて本当に大切なのは、そして、EVオーナーがうれしいのは、「高速道路SAPAにおける高出力急速充電器の複数台設置を急ぐこと」だと、改めて断言しておきます。

無料でもらえるなら拒みはしないでしょうけど、「クーポンもらえてお得♪」と感じるEVオーナーさんも、きっとそんなに多くはない気がします。そもそも、EVに乗ってることのメリットは、電気だけで走る気持ちよさだったり、個人として貢献できる端的な脱炭素アクションであることであって、取って付けたようなインセンティブが用意されることは、私自身の感覚としてそんなにうれしくもありません。「特典」でEVを広げようとする試みでは、日産は「旅ホーダイ」の「ZESP2」が限界を迎えたことで教訓を得た、と思っていたのですが……。

アリアの納車を待っているオーナー(予備軍)のみなさんの中には、今回の発表を聞いて「そんなことより高出力急速充電網を」と感じた方が、少なくなかったのではないか、とも感じます。

まあ、約1カ月の期間限定イベントだし、アリアのデリバリー開始に合わせたプロモーション企画? と考えれば、外からガタガタ評する筋合いの話題ではないですが。いったい、誰が、誰のために考えて、お金を掛けて行うプロジェクトなのか、よくわからないという印象です。「EV普及に向けて」と銘打つ発表だっただけに、日産への期待とのギャップが大きすぎて、思わず速報記事を書いてしまった次第です。

頑張れ、日産。EV普及を劇的に進めるような、魅力的な新型EVの登場や、合理的なサービスの発表を期待しています。

(文/寄本 好則)
※オフィシャル写真提供/日産自動車株式会社

この記事のコメント(新着順)7件

  1. 今回は広報戦略で大きく失敗しましたね。取り組み自体はEVオーナーの方々からすれば魅力的ですしハンバーガーは食べられるなら是非食べたいですね。でも多くの方々は充電インフラ云々についての続報を期待していた訳で、その点では期待外れとしか言いようがないですね。仰る通りプロモーション企画でもあるでしょうし続報を待ちたいですね。

  2. 寄本さまのお怒りがヒシヒシと伝わって来る記事ですね。
    日産の喫緊の課題はアリアを一日も早く発売することのはずです。確か一月発売予定だったですよね・・
    キャンペーン自体はリーフのみならずEVオーナー全体を対象にしていて、日産の良心というか人の良さみたいなものを感じさせます。私も「やすらぐほど充電できる椅子」とは何か?を確かめに一度は行ってみたくなりました。ある意味成功です。
    のほほんとしていると、テスラだけでなくヒュンダイあたりにも取って食われるかも知れません。

    1. hatusetudenn さま、コメントありがとうございます。また、SNSも含めてたくさんの方から共感のコメントをいただき、ため息を重ねているところです。

      念のためにお伝えしておくと、文中にも書いたように、これはプロモーション企画なのでしょうし、私としてはことさらに「怒り」を感じているわけではありません。海老名の下りは充電検証やうっかりトイレ(出発前に行き忘れたとか)以外に立ち寄ることは少ないSAですが、期間中に通りかかる機会と時間があれば、絶滅危惧食材バーガーをいただいてみようと思っています。

      ただ、日本の自動車メーカーのなかではEV普及のリーダーたるべき日産への期待と、今回の発表内容の落差が大きかったもので。

      そろそろ、中古リーフからの買い替えを考え始めているユーザーのひとりとして、テスラやヒョンデ、フィアットなどとの長野五輪ラージヒル団体戦(買い替え車種検討戦)で、今回の日産の発表は原田選手の一本目くらいタイミングを外したな、と感じているところです。

      次の一手で、ヒルサイズ超えのビッグジャンプを期待しています。

  3. 肩透かしを喰らうような販促(反則?)キャンペーンです。時々、日産からEVに関するアンケートを受け取りますが、どれも間の抜けたセンスも緊張感もないものばかりで答える気にもなりません。ゴーン氏の功罪はともかく、欧米のテクノロジー企業はビジョナリーと言われるトップ陣が事業全体を強力に推進しているのを見ると、やはりゴーン後が定まってないのでしょうね。悪い冗談のような環境への姿勢もどうかと思います。すでに欧米大手がベンダーの使用エネルギー源まで契約に自然エネルギー指定で具体的に動いています。そんなお遊びで済む話ではないでしょう。

  4. この発表、私も見ましたけれど、まったくの期待はずれでした。
    オンライン配信するほどのことではありません。
    むしろガッカリして、EVやアリアの普及を妨げるのではないかと思ってしまいました。
    (今現在、日産ウェブサイトのニュースリリースにも載ってないんですけど…)

  5. 「高速道路SAPAにおける高出力急速充電器の複数台設置を急ぐこと」
    これにつきますね。
    ZESP3によって、長距離走行でのエネルギーコストがハイブリッド車並みに落ちてしまった日産EVは、ガソリン車と比べて不便さだけが残ってしまいました。
    せめてガソリンスタンドの給油機並みの複数口設置によって、利便性がガソリン車と同水準にならないと、ロングドライブ好きオーナーはこぞってガソリン車に戻ってしまうでしょう。

    1. 現状で多頻度の急速利用でしたら、旧NCS急速のほうがまだましでしょう。
      1分15円(16.5円)
      普通充電の課金が非常に多い方を除いては定額の意味も薄いので
      ZESP3シンプルの分1.5円《1.65円)はかなり良心的です。
      ロングドライブ勢は、当面 テスラに流れるか、PHEVに流れるかでしょう。
      まあ予想ですが。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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