電気自動車『IONIQ5』で日本再参入〜ヒョンデの思いをキーパーソンに直撃インタビュー

新型電気自動車『IONIQ5』の日本導入を発表、注目を集めるヒョンデ・モビリティ・ジャパンの戦略や思いとは? マネージングダイレクターを務める加藤成昭氏への、モーター・エヴァンジェリスト宇野智氏による独占直撃インタビューをお届けします。

電気自動車『IONIQ5』で日本再参入〜ヒョンデの思いをキーパーソンに直撃インタビュー

2車種のZEVで日本市場に参入する背景

発表会のフォトセッション。中央が加藤MD。

2022年2月8日、韓国の自動車メーカー『Hyundai(ヒョンデ)』が2台のZEVを日本市場で発売することを発表しました。『Hyundai』は、2001年に日本市場へ参入しましたが、販売は低迷し2009年に撤退しています。今回の再参入では、ブランド名は新たにグローバルで統一された呼び名『ヒョンデ』に変えて、BEVの『IONIQ 5(アイオニック 5)』とFCVの『NEXO(ネッソ)』の2モデルを日本で販売します。

Hyundai Mobility Japan 株式会社 マネージングダイレクター 加藤 成昭氏(以下、加藤MD)に、日本市場参入に向けたブランド戦略や、その思いについて語っていただきました。

宇野 2022年2月8日に、2モデルのZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)で日本市場に参入する発表会が行われて、1カ月が経ちました。その後いかがですか?

加藤MD(以下、加藤) ありがとうございます。無事に発表会を済ませることができました。発表会に際して、我々は12年ぶりに日本市場に参入するということで、まず我々がなぜこのタイミングで日本に来るのか、どういったビジネスを考えているかということを、みなさまへ丁寧に話をしていこうと考えて準備を進めてきました。

日本市場撤退に至った過去を振り返りますと、我々自身がお客様のことを十分に理解できていなかった、という反省をして、今回はしっかりとお客様と向き合って事業を展開していこう、という結論に至りました。

日本市場における3つの販売方法

加藤 発表会では、3つの販売方法について話をさせていただきました。

1つ目は、車の販売はオンラインのみで販売するということ。
2つ目は、ZEVのみを販売するということ。
3つ目は、お客様の車の使用機会を増やすこと。

「お客様の車の使用機会を増やすこと」は最終的に、お客様に所有していただける車を販売することに繋がりますが、その前のプロセスを大事にしよう、と考えています。

おかげさまで、発表会でお伝えしたことは、みなさまにしっかりと受け止めていただき、大きな混乱もなかったと感じています。

今は、5月の受注開始に向けて準備に奔走しているところです。

盛況を博している「ヒョンデハウス原宿」

JR原宿駅の目の前「Jing(ジング)」で、『Hyundai House Harajuku(ヒョンデハウス原宿)』は2022年5月28日までの3ヶ月限定のポップアップスペースを展開し、コミュニケーションを図る。

宇野 「ヒョンデハウス原宿」が盛況を博していると伺っています。また、カーシェアリングサービス『Anyca』で、IONIQ 5の予約が殺到している、とも伺っています。

加藤 ありがとうございます。『ヒョンデハウス原宿』は2022年5月末までの限定でオープンさせていただいています。若者が集まり、また芸術的な感度の高い方が集まる原宿で、我々のブランドを紹介したい、という思いでポップアップスペースを展開しました。

お越しいただけるとわかりますが、車を展示しているのですが、最初にお見せするのは車ではありません。まず、ご覧いただくのは、「クルマを通したライフスタイルの提案」 で、5人のKOL(キーオピオニオンリーダー)が、一定期間ごとに交替してそれぞれのライフスタイルやプロダクトといった展示を行います。

もちろん、車の機能や特徴も紹介しており、無料の試乗もできるようになっています。試乗は事前予約が可能で、当日でも空きがあればお乗りいただけます。『IONIQ 5』と『NEXO』の両方をご用意しており、試乗時間は1時間ほどとなっています。

また、カーシェアリングサービス『Anyca』は、2022年2月25日から都内で車の配備を開始しています。『ヒョンデハウス原宿』の試乗時間が短いと感じるお客様には、『Anyca』のプログラムを活用していただいて、ご自宅での車庫入れをテストしてみるとか、少し遠出をしてみる、といった使い方でご体感いただいています。

クルマを売ることよりライフスタイルの提案が先行?

宇野 発表会から『ヒョンデハウス原宿』までの一連の動きを見てますと、どちらかと言えば、クルマを売ろう売ろうというのではなく、全体的なライフスタイルの提案を先にして、その中に「我々のクルマがありますよ」という、良い意味で「クルマがオマケ」というような印象すら受けました。

加藤 もちろんクルマは主役です。しかし、日本人にとって「クルマとは何であるか」はみなさんがよくご存じの(ライフスタイルの象徴ということでしょう)通りです。我々は新しいブランドとして日本進出するにあたって、「LIFE MOVES. (ライフ ムーブス)」というキーワードを立てました。

ヒョンデが日本市場に導入する2モデルのZEVを通じた新しいライフスタイルの提案をして、ZEVに乗ることによってICE(内燃機関)のクルマでは成し得ない新たな使い方やライフスタイルがあることを訴求していきます。例えば、EVの電源を使ってキャンプをすることや、料理をするといった使い方を提案し、単に移動するだけの手段ではない「LIFE MOVES.」な使い方の提案をしています。

まずは、この「LIFE MOVES.」を、お客様にご理解いただいてから、我々のクルマの確認をしていただこうというのが、『ヒョンデハウス原宿』のコンセプトです。

『ヒョンデハウス原宿』に入ってすぐの壁面がこちら。筆者が訪れたときは、ファッションデザイナーの石川俊介さんの展示だった。壁面には「IONIQ 5の都会でも自然でも調和するシンプルでミニマルなデザインにインスピレーションを受けて、サステナブル素材を使ったシンプルでミニマルなトラベルバックをつくった」と書かれている。

販売やサポートの体制に不安はないか?

宇野 5月発売を控えて、発表会でも説明がありました販売体制や、サポート体制がどのように展開されるのか、改めてお聞かせください。

加藤 販売方法はオンラインのみとなります。弊社のWebサイトに、PCやスマートフォンからアクセスし、商品検索・試乗の申し込み・見積の取得ができるようになっています。

基本的なサイトの機能は他社とほぼ同様となりますが、特徴的なのは、契約に関することです。商品選定、見積もりから納車までオンラインのみで完結、決済もオンラインで行い、お客さまの進捗状況もお好きなときに確認にできることが特徴です。

サポート面は、我々が最も大事にしている「お客さまとの絆を作る」ということで、直営の拠点をまずは横浜に作ります。その後は、各主要都市への展開を考えています。横浜の新しい拠点は『Hyundai カスタマーエクスペリエンスセンター』と名付けており、ここが協力整備工場とネットワークを結ぶハブとなります。

現在の進捗状況は、札幌から福岡までのサポートネットワークがほぼ完成しつつあるところです。この後には、弊社独自のロードサービスも展開していきます。これにより、遠隔地のお客様でもサポートできます。

『ヒョンデハウス原宿』で撮影。車両は筆者がお借りした『IONIQ 5 Lounge AWD』。インタビュー前に加藤MDから、来訪者の性別、年齢、一緒に来られる方のタイプなどは非常に多岐に渡っている、とお話いただいた。

フィジカルな現場も必要。安心感の提供は我々の義務

宇野 ディーラーや整備工場という、言ってみればフィジカルなサポート体制が敷かれていないところ、私は一瞬ネガに感じましたが、考えてみればEVは部品点数がガソリン車より圧倒的に少なく、耐故障性も相当に上がっていることと、ヒョンデのZEVは遠隔地からでもリモート診断ができたりするので、ガソリン車をはじめとした内燃機関モデルが必要とするようなサポート体制の必要性があまりなかったのでは、と解釈しました。

加藤 EVが必要とする部品の点数は、おっしゃるように内燃機関モデルに比べて、非常に少なくなります。

一方で、我々の想定としては、初めてEVを購入されるユーザーが多くなり、購入後に使っていく中での不安やご相談も多くなると考えています。これについては、コールセンターでお受けする体制ができていますが、やはりフェイス to フェイスでメカニックと話をしたいという方も多くいらっしゃると想定しています。特に、日本市場でこれから多くのZEVを導入していくには、いろいろなお客様の不安感を取り去るために、フィジカルな現場も必要だとも考えています。

宇野 なるほど。「心配しなくていいよ」という感じですよね。

加藤 そうですね。やはり初めてヒョンデというブランドに接するユーザー、初めてZEVに乗るユーザーなので、お客さまの不安感をどれだけ取り除けるか? が大事だと考えています。また、お客さまに買っていただいて「良かった」という安心感を提供するのが我々の義務だとも考えています。まずはこのサポート体制で進めながら、サービス内容の充実化を図っていきます。

ブランドはこれからみんなと一緒に作っていく

宇野 『Hyundai (ヒョンデ)』ブランドは、これから日本のマーケットの中で、ユーザーを含めたみんなで一緒に作っていこう、ということですかね。

加藤 そうですね。再び新しく日本市場に参入した我々ヒョンデ、そして新しいZEVが商品ですから、「なかなかクルマの購入は……」と躊躇される方も多いと思います。ただ、我々としてはライフスタイルに不可欠なクルマとして、ヒョンデの、さらにはZEVという新たな魅力をお示ししたい。ですから、日本のみなさまにはまず、我々の商品を見ていただき、体験していただければと思っています。

現時点では目標販売台数を明示することよりも、特に今年は、ひとりでも多くの方にヒョンデのクルマに乗っていただく、体験していただくことを重視しています。クルマの展示や試乗は、なるべく早く全国でできるようにしていきます。

試乗中の1コマ。撮影地は西伊豆スカイライン。

ヒューマニズムを感じたヒョンデの日本市場参入

宇野 世界有数の大きな自動車メーカーが日本市場に再び参入するとは、私は驚きもあったのですが、お話を伺うととてもヒューマニズムにあふれていて、良い意味で人間くさいなとも感じました。

加藤 クルマはもちろん機械ですけど、操るのは人間ですし、またサポートするのも我々人間です。オンラインを活用して、時間と場所を選ばないシームレスな信頼関係を作りながらやっていきたい、と考えています。

宇野 確かにそうですね! 今日は貴重なお話、どうもありがとうございました。

加藤 ありがとうございました。またよろしくお願いします。

※本記事は、加藤MDへのインタビューを文字起こしし、主旨を変えないように編集したものです。インタビューの一部始終は下の動画からご覧ください。

筆者は、このインタビューを終えた足で「ヒョンデハウス原宿」へ伺い、広報車をお借りしました。丸2日間、たっぷりと試乗をさせていただく機会に恵まれました(たまたま空きができたとのことですが、貸し出し希望が集中している中、長い日数をお借りさせていただけました。ありがとうございました)。試乗レポートは、近日中に公開予定です。 

(撮影・取材・文/宇野 智)

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この記事の著者


					宇野 智

宇野 智

エヴァンジェリストとは「伝道者」のこと。クルマ好きでない人にもクルマ楽しさを伝えたい、がコンセプト。元「MOBY」編集長で現在は編集プロダクション「撮る書く編む株式会社」を主宰、ライター/フォトグラファー/エディターとしていくつかの自動車メディアへの寄稿も行う。

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