BMWが電気自動車『iX』を発表〜今後10年間で460万台のEV販売が目標

2020年7月に電気自動車(EV)の「iX3」を発表したBMWが、これまで「Vision iNEXT」と呼んでいたコンセプトカーのEVを、「iX」として市場に展開していくことを発表しました。市場導入は2021年末を予定しています。

BMWが電気自動車『iX』を発表〜今後10年間で460万台のEV販売が目標

第5世代のパワートレインを搭載した専用設計のEV

BMW AGは現地時間2020年11月11日に、新型EVの「BMW iX」を発表しました。iXは、BMWが2019年夏に発表した電動コンセプトカーの「Vision iNEXT」の量産バージョンになります。

とは言うもののプレスリリースでも、「発売は2021年末なので現状では開発途上にある」と断り書きを入れていて、スペックも動力性能など特徴的な部分だけが具体的に記述されています。

なにはともあれ、リリースをもとにiXの概要を見ていきましょう。

まずパワートレインは、第5世代のBMW eDriveテクノロジーを採用しています。第5世代は、7月に発表されたBMW初のフル電動SUV「BMW iX3」にも搭載されています。

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ただしiXは、EVを展開する前にガソリンエンジンやディーゼルエンジン、プラグインハイブリッド(PHEV)がラインナップされていたiX3とは違い、最初からEVにするために設計されています。BMWはリリースで、EVのために設計されたiXは、BMWが成功したスポーツ・アクティビティ・ビークル(BMWはSUVをSAVと呼んでいます)を「再定義する」ことになるだろうと強調しています。かなり自信があるようで、ちょっと楽しみになってきます。

BMWのオリバー・ジプセ取締役会会長はiXの発表にあたり、「BMWグループは常に自らを再発明するために努力している」とし、新技術のフラッグシップである「BMW i」は「BMWの企業戦略にとって中心的な要素」であると述べています。

新技術のフラッグシップというのは、車単体ではなく、パリ協定も見据えてライフサイクルでのCO2排出量を抑制し、持続可能性を追求する上での総合的な技術という意味です。CO2排出規制の荒波が押し寄せている欧州を主戦場にしている自動車メーカーとしては、このくらい真剣に電動化に取り組まないと会社がもたないという切羽詰まった状況にあると言えます。

バッテリー容量は100kWh以上で航続距離600km!

そんなふうにBMWがちょっとした気合を込めて市場に投入するiXは、ミュンヘンから100kmほど北東に言ったディンゴルフィング工場で生産されます。

余談ですが、ディンゴルフィング工場はBMWの電動車両の中核になる予定で、将来的にはここで、バッテリーモジュールや電気モーターも生産する計画になっています。現在は「i3」のバッテリーをここで生産しています。ちなみにバッテリーセルなどの開発は、ミュンヘンに設置した開発センターで手がけています。

【BMWニュースリリース】
#NEXTGen 2020.(英語)

ディンゴルフィング工場の敷地面積は、2015年の8000m2を、今後は10倍の80000m2まで拡大する予定です。2022年にはディンゴルフィング工場だけで年間50万台以上の電動車(ハイブリッド車やプラグンハイブリッド車を含む)を生産する計画になっています。

さて、第5世代のBMW eDriveテクノロジーは、バッテリーの重量あたりエネルギー密度の向上や、レアアースを使わないモーターなどが特長だと、iX3の発表時には説明がありました。今回のiXではそれらに加えて、高電圧バッテリーや高出力での充電、2モーターシステムも、新技術として取り上げています。

まず2モーター合計の最高出力は370kWで、0→100km/h加速は5秒未満を目指すそうです。バッテリー搭載量は100kWh以上で、WLTPサイクルでの航続距離は600km以上になる見込みです。

BMWはリリースでEPA基準での航続距離も記載していて、300マイル(約480km)以上に相当するとしています。欧州メーカーがEPA基準に言及するのは珍しいように思いますが、これも自信の表れかもしれません。また、電気自動車になることで、ユーザーがよりリアルなデータを必要としていることに答える気概の表れとも感じます。

ちなみにiX3は、バッテリー搭載量は80kWh(ネットで74kWh)、航続距離はWLTPサイクルで460km、EPA換算の推定値は410kmです。iXは、モーターの数が増えて最高出力も370kWに上がっていますが(iX3は210kW)、バッテリー搭載量が増えた分だけ航続距離も伸びているようです。ただしiX3より電費は少し落ちるので、バッテリー増量分がすべて航続距離の延長にはなりません。

WLTPでのiXの電費は100kmあたり21kWh、1kWhあたりだと4.76kmと発表されています(iX3は1kWhあたり5km超)。WLTPサイクルでこの数値が出るとすると、高速走行の条件が欧州のWLTPサイクルに比べて少し緩い日本のWLTCなら、1kWhあたり5kmくらいになるかもしれません。

だとすると、バッテリー搭載量から考えると実用で500kmくらいは一充電で走れる可能性があります。普段の生活でそんなに長く走ることはめったにないと思いますが、日本に導入されたら試してみたいと思います。

急速充電は200kW対応に

注目したいのは急速充電の対応出力で、200kWになるそうです。この出力を連続で受け入れることができれば、10分の充電で、EPA換算でも100km以上の航続距離を確保できます。

ヨーロッパでは、欧米韓の自動車メーカーが出資するIONITY(アイオニティ)が350kWの急速充電器を設置していて、2020年に欧州で400基にすることを目指しています。このためポルシェ「タイカン」やアウディ「e-tron」など、大容量バッテリーを搭載しているEVの実用域は確実に広がっていきそうです。

【関連記事】
欧州電気自動車充電ネットワークの『IONITY』がkWhベースの新料金体系を発表(2020年1月20日)

またアメリカではテスラがスーパーチャージャーのV3を250kW対応にしていて、CCS規格の急速充電器にも150kW出力の設置が進んでいます。日本では相変わらず最大でも50kW出力が中心で、高出力器の設置はあまり進んでおらず、大容量バッテリーの恩恵はなかなか受けられないのが実情です。現状の充電インフラでは、iXが本来のポテンシャルを発揮するのは難しいかもしれません。もっと言えば、CCSなら高出力対応できる輸入電気自動車全般ですが。

あぁ、充電インフラのことになるとつい同じ愚痴が出てしまいます。ご勘弁くださいませ。

こうしたパワートレインやバッテリー関連技術のほか、iXでは自動運転技術などのデジタル関連技術も前進があったようです。例えば車載コンピューターの計算能力を上げることで従来のモデルの20倍のデータ量を処理できるようになり、最終的には車載センサーからのデータ処理量が従来の2倍に増えたそうです。

加えて、通信を5G対応とし、自動運転や駐車機能の向上を実現したとしています。こうした先進的なデジタル技術について、BMWのフランク・ウェーバー取締役は、「私たちはiXに搭載している技術を業界の新しい基準にしていく」と話しています。もっともこの点に関しては、5Gが広範囲で使えるようになるまでは理論上ということになります。

このほか、BMWの特徴であるキドニーグリルが写真で見ると今までよりもさらに大きくなっている印象を受けますが、もちろんこれはラジエーターのためではなく、自動運転などのためのカメラやレーダー、センサー類が搭載されているそうです。それにしても大きく育ちました。

EVになっても、運転する新しい喜びを開発する

今回、iXが発表されたのは、BMWの次世代技術戦略などの発表会「#NEXTGen 2020」の中でした。

The first-ever BMW iX – Unveiling. | #NEXTGen 2020.(YouTube)

発表会では、欧州で販売されたBMWとMINIブランドの約13.3%がEVかPHEVになっていて、その割合は2021年までに全体の4分の1、2025年までに3分の1、2030年までに半分になると予想していること、ミュンヘンに設置したバッテリー開発センターでは2022年にバッテリーセルのパイロットプラントを稼働させる予定であること、ミュンヘンに新たに設置したシミュレーションシステム「E-Driveシステム」によって技術開発期間を最大1年半ほど短縮できること、電動2輪車の新しい形を示す「BMW Motorrad Definition CE 04」の開発状況などが公表されました。

また、MINIブランドの新しいコンセプト「MINIVisionUrbanaut」が11月17日に発表されることも公表されています。

BMWは7月27日に持続可能性に関する最新の企業戦略を発表しました。その中では、今後10年間で700万台以上の電動車(EV、PHEV)を公道に送り込むこと、そのうちの約3分の2(約460万台)は完全な電動車、つまり電気自動車(EV)にするという目標を設定していることも明らかにしています。

【公式リリース】
No premium without responsibility: BMW Group makes sustainability and efficient resource management central to its strategic direction

10年間で460万台を1年あたりに平均すると年間50万台弱なので、テスラの今年度の目標と同じくらいですが、今はまだBMWのEVの数が少ないので、目標を達成しようとすると最終的には年間100万台近くを売らないといけなくなるかもしれません。

BMWはまた、次世代のEVについて「#NEXTGen 2020」の中で、BMW5シリーズにモーター3個(前1個、後輪にそれぞれ1個)を搭載した530kWというハイパワーの実験車を使い、次世代の「運転する喜び」を具体化する開発も行っていることを明らかにしました。

「駆けぬける歓び」を標榜してきたBMWは、ユーザーが自分に合ったパワートレインを選択できる「Power of Choice」を電動パワートレイン戦略の基本コンセプトにし、EVになっても車の楽しさを追求しているようです。

「#NEXTGen 2020」で、電動パワートレイン開発責任者のマーチン・シュスター氏は、「電気駆動は単なる技術革新や、持続可能性の向上に向けた論理的な一歩であるだけでなく、運転する歓びに新たな次元を開く可能性があります」と話しています。

こうした狙いがどこまで実現できるのか、2輪車も含め、これからのBMWの電動化戦略の進捗に注目していきたいと思います。あわよくば、日本でもこの戦略に乗った車がヨーロッパから押し寄せると、日本のモビリティにもジワジワと影響が広がりそうな気もするのですが、どうでしょうか。

(文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 1番きつい規制のCAFEと、CAFEよりもまだ優しいZEV、NEVをクリアするために、BMWは目標設定していると思う。クリアのために、EV(BEV)を多く売りたいだろうけど、BMWはどこまで価格を下げれたEV車を発表できるか、とても興味ありです。
    ラインナップ揃えても、高すぎて買ってくれないでは、減益になるし、減益にならないように内燃機関車を売ると規制をクリアできなくなって罰金払いで減益になるし。大変だ。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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