三菱eKクロスEV公道試乗レポート〜21世紀のモビリティ完成に向けて【御堀 直嗣】

販売好調の軽EVである三菱eKクロスEVと日産サクラの公道試乗レポートをシリーズでお届けします。今日は、自動車評論家、御堀直嗣氏によるeKクロスEVへの評価。軽EVが切り拓くべきモビリティの未来を提言します。

三菱eKクロスEV公道試乗レポート〜21世紀のモビリティ完成に向けて【御堀 直嗣】

EVの利点のすべてが詰まっている

三菱自動車工業として2車種目となる、軽乗用EV(電気自動車)のeKクロスEVに対面し、試乗し、改めてEVの本質に触れた気がした。EVの利点のすべてが詰まっているのである。

今回の試乗は、大人4人乗りであった。それでも、ガソリンターボエンジンの約2倍のトルクを生み出すモーター駆動によって、eKクロスEVはなんら不足なく走った。しかも、エコモードでの運転で不自由しない。高速道路も快適に巡行し、追い越し加速も苦にしなかった。

運転感覚からも、軽自動車に乗っていることを忘れさせる。そればかりでなく、同乗していても軽自動車であることを忘れさせ、車内での会話も弾んだ。

走りの良さは、ぜひご自身でも試乗して確かめてみてほしい。

なにより静粛性に優れるのがEVならではの利点だ。一般的に軽自動車ガソリンエンジンは直列3気筒であり、その振動と騒音はそれなりに意識させられるものだ。ここが大きく違う。

ただし、高速道路ではeKクロスEVもタイヤ騒音が耳に届いた。しかしこの点も、登録車のEVであってもなかには騒音に対処しきれていない車種があり、軽だからという話では必ずしもない。タイヤ騒音については、日産アリアが対策を織り込んだタイヤ選びをしているが、軽自動車という立ち位置からすれば、標準装着タイヤにそうした付加価値の高い銘柄を選ぶのは難しいだろう。だが、自分のクルマになら、上級車種向けの静粛性を重視するタイヤを選ぶのも一手だと思う。

乗り心地が快適なのにも感心した。床下にリチウムイオンバッテリーを車載することにより、ガソリンエンジン車に比べ5cmほど重心が低いということであり、安定性が増し、また当然ながら車両重量が重くなるので、細かい振動が抑えられ、登録車や上級車種並みのゆったりした乗り味になる。

男性4人乗車の後席でも余裕をもって座っていられた。

座席の作りもよく、後席でもクッションの厚みを実感できる仕上がりで、前後の席にそれぞれ座ってみた今度の試乗では、車窓を流れる景色を後席で楽しみながら移動することができた。また軽自動車のハイトワゴンやスーパーハイトワゴンは、後席の前後位置調整を大きくとれるようになっており、eKクロスEVも同様の調節ができる。

もっとも後ろへ下げると、ストレッチリムジン的な気分を味わえる。ハイトワゴンのeKクロスを基にしているので、天井が高く、想像以上に広々とした空間を感じられる。ただし、後輪の真上に座るような着座位置になるので、タイヤの上下振動の影響は受けやすい。そこで、前よりに座席を移動させて座ると、乗り心地は一変する。前後タイヤの間に着座位置がくるからだ。

運転支援機能については、前車追従式のクルーズコントロール(ACC)の速度調整で、エンジンの約1/100といわれるモーターの素早い応答性により、交通状況に応じた違和感のない制御が行われるのを実感できた。

以上のような総合的な価値として、軽乗用EVのよさを存分に体感できたのであった。

さらに、EVの利点のすべてが詰まっていると思うのは、リチウムイオンバッテリーの利用のされ方だ。

日常的な用途において適正なバッテリー容量

浦安市内の拠点をスタートして、酒々井PA(下り)で急速充電を試してみた。54%からスタート直後の出力は371V×83A=約30.8kW。10分ほどで約75%となり、電流値が36A、出力約13.9kWに落ちたので充電を終了して復路に。

eKクロスEVの車載リチウムイオンバッテリー量は、20kWhである。ここから、WLTCで180kmの一充電走行距離が得られる。

昨今、容量の大きいバッテリーを車載し、一充電走行距離の長さを主張するEVが多くなっている。だが、eKクロスEVのバッテリー容量は、日常的な用途において適正であると思う。

もちろん、より容量が多く、余力を残した方が、安心感が生まれるのは私も同じだ。たとえば、5ナンバー車の日産ノートほどの車体で、30kWh程度の容量であれば、より多くの人にとって安心できる価値が得られるのではないか。

それでも、eKクロスEVの車載バッテリー容量と走行距離が合理的だと考える理由は次の通りだ。

eKクロスEVと同じ性能を持つのが、日産サクラである。そして日産には、登録車のEVがあり、バッテリー容量と一充電航続距離に関する選択肢がある。

リーフは、40kWhのバッテリー容量で、一充電走行距離はWLTCで322kmだ。リーフe+は、62kWhのバッテリー容量で、一充電走行距離が458kmに延びる。アリアの91kWhのB9と名付けられる車種については、まだ正式な認証値として一充電走行距離が示されていないが、日産の社内計測値として610kmとある。いずれの車種も、2輪駆動車の値だ。

これら、バッテリー容量と一充電走行距離を比較していくと、リーフはサクラの2倍の容量でありながら、一充電走行距離は2倍とはならず、約1.78倍に止まる。リーフe+はサクラの3倍以上の容量だが、走行可能距離は2.54倍だ。アリアは4.5倍の容量でありながら、走行可能距離は3.38倍程度という概算になる。

つまり、車載のバッテリー容量を何倍に増やしても、その増量分すべてが走行距離に反映されるわけではない。資源を投じた割に、移動距離に活かされないということだ。

ならば、日常的にそれほど長距離を移動しないのであれば、サクラやeKクロスEVの性能は、投じた資源を上手に使い切る仕様であることになる。そのうえで、もし長距離を移動するなら、途中で急速充電すればよい。それだけのことだ。そして、急速充電器の口数を増やすことが、社会基盤整備での優先課題だろう。

大容量バッテリーを車載し、一充電走行距離を競うことに対する、一つの警鐘といえる。

EVの真価を問い、21世紀のモビリティ完成へ

しかし、かといって大容量バッテリーを車載するEVが不要だというわけではない。個々のクルマの使い方次第で、年間に何万kmも走り、一日に何百kmも移動する日々を過ごすのであれば、より上級・高性能なEVを選べばよい。しかし一般的には、サクラやeKクロスEVほどの実力で移動の自由を得られるのではないかという、EVの本質的価値の再認識になるという話である。

また、長距離移動を急ぐのであれば、新幹線や特急を利用したほうが時間も早いし、二酸化炭素(CO2)排出量も少ないだろう。そのうえで、目的地最寄り駅で、EVのカーシェアリングを利用すればよいのではないか。それこそが、モバイル時代の低二酸化炭素な移動手段だろう。

EVの価値や、普及の意味は何か?

そこを再考させるのが、eKクロスEVやサクラの存在意義である。日本は、そこに到達した。この点でいえば、欧米はまだガソリン車時代のクルマの利用形態を引きずったEVしか創造できていない。一充電走行距離の長さを競い、急速充電器の高性能化を競ううちは、20世紀の、石油の時代の発想だ。それでは、本当の脱二酸化炭素時代は生み出せないし、世界80億近い人間は生き残れない。

物流も含め、モーダルシフトや公共交通機関の活用を総合的かつ上手に運用し、それに不便を覚えない情報通信や支援のできる社会構造を充実させてこそ、21世紀のモビリティの完成と私は考える。

(取材・文/御堀 直嗣)

この記事のコメント(新着順)5件

  1. 秋田県立大学が行った燃焼ヒーターのフィールド実験のリンクを添付します。
    http://www.cev-pc.or.jp/event/event_pdf/aomori08.pdf
    安川さんがご指摘になるように、最近のヒートポンプはかなり効率が良くなっていると思いますが、寒冷地でEVを使っていくには出来るだけバッテリー容量に余裕があった方が良いと思います。

    1. ピーター様、コメントありがとうございます。資料拝見しましたが、事故の際の火災リスクなどについては評価されていないですね。
      私の個人的な感覚ですが、自動車メーカーや車両保険を提供する保険会社は、このような使用法に対し、責任は負わないと思います。設計当初からこれを組み込んで作り込むことはできると思いますが、そこまでするほど効率が良いのか、という意味では疑問の残るポイントのように思います。結論としてはピーター様おっしゃるように、バッテリー多め仕様というのがあっても良いのかなと思います。

  2. 先のコメントでも言及されていますが、冬の暖房性能を考えるとバッテリ容量は一考を要します。
    i-Mievを乗用していることから、夏場はエアコンを使用しても、それほど航続距離は気になりません。しかし、真冬に100km以上の走行をする場合に航続距離の目減りにヒヤヒヤしながら運転しており、バッテリ容量がもう少し余裕を持たせたいといつも思います。
    今回、サクラとEKワゴンをこの時期に発売されたのは、暖房性能を気づかせることなく購入してもらう狙いがあると言っては、言い過ぎでしょうか?
    シートヒータ、フロントウインドウ熱線ヒータは日常使用でも真冬には必須アイテムです。

    1. ミケ 様、コメントありがとうございます。冬にもう少し余裕が必要では?というご意見、私もおおむね同意いたします。ただもう一点考慮すべきは、ここ13年間のエアコンの進化です。今まで、0℃前後あたりではあまりCOPが高くできなかったヒートポンプエアコン。2009年頃の設計のエアコンでは、ほぼPTCヒーターをメインで使用していたと思います。今のヒートポンプエアコンはかなり効率が上がっていますので、
      https://www.denso.com/jp/ja/-/media/global/business/innovation/review/22/22-doc-paper-15-ja.pdf
      こちらの資料がそのまま使えるわけではないのですが、傾向として、ガスインジェクションを含む最新技術であれば、気温5℃時、PTCヒーター比で63%もの消費電力削減になるようです。冬に、またテストしてみたいと思います。

  3. 昨今の欧米のEVが大容量バッテリーを積んでいるのは、法規上EVに求められる航続距離が300km程度あるからです。(https://ww2.arb.ca.gov/sites/default/files/barcu/regact/2022/accii/isor.pdf)
    米国の様に国土が広く自動車以外の交通手段が無い場合、自ずからEVに求められる性能要件は日本とは違ってきます。従って欧米はまだガソリン車時代のクルマの利用形態を引きずったEVしか創造できていないという事では無いと思います。
    小容量のバッテリーを積んだEVの場合、問題となるのは熱マネ性能です。冬期に必要とされる暖房エネルギーは、走行エネルギーに比べて遥かに大きくなります。優れた熱マネ性能を持った軽EVを作っていくことが、大変重要と考えています。

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この記事の著者

御堀 直嗣

1955年生まれ65歳。一般社団法人日本EVクラブ理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。1984年からフリーランスライター。著書:「快走・電気自動車レーシング」「図解・エコフレンドリーカー」「電気自動車が加速する!」「電気自動車は日本を救う」「知らなきゃヤバイ・電気自動車は新たな市場をつくれるか」「よくわかる最新・電気自動車の基本と仕組み」「電気自動車の“なぜ”を科学する」など全29冊。

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