BYDの電気自動車『ATTO3』で休日ドライブ〜440万円で全部盛りの出来映えは?

日本進出第1号車種となったBYDの電気SUV『ATTO3』でゴールデンウィークの八ヶ岳南麓へドライブしてきました。容量58.56kWhのバッテリーで、片道150km程度の高速道路走行は楽々クリア。細かく気になる点はあったものの「バランスのいい大衆向けEV」という印象です。

BYDの電気自動車『ATTO3』で休日ドライブ〜440万円で全部盛りの出来映えは?

パノラマルーフや運転支援は標準装備

今年1月に発売されて、3月下旬からデリバリーが始まっているBYDの『ATTO3(アットスリー)』。ゴールデンウィークに取材用の広報車をお借りすることができたので、八ヶ岳南麓へのファミリードライブを試してきました。

5日間で約410kmというまったりドライブを堪能した印象をまとめると、①装備面でお買い得感が高い ②性能は必要十分な大衆的電気自動車 であるということでした。

ATTO3の価格は440万円(税込)です。この値段で、搭載する駆動用バッテリー容量は58.56kWh。日産リーフと比べてみると、440万円は40kWhのベースモデル「G」グレード程度。この価格で、電動で開閉可能なパノラマルーフや、アダプティブクルーズコントロール(ACC)、レーンキープアシスト(LKA)などの先進運転支援機能が標準装備。ATTO3と同等の60kWhのバッテリーを搭載してプロパイロットが標準装備のe+「G」グレードは約583万円〜(税込)となるので、ざっくり150万円くらいは安い設定になっています。

しかも、V2HやV2Lにも対応しており、リーフの弱点となっているバッテリーの温度管理についてもアクティブな温度管理システムを搭載しています。

急速充電中にバッテリー温度が上がると冷却のファンが回り始めます。

スマホのワイヤレス充電トレーはあるし、テールゲートは電動で開閉するし、リモートで開けることも可能。12.8インチのセンターディスプレイは電動で縦横に回転します。実際に数日使ってみて「なんともお買い得でサービス満点なEVだなあ」という印象でした。

ちなみに回転するセンターディスプレイ。走行中に縦にすると視界の邪魔になるのでは? と思いましたが、実際にはいい感じの高さに収まって問題なし、という感じです。

車両の設定などの多くは、このセンターディスプレイで行います。ただし、センターコンソールのシフトレバー回りにもオーディオのボリュームやエアコンの「AUTO」スイッチ、オートブレーキホールドのON/OFFなどの物理スイッチが配されていて、スイッチ類や操作のパッケージングも「ちょうどいい塩梅」にまとまっている印象でした。

車線逸脱やステアリング保持の警告が謎

装備はまさに「全部盛り」でゴージャスなATTO3ではありますが、440万円の大衆車(最近は400万円くらいまで大衆車と言っていいですよね)であり、テスラ モデルYや日産アリアのような「高級感」は控えめです。とはいえ、インテリアの素材なども決して安っぽいということはなく、いろんな色にアレンジできるアンビエントライトまで装備してるし、オーナーにとってはお楽しみ満載のクルマであると感じます。

ただし、いくつか気になる点はありました。

まず、ACCやLKAを起動して高速道路を走行中、ステアリングを持っているにも関わらず、頻繁にステアリング保持の警告が鳴り響くこと。また、ステアリングを強く持ち直して少し動かしたりしてみても、警告音がなかなか止まらないことが度々ありました。

また、一般道を走行中にもしばしば意味のわからぬ車線逸脱警告が表示されることがありました。加えて、何度か数秒間ほど英語でのアラート(内容はちゃんと読み切れませんでした)が出るのも謎でした。

あと、復路の中央自動車道、笹子トンネルでの事故などもあり大渋滞に見舞われてACCが大活躍してくれたのですが。停車して一定時間経過すると、ACCの設定が一旦リセットされてしまうのがちょっと面倒でした。流れたり止まったりを繰り返すときには、加速やブレーキが「急だなぁ」という印象もありました。とはいえ、渋滞の高速を走る際、ACCがあるとないでは疲れ方が大違い。慣れてしまえばより快適な使い方(設定方法)が見つかりそうな気もするし、まあ、許容範囲です。

さらに、ディスプレイでの車両設定やバッテリー情報の内容や深さについては、テスラほど洗練されてはいません。なかでも、区間電費は「直近50km」が自動的に表示されるのと通算電費がわかるだけで、任意に設定するトリップ区間の電費がわからないのは少し不便を感じました。これもまあ、私自身細かく電費を気にして走るタイプではないので、許容範囲ではありますが。

テスラ車の場合、車載ナビで目的地を設定するとルートの電池残量予想グラフが表示されます。EVにとって素晴らしい機能だと思うので、BYDにもぜひ追随して欲しいところです。

まだデビューしたばかりの車種ではありますし、そんなこんなに関しては今後のアップデートに期待です。

急速充電性能は「ちょうどいい」感じ

今回、試乗期間中に3回の急速充電を行いました。充電データを表にしておきます。

充電日時場所機種
出力
開始時
SOC
終了時
SOC
充電時間
充電量SOC
推計充電量
2023/05/02
19:17
中央道双葉SA
下り線
ニチコン
90kW(※)
56%86%28分
30%
約17.6kWh
2023/05/06
9:20
ホンダカーズ東京中央
野沢店
ニチコン
50kW
18%54%30分
36%
約21.1kWh
2023/05/08
9:46
日産自動車
グローバル本社
新電元
90kW
38%87%30分
49%
約28.7kWh
(※)双葉SAのニチコンマルチプラグ器はブーストモードやダイナミックコントロール適用

1回目は、八ヶ岳への往路、中央道双葉SA下り線に新設されたニチコンマルチプラグ器です。充電スポットには6基のストールが並ぶうれしい風景。最高出力は90kWですが、ご承知のように複数台のEVが充電すると出力を分け合って(パワーシェアリング)出力が変動するダイナミックコントロールや、1台だけで充電する場合でも最大出力は15分しか継続しないブーストモードが適用されています。

夢に見ていた光景です。あとは「アテになる出力」かなぁ。

この日はGW真っ最中ということもあり、到着時にはすでに2台のリーフが充電中。途中、アリアがやってきて、4台で充電器電源の200kWをシェアするかたちになりました。

充電開始直後はメーター表示で85.2kWの出力で充電できていましたが、アリアが接続したあたりでSOCが65%を超えて60kW弱に出力ダウン。70%を超えたあたりから40kW弱になりました。

終了まであと数分、85%を超えても31.6kWで充電できていましたが、トイレ休憩も終わり目的地でもある身内の保養所(別荘)への到着を急ぎたかったので充電終了。28分間でおよそ18kWhという充電量でした。

ニチコンマルチプラグ器のパワーシェアリング仕様は、説明するとややこしくなるので割愛します。ざっくり言って、4台同時充電(今回は3台目の接続)すると40〜50kW器程度の充電量になる、感じです。

80%を超えたあたりからは、メーターに「駆動用バッテリー温度制御が作動中」というメッセージが表示され、ファンが回る音がしてました。

2回目の急速充電は、八ヶ岳から東京に戻り自宅近くのホンダディーラーで行いました。ほんとは自宅最寄りの日産ディーラーの充電器が空いていることを確認して充電するつもりだったのですが、タッチの差でID.4が充電開始。ホンダディーラーの50kW器に移動しました。

SOC18%から開始と好条件だったこともあり、充電量は36%推計21.1kWhとまずまずです。終了時でSOCが50%台だったこともあり、温度制御も作動しませんでした。

ホンダでの充電でさらに注ぎ足しをしなかったのは、クリアに90kW器30分の充電を試したかったから。最後の3回目は広報車の返却直前、横浜の日産グローバル本社の新電元90kW器です。

開始から数分間は最大出力の200A流れてメーター表示も85kWを超えていました。60%を超えて80%くらいまでは135A。85%では77Aまで下がりつつ、堅実に充電できた印象です。推計充電量は49%で約28.7kWh。充電器の表示では31.6kWhとなっていました。

一点、謎だったのが充電中の電圧の動きです。

残り23分/SOC54%/439V 200A

残り16分/SOC66%/428V 135A

残り9分/SOC77%/430V 135A

残り4分/SOC85%/422V 76A

開始直後が439Vと一番高く、以降、428V→430V→422Vと不規則に変動しています。ATTO3のシステム電圧、カタログスペックでは390.4Vです。今までの三元系電池の体験からすると、たとえば「350Vくらいから充電が進むにつれて420Vくらいまで上がっていく」と思い込んでいたのですが、ATTO3が採用しているLFPでは異なる制御になっている、ようです。

BYDの広報ご担当者にも確認しましたが「温度制御が働くと電圧が下がるケースがある可能性がある」ということで、詳細な制御の内容はわかりません。LFPのモデル3とかではどうなんでしょう。理由など心当たりがあるオーナーさんいらっしゃれば、コメントでご教示いただけるとうれしいです。

エンジン車もいろいろありますが、EVも奥が深いですね。ひとまず、私の中では「ATTO3急速充電の謎」として心に留めておくことにします。

ともあれ、カタログスペックで最大85kWとされているATTO3の急速充電性能。新電元90kW器の場合、ヒョンデ IONIQ 5 なら40kWh程度、MBのEQBなどでは38kWhくらいは充電できるのでベストではないですが、まあまあ、ベターな充電性能と言っていいでしょう。

バッテリー容量も「ちょうどいい」

急速充電性能を検証しようとすると、どうしてもスーパーチャージャーがあって圧倒的に便利なテスラ車を基準に物事を考えたくなってしまいがちです。でも、考えてみれば一般ユーザーのマイカー活用法としては、東京から八ヶ岳やら蓼科あたり、那須高原やらの往復を不便なくこなせれば必要十分だとも思います。

58.56kWhというバッテリー容量も、使い勝手のいい大きさだと感じました。今回、八ヶ岳への往復では双葉で充電しただけで、別荘での普通充電などはしていません。八ヶ岳出発時のSOCは47%で、途中で1回充電しておこうかなと思ったのですが大渋滞に巻き込まれ……。釈迦堂PAに入ったら2基とも充電中でスルー、石川PAも同乗者に「高速充電ナビ」で確認してもらったら数分前に開始した充電中だったのでスルーして、結局充電は行わず、SOC19%残して自宅に到着できていました。

エンジン車なら無給油で往復できる! と考える方がいるかも知れませんが、ATTO3は電気自動車なので、エンジン車との比較はあまり意味がありません。トイレ休憩ついでの充電1回で、東京=八ヶ岳を往復に加えて数日間高原で遊べる航続距離性能は及第点。また電費性能もまずます。「エネルギー消費リスト」で確認した3858km走行の累積電費は「15.6kWh/100km」で、テスラ風に換算すると「156W/km」、電力当たりでは「約6.4km/kWh」でした。

前述のように区間電費は表示されないので推定ではありますが、SOC47%から19%で八ヶ岳ー東京を走った復路(下り勾配傾向)では約9.7km/kWhと秀逸でした。日本で買えるミドルサイズSUVの電気自動車としては、ヒョンデ IONIQ 5 よりもお手頃に「エンジン車並み」の価格で買えるATTO3のコストパフォーマンスとしては、いろんな点でバランスのいいEVだと感じます。

テーブルタップ付きのV2Lアダプター

ATTO3がテスラ車や日産リーフよりもイケてるポイントが、V2Lアダプターが用意されていることです。普通充電口に接続するだけで、AC100Vの電気を取り出すことができ、アウトドアレジャーなどで便利です。このアダプターは、トヨタやヒョンデにもありますが、コンセントはひとつだけでケーブルもありません。BYDのアダプターはオプション(税込44,000円)ですが、ケーブル(長さは確認し忘れましたが3mほどだと思います)とテーブルタップが付いているので、さらに手軽に使えます。

ただし、車内にACコンセントがないのは少し残念。オプションでもいいので、選択できるようになることを期待します。

あと、少し物足りないと感じたのが、回生ブレーキを「意のままに操る快感」が楽しめないこと。たとえば、IONIQ 5 の場合、パドルシフトで回生の強さをコースティングからワンペダル完全停止まで手軽に変えることができ、ワインディングの下りなどではシフトチェンジを操るように回生の強度をコントロールして走る楽しさがあります。

ATTO3の場合は、センターディスプレイの車両設定で回生ブレーキ強度を「スタンダード」と「強」の2段階で切り替えられるだけ。「強」にしても、走行中にアクセルペダルを放すだけではそんなに強い回生は感じません。

でも、メーターパネルに表示されるパワーゲージとともに、アクセルを踏んだ時の消費電力量とともに回生作動時の回収電力量をkWで表示してくれるのが好印象でした。下り坂でスピードが乗っている時にアクセルオフしてブレーキを踏むと、確認できた最高で「ー50kW」以上の電力を回収していました。そうなんです。回生ブレーキって、瞬間的には急速充電並みの電力を回収しているんですよね。

数値で示してくれることで、ここからEVに乗り始めた方にも、回生ブレーキを上手に活用すること、そして電気エネルギーの大切さを実感していただけるのではないかと感じます。

というわけで、数日間のロングドライブのインプレッションをまとめると……。エンジン車からEVに乗り替える方のエントリーモデルとして、ATTO3は値段や性能のバランスが「ちょうどいい」一台、という印象でした。

もうすぐ日本発売されるコンパクトEVのDOLPHINへの期待も膨らみます。コスパの高い車種の幅が広がることで、日本でもEVオーナーが増えることを願っています。

と、記事の公開作業をしていたら、YouTubeのEVsmartチャンネルでテスカスさんがATTO3のインプレッション動画を公開しているのを発見しました。リンクを貼っておきます。

BYD ATTO 3 横浜→名古屋を長距離ドライブ

取材・文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)2件

  1. BYD
    いわゆるFLPバッテリーは、良いのですが!
    ATTO3の特徴なのか?
    バッテリー残量のバッファーが、殆ど無い!(¯―¯٥)

    バッテリー残量が、数パーセント有るから!まあ大丈夫だと思うと、突然に電欠する!(¯―¯٥)

    中には、メーター表示が30パーセントあっても信用出来ないとか?
    原因が、FLP・リン酸鉄リチウム電池なのか?

    ATTO3は、そう言う仕様なのか?
    YouTuberの動画から

    同じく未確認情報
    有名YouTuberから
    テスラ車での話
    FLPバッテリー劣化が、異常に早い!
    極端な話、初期の日産リーフ並とか?(¯―¯٥)

    これからのデータ待ちですが。

    1. 羽柴健一さま、いつもコメントありがとうございます。

      一点、リン酸鉄バッテリーの一般的な略称は「LFP」です。
      また、未確認情報の伝聞のみによるネガティブなご発言は慎重にお願いします。

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この記事の著者

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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