※冒頭写真はテスラ公式Twitterから提供いただきました。
出力72kWのアーバンスーパーチャージャー8基
7月になって、愛知県名古屋市千種区の星ヶ丘駐車場にテスラ「スーパーチャージャー(SC)」が使用可能になっていたことがわかりました。テスラの公式サイトの『テスラ専用 スーパーチャージャー ステーション一覧』にすでに記載が追加されてはいるものの、ユーザーやメディアに向けた正式なアナウンスはなく、いきなりオープンした印象です。
設置されたのは江東区東雲の『東京ベイ スーパーチャージャーステーション』などと同じ、120kW(公称)のスーパーチャージャーよりも小型で出力72kWの「アーバンスーパーチャージャー」です。設置基数は全部で8基。テスラオーナーであるテスカスさんのブログによると、星が丘駐車場の3Fと4Fに各4基ずつ設置されたようです。
星が丘駐車場(Googleマップ)
SCが新設されたのは地下鉄東山線「星ヶ丘」駅からすぐの場所。星が丘駐車場は星が丘テラスというショッピングモールや三越などに隣接しています。私自身、名古屋の土地勘はほとんどありませんが、星が丘は市街地中心部へのアクセスもよく、名古屋周辺では八事(やごと)などと並ぶ高級住宅街でもあるそうです。
テスラのスーパーチャージャーは東京に4カ所集中していることからわかるように、都市部ユーザーの利便性を高めるためのステーションと、浜松、仙台などのように基幹高速道路のロングドライブ時の中継点となりやすい場所を選んで設置が進められています。星が丘の場合は、都市部ユーザーの利便性を高めるための施設といえますが、東名高速名古屋ICからも5km程度と、比較的便利な立地になっています。
テスラ公式サイトによると、利用可能時間は「終日」とのこと。三越や星が丘テラスは閉まってしまうでしょうが、星が丘駐車場は24時間営業なので深夜などでも充電は可能だと思われます。
店舗が開いている時間であれば、三越なら2000円以上の買い物で2時間、星が丘テラスは3000円以上で1時間の駐車料金が無料になるサービスが用意されています。サービスを受ける際には利用店舗で駐車券の提示が必要なので、店舗を利用する時には駐車券を必ず持参するよう注意してください。
テスラ専用の急速充電 スーパーチャージャーが名古屋 星ヶ丘駐車場にオープン🚗⚡️🔋💯https://t.co/zQv8EjexhR pic.twitter.com/qv0aMbgQtG
— テスラ (@teslamotorsjp) July 4, 2020
「何それ?」という人のための解説
2019年以降、EVsmartブログではテスラSCステーションの新設情報記事をお届けしてきました。
【テスラSC新設情報記事一覧】
●四国初! 鳴門市にテスラスーパーチャージャーがオープン(2019年7月3日)
●東京ベイにテスラ「スーパーチャージャー」オープンで浮き彫りになる日本国内急速充電の切ない現状(2019年10月7日)
●日本国内23カ所目のテスラ「広島スーパーチャージャー」が本日オープン!(2020年2月16日)
●テスラ『大阪 豊中スーパーチャージャー』がオープン〜国内24カ所目(2020年4月2日)
テスラSCは電気自動車充電インフラを考える上でとても示唆深い施設なので、それぞれの記事では施設の概要などに加えて充電インフラに関する「思い」などに言及しています。とはいえ、今まで電気自動車にあまり興味をもっていなかった人にとっては「何じゃそりゃ?」と、よく理解できないこともあるでしょう。
先日、プジョー『e-208』の日本発売が発表されました。今後はさらに、日産『アリア』、ホンダ『Honda e』、レクサス『UX300e』、マツダ『MX-30』などの国産電気自動車、さらにはポルシェ『タイカン』、アウディ『e-tron』、DS『DS 3 クロスバックE-TENSE』、シトロエン『ë-C4-100% ëlectric』、そしてテスラ『モデルY』などの輸入電気自動車が続々と日本市場に投入されることが予想されます。
これから、今まで電気自動車には興味なんてなかったけど……、という新しいEVユーザーが増えてくるでしょう。充電インフラに関するあらましを理解しておくことは、ハッピーなEVライフを満喫するためにも大切です。今回の記事では、テスラSCが示唆する充電インフラの課題について、4つのポイントをわかりやすさ第一を心掛けて解説。参考となる過去記事へのリンクを貼っておきます。
スーパーチャージャーが使えるのはテスラだけ
日本国内に設置されている公共の急速充電器は『CHAdeMO(チャデモ)』と呼ばれる日本発の国際規格を採用しています。また普通充電は『J1772』という国際規格のコネクターです。一方、日本でデリバリーされるテスラ車は急速充電(直流大容量)も普通充電(交流)も、独自のテスラコネクターで充電します。
スーパーチャージャーや、これも独自に整備している交流充電の『デスティネーションチャージングステーション』もテスラコネクター対応なのでテスラ車専用。他社の電気自動車が充電することはできません。
テスラ以外の輸入電気自動車は、チャデモ対応で市販されています。
チャデモ規格は、早くから日産リーフや三菱アウトランダーPHEVなどが世界で市販されたこともあり、欧米でもインフラ設置が進んではいます。しかし、欧米各国はCCS(コンボ)と呼ばれる別規格での高出力充電インフラ整備を進めており、チャデモの存在感は次第に薄れているのが現状です。今、CHAdeMO協議会では中国と共同で『チャオジ=チャデモ3.0』という高出力対応の急速充電規格を世界標準規格にしようと動いていますが、先行きはまだ不透明です。
【参考記事】
●日中が合同で次世代超高出力充電規格『チャオジ』の発表イベントを開催(2020年6月22日)
●チャデモの進化〜電気自動車次世代高出力充電規格は日中共同開発の『ChaoJi/チャオジ』へ(2020年5月16日)
●Electrify Americaの充電スポットでは、今後はCHAdeMOのサポートは最小限に(2018年5月15日)
●EV急速充電器メーカー一覧と選び方(2016年2月22日)
高出力複数台設置がスーパーチャージャーの魅力
テスラのスーパーチャージャーは、今回星が丘に設置されたアーパンタイプで公称72kW、浜松や仙台などに設置されている通常タイプは公称120kWです。しかも、基本的に1カ所のステーションには4基以上を設置。充電待ちのリスクを減らし、ユーザーの利便性を高めています。
一方、日本国内の公共充電器として設置が進んでいるチャデモは最大50kWの「チャデモ1.0」仕様が主流。電力契約の制約から、44kW器が多く、道の駅などの施設では20〜30kWの中速充電器と呼ばれる施設が少なくありません。
また、主要高速道路の大都市近郊で2基設置のSAPAがいくつかありますが、そのほかの高速道路SAPAをはじめ一般道沿線の充電施設では、充電器1基だけの場所がほとんどで、休日など利用者が集中する際の「充電待ち」が悩ましい課題になりつつあります。
ここ数年で、チャデモ1.2と呼ばれる高出力規格に対応した最大90kWのチャデモ器が設置され始めてはいますが、その数はまだわずか。そのため、ジャガー『I-PACE』やメルセデス・ベンツ『EQC』、また先日日本発売されたプジョー『e-208』などの輸入車は、本国では100kWもしくはそれに近い高出力急速充電に対応しているにも関わらず、日本仕様は50kWが上限。テスラ車もチャデモ充電器には専用アダプターを使い、最大50kWまでの対応になっています。
テスラは高出力のSCステーションを独自に拡大しています。ポルシェも『タイカン』日本発売に向けて、最大150kW出力の急速充電インフラの独自整備を進めています。充電インフラの設置&維持コストを、誰がどのように負担するのかということは、今後、日本でも電気自動車が急速に普及していく上で、大きな課題となってくるでしょう。
電気自動車充電インフラの整備には、ユーザーの気持ちや使い勝手を理解した賢明な方針が不可欠です。高出力器の複数台設置をどのように、どこへ広げていくか。ことに高速道路SAPAにおける充電待ちの解消は、電気自動車を本当に日本で普及させるためには喫緊の課題となっています。
【参考記事】
●東京都「ZEV普及プログラム」に電気自動車ユーザー目線で5つの提言(2020年2月28日)
●NEXCO西日本がSAPA急速充電器増設〜充電渋滞は解消される?(2020年1月10日)
●テスラ『モデル3』東京=淡路島ロングドライブでEV充電インフラについて考えてみた【復路編】(2019年11月9日)
高出力急速充電はEV側の性能も必要
まだ実際の設置は進んでいないとはいえ、現状でもチャデモは「2.0」と呼ばれる最大400kW(1000V×400A)での充電が可能な規格を発行しています。でも、前述したように、日本国内で市販されている電気自動車は、急速充電はおおむね最大50kWまでしか対応していません。
ちなみに、テスラでは「V3」と呼ばれる最大250kW出力のSC整備をアメリカや台湾などで進めていますし、欧州のCCS2は最大350kWの充電ネットワーク構築をすでに始めています。
日本でも高出力の急速充電網を早く整備すればいいじゃないか、と考えるのは当然ですが、たとえば、ポルシェのように150kW出力のチャデモ器を設置しても、150kWで充電できるのは今のところ直近の市販予定も含めて150kWで充電できるのはタイカンだけ。日産リーフで62kWhの電池を搭載した『e+』は実質70kW程度での急速充電が可能ですが、そのほかの日本で市販されている電気自動車は、輸入車を含めてチャデモ規格での急速充電は最大50kWhまでしか対応していないのが現状です。
『バッテリーの劣化から考える電気自動車選び』と題した記事で紹介した、電気自動車各モデルの最大充電速度の図を、改めて紹介しておきます。
テスラモデル3やY、ポルシェタイカンのように、250kW以上の充電速度に対応して、その出力を発揮できる急速充電インフラ網があれば、単純計算で30分で充電できる電力量は125kWhで、5km@kWh程度の電費性能だとしても30分で625km走行できる電気を充電できるので、ロングドライブが格段に楽ちんになります。
でも、高出力の急速充電はバッテリーへの負担が大きく、劣化を招く原因にもなるため、高出力で充電時間を短縮すればOKという単純な話ではないのです。
電池劣化はおもに急速充電時などの温度上昇が原因となるので、急速充電性能を高めるためには、リチウムイオン電池そのものの性能(使用するケミカルなどによる)に加えて、電池の温度管理システムも大切です。
日本国内に100kW級の急速充電インフラが広がっていくためには、今後、100kW級の急速充電に対応した電気自動車の車種が増え、ニーズが高まることも必要でしょう。何ごともバランスが肝要。日本の電気自動車は、充電インフラとともに発展の過程にある、ということですね。
【参考記事】
●バッテリーの劣化から考える電気自動車選び/リチウムイオン電池容量低下の原因は?(2020年5月25日)
●『イーモビリティパワー』が目指すのは「便利な電気自動車充電インフラ」の実現(2019年12月17日)
●日産リーフe+ で90kW急速充電と日帰り約750kmのロングドライブを試してみた。(2019年10月20日)
●日産リーフの中古車を購入して確認できたいくつかの真実(2019年2月4日)
電気自動車は充電もドライブテクニック
あまり電気自動車に興味のない人と話すと「航続距離が短い」とか「充電スポットが少ない」、「充電時間が長い」といったことを気にして「まだ電気自動車は時期尚早」と思い込んでいる人が少なくありません。
でも、日本国内にはすでに7700カ所(2020年5月22日現在 ※チャデモ協議会発表データ)の急速充電スポットがあります。繁忙期の充電待ちをさておけば、たとえば一充電航続距離が100km程度だったとしても、電欠で路頭に迷うようなことはないでしょう。大容量電池搭載の電気自動車であればさらに安心ですが、電池容量が小さいからといって、日常的に苦難を強いられるようなことはありません。
EVsmartブログ執筆陣の箱守さんの愛車は電池容量10.5kWhのアイミーブ。私の愛車は電池容量30kWhの中古の日産リーフです。そして、安川さんの愛車は電池容量100kWhのテスラモデルX。電池容量75kWhのテスラモデル3の社用車もあり、それぞれの電気自動車によるロングドライブ実走レポートをしばしばお届けしています。
慣れてしまえば、急速充電を繰り返しながらのロングドライブもそれはそれで楽しいことに気付きます。どこで、どのくらい、何回くらい充電するか。ロングドライブ時の急速充電は、電気自動車の運転テクニックのひとつ、とも言えるのです。
といっても、実際に自分で電気自動車のロングドライブを体験したことがない人には、真意はなかなか伝わりません。これからもロングドライブレポートは機会を見つけてお届けしていきますので、「EVはダメ」という先入観をひとまず忘れて、楽しんでいただければと思います。
【参考記事】
●テスラモデルXで自動運転ノンストップ291km: 東京-福井5回目(2020年6月17日)
●テスラ「モデル3」で陸前高田へ〜冬のスタッドレス長距離ドライブ【速報往路編】(2020年2月21日)
●テスラモデルXで千葉を周遊340km、一泊二日旅行(2020年2月11日)
●テスラ『モデル3』の東京=淡路島ロングドライブで気がついたこと【往路編】(2019年10月31日)
●空冷BEV(三菱アイミーブM)で酷暑の往復250kmってどう?(2019年8月29日)
●ジャガー I-PACE で長距離実走レポート:東京〜兵庫【往路編】(2019年8月10日)
●10.5kWh電池のアイミーブMで往復1,200kmの遠距離はどうなの? 【往路編】(2019年5月13日)
●日産リーフ30kWhで長距離実走レポート:東京〜兵庫【往路編】(2019年5月1日)
EVsmartブログで電気自動車理解を深めよう
全部読破するのは大変かも知れませんが、レポートを読んでいただけば、電池容量に関わらず、電気自動車でロングドライブを楽しむために、ちょっとしたコツやテクニックがあることがわかっていただけるのではないかと思います。
テスラのSC新設のニュースから話が広がってしまいました。それにしても、参考記事を探してEVsmartブログのアーカイブを探索していると、よくぞここまで記事を積み上げてきたなぁと感慨深いものがあります。この記事に貼ったリンク先の記事を全部読めば、電気自動車への理解はグッと深まるはず。
いよいよ、日本国内でも購入できる電気自動車のバリエーションが増え、本格的なEV普及が始まろうとしています。エンジンの自動車とはちょっと違った目線も必要な電気自動車情報を、これからも、たくさんの執筆者のみなさんとともに発信していきたいと思います。
読者のみなさん、EVsmartブログと一緒にEV時代を楽しみましょう!
(文/寄本 好則)
今回設置された星が丘SCも駐車料金かかってしまうのでしょうか?(SC利用における特記を見つけられませんでした)
名古屋は名城スーパーチャージャーも(最初の15分は無料とはいえ)駐車料金がかかってしまいますし、なんとかそこはお台場や東雲のように頑張っていただきたいところなんですが、一般の駐車場への設置となると中々難しいのでしょうか…。
それとも近隣の岐阜羽島SCや浜松SCでしっかり充電できれば移動の経路充電には差し障りないでしょうし、あまり名古屋への経路充電としてのSC設置は重要視されていないんでしょうかね。
SCの利用料を支払うのは当然としても、SCを利用するために駐車料金を追加で支払うとなると、テスラチャージングカードやJTBおでかけカードなどを使ってCHAdeMO 50kW機でしっかり30分充電したほうが安上がりになるのではないか、と感じてしまいます。場合によってはマナー違反を承知の上でお代わりした方が…なんて気にもなりそうです。
もちろんNCSの30分制限を受けることもなくゆっくり食事ができるなどSCのメリットも大きいですし、私自身もテスラをお借りしたときは極力SCを活用して他のEVにCHAdeMOを譲れれば、と考えながら運転していたのですが、やはりコストの部分は大きい気がします。
SCに限らずCHAdeMOでもそうなんですが、経路充電としての充電器利用を目的としているのに、充電料金に加えて駐車料金を支払わなければならない状況はなんとかなると良いですね。時間貸駐車場への充電器設置も嬉しいことではあるのですが、普通充電器やデスティネーションチャージングを設置すべきな気もしますし。
JB様、コメントありがとうございます!
https://evsmart.net/spot/aichi/l231002/q231011/v21140/
こちらは、お買い物により優遇はあるそうですが、充電のみの場合は駐車料金がかかります。名古屋名城も、駐車料金かかるようになったかと。
最近の記事の改訂でZESP3とスーパーチャージャーを比較してみましたが、わずかに価格ではZESP3のほうが安いくらいに感じました。基本的には今後も、価格で勝負するというよりは利便性優先のように感じますね。
特に今回の名古屋星が丘は、アーバンタイプとのことで、主に地元の方用なのかなと思います。
evsmartの口コミに、コメントしました。20時までの2時間まで、無料になります。参照下さい。
ダンボ様、口コミご投稿ありがとうございます!前回の、名城では無料時間が短く、かつ一般車駐車を防ぐことが非常に難しかったのですが、今回の充電設備ではその反省が生かされているようですね。素晴らしいと思います。
https://evsmart.net/spot/aichi/l231002/q231011/v21140/
↑負荷軽減のためPC/スマホサイトの更新は少し遅れて行われます。