中国勢のEV競争は新しいフェーズへ〜世界市場進出への急展開

BYDをはじめとする中国の自動車メーカーによる、電気自動車の販売台数が予想を超える急成長を記録。欧州や日本など、世界市場への進出も急展開をみせています。中国勢の躍進をどう理解しておくべきか。アメリカ在住のアナリスト、Lei Xing氏によるレポートです。

中国勢のEV競争は新しいフェーズへ〜世界市場進出への急展開

【元記事】 China EV competition entering new phase by Lei Xing
※冒頭写真は欧州での発売予定価格を伝えるBYDのプレスリリースより引用。

中国のNEV販売台数の成長は予想以上

中国国内で苛烈な競争を繰り広げてきた中国メーカーは舞台を海外に移し、市場を成熟させようとしています。

BYDが中国の新エネルギー市場で勝ち逃げをしようとしている間に、すでに過酷な競争は国内で新しいフェーズに入り、急速に拡大して海外市場も成熟させようとしています。

この状態を表わす中国は「巻(juan)」で、吸い込まれる、巻き込まれる、という意味があります。

単月として初めて9月に20万台以上の新エネルギー車両(NEV)を販売し、BYDは年間200万台のNEVという聞いたこともないペースに徐々に近づいています。今年に入ってから私はBYDが2022年中に150万台のNEVを売ると予想しましたが(参照:BYDは2022年に電気自動車150万台を達成できるのか?)、その速度も凌駕して毎月記録を出すBYDには度肝を抜かれています。第4四半期には30万台を単月で売り、200万台圏を出ずとも、安全圏には入れるのでしょうか。150万台のNEVを売るかではなく、すでにそこが関心事になっています。

それから中国乗用車協会(CPCA)と中国汽車工業協会(CAAM)が発表した9月及び通年のNEV販売台数を俯瞰で見ると(表参照)、第4四半期の月毎の売り上げは70万台以上となり、200万台まで到達した第3四半期に続いて第4四半期には250万台を達成しそうです。ということは、年間のNEV販売台数が700万台近くとなり、その時点までのトータル売り上げが2,800万台以上、去年に続いて年間3桁の成長率、25%の市場シェアとなります。中国のNEV販売台数が600万台を越えると書いた私も侮っていました(参照:電気自動車普及は止まらない! 中国では2022年末までにNEV年間販売台数600万台を達成か)。さらに、2025年までに自動車販売の20%をNEVにするという中国の目標も3年前倒しで達成することになります。

中国における「EV競争」の背景

誰よりも優れたリーダーを持ちながら年間1,000万台に近づきつつある市場で新しく起こっている競争の背景はこのようなものです。

まず、「プロトタイプは簡単、(大量)生産は難しい」とはイーロン・マスクがいつも強調する事です。それが判断材料だとすれば、(中国国内)NEV生産の規模とペースに関して現時点で合格点をとっているのはBYDとテスラだけです。魅力のあるブランドやモデルを試乗に出して大量の予約を取り付けるのは今も大事ではありますが、成功度合いを測る基準にはなりません。BYDとテスラだけが、垂直統合や障害を効率的に把握する能力により、サプライチェーンの混乱の影響を最小限に抑えながらオペレーションの多寡や自らの運命をコントロールして自動生産を上手く行えているのです。この「オペレーション地獄」が、これから中国内外で新しいモデルやブランドをローンチして拡大しようとしている、中国スマートEVスタートアップや「ビッグ3(NIO、Xpeng、Li Auto)」でさえ頭を悩ませるところです。

2つ目、苛烈な競争が行われている中、中国の消費者はスマートEVの価格にうるさく、敏感になってきました。特に30万元~40万元(約622万円~830万円)のプレミアムセグメントですが、トリムのレベルがどのように分けられているのか、レベルごとにどのような機能が付いているかが重要です。最近XpengはG9をローンチして48時間も経たずに、中国消費者の激しい非難に晒されて価格改定に追い込まれたのですが、今月後半のデリバリー準備への逆風になりそうです。そこで傷口に塩を塗り込んだのがLi Autoで、もっとシンプルなトリムレベルと競争力のある価格を持つL8のお披露目とL7のチラ見せを以って即座にG9に‘飛びかかり’ました。トリムレベルはiPhoneのようにProとMaxとなっています。

ただしLi Autoにまったくミスがないわけではありません。事実、同社のスマートEVモデルの1つは市場に出ていた時間が最も短かったようなのです。たった2.5年でL8に取って替わられたONEです。ONEのようなモデルはホットになり得ますが、ローンチの足並みを慎重に揃えないと社内競争で負け、人気があっという間になくなってしまうものです。モデルを増やしたからと言って販売台数が必ずしも増えるわけではありません。勿論BYDでなければ、ですが。そして足元を狙う新しい競争相手が常に現れてくるのです。その好例が最新のスマートEVスタートアップNIUTRONがローンチしたNV で、30万元(約622万円)弱の価格でG9、L8、L7、ES7などを直にターゲットにしています。

3つ目、中国EVメーカーは最も成熟した海外市場に競争を持ち込もうとしています。NIOはベルリンで最も野心的なローンチをしたばかりで、ドイツ、オランダ、デンマーク、スウェーデンに進出することを発表しています。専用のサブスクモデルは物議を醸しましたが、良くも悪くもNIOが広く知られるようになりました。BYDは欧州市場向けに7万2,000ユーロ(約1,050万円)の価格をつけたTangとHangが社内競争をしていますが、ドイツのレンタカー大手Sixt が欧州内でこれから数年以内に利用するためのNEV車両を10万台調達する契約を結びました。さらに、Great Wall Motor(長城汽車)がHavak H6 PHEVをタイでローンチしたタイミングに、BYDはたった数日間でタイ、ラオス、インド、ネパールにATTO3 EVをローンチしました。

自動車輸出台数は世界2位に躍進

中国EVメーカーからは今年、世界中に商品の波が押し寄せました。CAAMによると、中国は9月に昨年同月の倍となる5万台のNEVを輸出し、通年ではNEVの輸出台数が38万9,000台に達して昨年比で3ケタ台の成長率を見せました。中国税関総局の最新データによると、中国は8月に11万2,000台のNEVを輸出し、8月までで輸出量の多かった国トップ3はベルギー、英国、タイでした。今のペースで行くと、中国は2022年に50万台以上のNEVを輸出することになります。また中国は9月までに昨年同期比で55.5%増の合計212万台の自動車を輸出しており、世界2位の自動車輸出量を誇るドイツを抜いて日本の下に着きました。

ここまでは順風満帆だったのでしょうか。いえ、それとは程遠いものでした。Xpeng は承認の問題を抱えて欧州での輸出事業に支障をきたしました。BYDも同じで、オーストラリア向けATTO 3の保障問題で逆風を浴び、後部座席に取り付けるチャイルドシート用の紐に関して問題に直面しようとしています。BYDはGreat Wall MotorのORAとSERESとともに最近のパリモーターショーで人々をあっと言わせましたが(近々別の記事で詳細をお届けします)、中国EVの評判は試されています。

そして海外市場に打って出ているのはEVだけではありません。中国のCATL、Gotion、EVE、CALB、BYDなどのバッテリー大手は中国の外で生産を拡大しており、Gotionはミシガンでのプロジェクトに23億6,000万ドル(約3544億1,064万円)の投資をすることを最近発表し、CATLもメキシコで生産設備の投資をすることになっています。さらにホームでは、Horizon Roboticsのような国内スタートアップが国外自動車メーカーからどんどん支持を得るようになってきています。これはフォルクスワーゲンが地政学的な要素や、ロ-カライゼーションのニーズやスピードを踏まえ、24億ユーロ(約3,522億円)の投資をしたことにも表れています。

私はポッドキャストでいつも言っているのですが、中国勢はいずれどうにかしてやってきます。これからの競争フェーズで勝者と敗者はでてきますが、好きか嫌いか、準備ができているかどうか、地政学的な理由があるかなどに関係なく、BYD、CATL、Horizon Roboticsなどに代表される中国EV企業は世界中に影響を及ぼすでしょう。

(翻訳/杉田 明子)

この記事のコメント(新着順)3件

  1. 「1台あたり200万円の赤字 それでも中国新興EVが資金に困らないわけ」
    https://36kr.jp/204206/

    記事中の「ビッグ3」は
    (他の中国の新興EV企業も似た様なものと思われますが)
    一時期のテスラの様に利益はマイナスなのに株価は上昇の様なので
    黒字転換するまで期待値のみで資金が確保し続けられるかにかかっている様です。
    (テスラもマスク氏が自己資金投入までして倒産回避の時期がありましたね)

  2. >NEV生産の規模とペースに関して現時点で合格点をとっているのはBYDと中国だけです。
    BYDとテスラの間違いだと思います。

    >そこで傷口に塩を塗り込んだのがLi Autoで〜
    以降の文章などちょっと意味がとりにくい箇所があるので、もう少しわかりやすい翻訳をしていただけると嬉しいです。

    中国だけで年間700万台となるとすでに日本の年間販売台数を超えているわけで日本でEVが普及するしないの議論を見てるのがバカらしい気分になります。
    中国でNEVの販売の主力は合弁ではない純中国メーカーのようですが
    このままNEVのシェアが伸びていけば日欧米のメーカーはほぼ締め出されてしまうのではと思ってしまいます

    1. haladd さま、コメント&ご指摘ありがとうございます。

      >NEV生産の規模とペースに関して現時点で合格点をとっているのはBYDと中国だけです。
      BYDとテスラの間違いだと思います。

      記事本文、修正いたしました。

      日本でEVが普及するしないの議論

      日本国内の雰囲気やOEMの取り組みも、早く「新しいフェーズ」に入ってくれるよう、これからもわかりやすい情報発信に取り組みたいと思います。

      ありがとうございました。

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この記事の著者


					杉田 明子

杉田 明子

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

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